R1技術士試験の解答例(①災害・事故対策) | 技術士を目指す人の会

技術士を目指す人の会

勉学を通じて成長をナビゲートする講師。
2008年に技術士合格後、「技術士を目指す人の会」を立ち上げ、多数の技術士を輩出。自身も勉学ノウハウを活かして行政書士、世界史検定2級、電験三種に合格。

令和元年度の技術士二次試験の解答例を作成しました。

今回は必須科目Ⅰ-1です。

これは、上下水道部門の問題ですが、他部門の方も参考になると思いますので、読んでみてください。

 

【問題】

I-1 上下水道事業は,市民生活にとって重要なライフラインであり,災害や事故発生時においても事業を一定のレベルで継続させ,早期に業務レベルを復旧することが必要不可欠である。このため,頻発するさまざまな災害や事故にも実効性のある上下水道事業共通の計画立案と災害リスクの低減が求められている。

上記のような状況を踏まえて,以下の問いに答えよ。(答案用紙3枚以内)

(1)技術者としての立場で多面的な観点から上下水道事業に共通する課題を抽出し分析せよ。

(2)抽出した課題のうち最も重要と考える上下水道事業に共通する課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。

(3)解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。

(4)業務遂行において必要な要件を技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。

 

 

【解説】

必須科目は、リード文でテーマを設定し、(1)(4)で具体的な質問をする構成になっています。

問題Ⅰ-1のリード文ですが、1段落目に「災害や事故発生時においても事業を一定のレベルで継続させ、早期に業務レベルを復旧する」と書いてあります。これは、BCP(事業継続計画)のことなので、解答の中で、BCPに言及する必要があることが解ります。

なお、BCPは、災害発生時に利用できる資源(人・モノ・情報等)に制約がある状況下で、業務を適切に執行する体制を整えること意味します。

次に、2段落目ですが「災害や事故にも実効性のある上下水道事業共通の計画立案と災害リスクの低減が求められている」と書いてあります。災害だけではなく、事故も含めた対策について言及する必要があります。上下水道共通というフレーズがあります。上水道も下水道も、水処理施設、貯水施設、管渠、設備で構成されています。このため、災害・事故対策は共通したものが多く、ザックリとした整理をした上で説明することが求められています。また、「災害リスクの低減」というフレーズがあるため、防災と減災について言及する必要があります。

以上のことを踏まえると、問題Ⅰ-1は災害・事故に関するハード・ソフト対策について体系的に説明することが求められていることがわかります。

なお、災害・事故対策については、H21の必須において大規模地震による影響と技術的対応が出題されています。

次に、(1)(4)の質問についてです。

まず、質問(1)ですが、多面的な観点から課題を抽出することを求められています。多面的ということは複数の課題を列記する必要があるわけです。これについて何を列記するべきか悩ましいところです。

2つのコンセプトが考えられます。1つ目は、災害・事故の分類一覧です。具体的には、地震、豪雨災害、火災、新型感染病、テロ等を列記して内容を述べる方法です。2つ目は、災害・事故対策の分類一覧です。施設の耐震化、更新、移設、防壁設置、BCP等の具体的な提示して内容を示す方法です。どちらも適切ではありますが、1つ目を課題として質問(1)においてクローズアップして、2つ目を具体的な対策として質問(2)で示すのが無難です。

それから、質問(1)に「抽出し分析せよ」というフレーズがあります。何を書くべきか悩ましいですが、災害・事故リスクそれぞれについて上下水道に及ぼす影響を示して、対策を講じる必要性を言及すればいいと思います。

次に、質問(2)ですが、課題の一つをピックアップして複数の解決策を説明することになっています。昨今の自然災害の発生を勘案すると、震災又は豪雨災害をチョイスするのが無難です。対策としては、施設整備による予防(耐震化や施設移設)、被災時のバックアップ、応急対策の充実について内容を説明します。

次に、質問(3)ですが、「解決策に共通して新たに生じうるリスク」というフレーズがあります。解決策というのは、災害・事故の種類によりそれぞれ異なるため、本来、新たに生じるリスクも異なるはずです。これを踏まえると、ここで説明を求められているのは、共通性が高く普遍的な事柄になります。質問(4)についても、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から説明を求められており、一般的な内容になります。

平成26年、『技術士に求められる資質能力』が発表されましたが、その中に、トレードオフと技術者倫理の内容が言及されています。これが解答を作成する上で参考になります。

この内容を踏まえると、質問(3)の「解決策に共通して新たに生じうるリスク」は、複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)が発生することが該当します。その対策としては、リスクの影響の重要度を考慮し、複数の選択肢を提起した上で、最適な解決策を提案することになります。

さらに、質問(4)の「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点」については、業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全、社会の持続性の確保に努めることを意味します。

 

 

【解答例】

1 上下水道に共通する災害・事故に関する課題

上下水道は重要なライフラインであり、施設の機能が停止した場合、断水、汚水処理不良、雨水排除不能等を招き、市民生活に甚大な影響を及ぼすことになる。このため、以下の災害・事故リスクを踏まえ、計画的に防災・減災対策を講じる必要がある。

(1)大地震

地震動により、管路及び管渠の漏水、陥没や取水場、浄水場、ポンプ場、配水池、終末処分場等の損壊が発生する。これ施設の被害により、漏水、断水、汚水の処理不能、雨水の排除不能が発生する。さらに、漏水による道路陥没事故、汚水の公共用水域への流出に伴う浄水の悪化等、二次災害が発生する。津波発生時は、海岸部の終末処分場等が流出・浸水する。

(2)豪雨災害

下水道施設では、雨水ポンプの能力不足による内水氾濫、合流式管路からの越流による河川汚染等が発生する。また、河川氾濫により、ポンプ場や取水場の浸水被害、原水の高濁度による水処理不能等が発生する。道路や橋梁の流失により、埋設管路、管渠、添架管が被害を受け、土石流が発生した場合は、管渠の閉塞、配水池への土砂流入等が発生する。

(3)火災

上下水道施設において過失、放火等による火災が発生した場合、機能停止に陥る。浄水場では水質悪化の原因になり、消化ガス発電を実施しているプラントでの火災は地域に甚大な影響を及ぼす可能性がある。

(4)職員の集団感染

インフルエンザ等に職員が集団感染した場合、業務に支障が生じる。浄水場や終末処分場等の有人施設は運転に支障が生じる。

(5)その他

停電、凝集剤、消毒剤等の供給停止、産業廃棄物処分場での汚泥受入停止等により、施設の運転に支障が生じる。

2 最重要課題に関する解決策

上記の課題のうち、地震は、広範囲で被害が発生する可能性が高いため、最重要と位置づけた。解決策を以下に示す。

(1)施設の耐震化による予防

上下水道施設は、想定地震と施設の重要度に応じた耐震性を備える必要がある。構築物は耐震壁やブレースを整備し、機械電気設備は耐震性のアンカーボルトの設置等を行うとともに、施設全体を更新する中で耐震化を図る。管路は更新・新設にあわせて耐震管を布設し、重要給水施設管路は優先的に耐震化する。液状化により管渠、マンホール等が浮上しないよう、セメント改良土による埋戻し、過剰間隙水圧消散工法のマンホール等を採用する。

(2)バックアップ体制による減災

 災害、事故により施設が機能停止になった場合に備え、連絡管を整備し、施設間のネットワーク化を図る。停電時に備え、浄水場等の基幹施設には自家用発電設備を設ける。

(3)応急対応策の確保

 応急給水用の給水車や仮設給水栓、仮設のマンホールトイレ、応急復旧用の補修用材料の確保を行う。災害、事故発生時に事業を一定レベルで継続させ、早期復旧を実現するためBCPを策定する。BCPは、被災直後に機能する施設、確保できる人員、他都市応援等により確保できる資源を見極めた上で、段階的に復旧を進める方法を明確にする。BCPに基づき定期的に防災訓練を実施する。

3 解決策に共通して新たに生じうるリスクと対策

災害・事故対策は、相反する要求事項が含まている。必要性、経済性を優先して脆弱な施設を整備すれば機能性、安全性が損なれる。こうしたリスクの隠ぺい、偽装により、二次災害が発生する可能性がある。また、設計段階では適切な技術であっても、新たな調査、知見により、地球環境、人体への影響が発覚する場合もある。

こうしたリスクを踏まえ、複数の選択肢を検討し、最適な解決策を提案する。さらに、PDCAサイクルにより改善する。技術者が公共の福祉の確保、法令遵守、継続研鑽を実践できるよう、指導・教育体制を確保する。

また、対策を実施するためには多く費用と期間を要することから、広域連携や官民連携を推進し、合理的な対応策を講じることが重要である。

4 業務遂行において必要な要件

分析・評価、計画、設計、施工、維持管理等、業務遂行におけるの全段階において、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する必要がある。また、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保に努める必要がある。

 

 

【参考文献

・下水道BCP策定マニュアル等

  ・技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)

  ・技術士倫理要領

 

 

※ 令和元年度の試験問題を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 「技術士に求められる資質能力」の解説を見たい人は、こちら をクリックしてください。

 

※ 技術士合格法の平成31年度のテキスト、最初から見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 平成31年度の技術士二試験の予想問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

 

※ 平成30年度の試験問題(上水道及び工業用水道)と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。

※ 平成30年度の技術士二試験の予想問題と解答例を見たい人は、こちら をクリックしてください。