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場面かんもく相談室「いちりづか」

場面緘黙専門のオンライン相談室

「この辺の地理は知らないですが、

間違いなくこっちだと思います」

という道案内みたいなもの

 

前回の記事で「場面緘黙に効果のない治療法」の5つのタイプを説明しました。

ただ実際に、今受けている治療法に効果があるかを見極めるのは、簡単ではないと思います。

 

そこで今回は、「場面緘黙に効果のない治療法」かどうかを見分ける方法を解説します。

一般の保護者の方向けに書いていますので、普通に考えてできる範囲のことで説明します。

 

 

 ①その専門家は「場面緘黙に詳しい」か 

判断のポイントの1つ目は、その専門家が場面緘黙に詳しいかどうか。

専門職の中には、「場面緘黙には詳しくないですが・・・」と前置きして助言する人がいます。

(これも「場面緘黙あるある」

 

詳しくないのになぜ助言できるんだろう?と私は思ってしまいます。

うつ病に詳しくない人にうつ病の助言を受けたくないですし、

家庭菜園に詳しくない人に家庭菜園の助言を受けたくないです。

ですので、場面緘黙に詳しい専門家を探しましょう

 

そして「場面緘黙に詳しくない人の助言は聞かない」ことをお勧めします。

なぜならその助言は間違っている可能性がかなりあるからです。

もちろん適切な内容の助言かもしれません。

しかしそれが適切なのかどうか、保護者は判断することができません。

 

例えば:

場面緘黙に詳しくない人から「無理に話をさせない方がいい」と助言されたとしましょう。

一見、かなりもっともらしい内容にも聞こえますが、本当にこれは正しいでしょうか?

自信をもって「正しい!」「間違ってる!」と言えますか?

 

旅先で道を聞いたときに、

「この辺の道やその場所のことは知らないですが、間違いなくこっちだと思います」

と言われたのと同じです。

知らないのに自信満々で助言するというのは、そういうことなのだと私は思います。

 

「場面緘黙に詳しい人」を探して、適切な助言を聞くことをお勧めします。

 

 ②緘黙症状改善までの具体的な道筋を示してもらえるか 

次の判断のポイントは、「緘黙症状改善までの具体的な道筋を示してもらえるか」です。

これはとても簡単にできることなので、判断のポイントとして非常にお勧めです。

 

どのような道筋で園や学校で話せるようになるのか、ぜひ聞いてみましょう。

場面緘黙の治し方が分かっている人なら、納得できる明解な答えが返ってくるはずです。

 

保護者や本人が納得できる説明が得られない場合は、すぐに他を探しましょう

 

 ③何回か通って、効果が出ているか 

3つ目のポイントは、「効果が出ているか」です。

「場面緘黙に効果のない治療法」の見極めですから、効果が出ているかで判断しましょう。

(短期間で劇的に改善していなくても、効果が出ていればひとまず大丈夫です)

 

ただし、場面緘黙の症状改善は、すぐには効果が出ないこともあります。

頻度も違いますし、「どのくらいの期間で判断するか」は一概には言えません。

 

とは言え、②のところで改善までの道筋を聞いている訳ですから、それを参考にしましょう。

何回かやってみて、当初計画した通りに進まない場合は、計画を修正するはずです。

そういう計画の見直しをちゃんとしているかどうかも判断のポイントです。

 

3ヶ月経って、何の進展もなく、計画の見直しもなければ、効果を疑った方がよいでしょう

 「場面緘黙に効果のない治療法」の分類 

「場面緘黙に効果のない治療法」には、色々なものがあります。

まったく効果のないものから、「ちょっと惜しい」ものまで。

 

これまでの多くの方からの相談から、5つのタイプに分類しました。

 

 

 場面緘黙に効果がある手法だが、その子に適していないもの 

緘黙症状を改善させる方法には、様々なものがあります。

 

代表的なものは、

「放課後に学校で音読の練習」

「録音した声を担任の先生に聞かせる」

「友だちと家で遊ぶ機会を作る」

「お店で声を出して注文する練習」

などです。

どれも、使い方によっては効果があります。

 

ただし、「どの方法でも必ず効果がある」訳ではありません。

その子に合った方法をしっかり選ばなければ、効果がありません。

 

先輩の保護者の手記などで「○○の方法で治った」という話を聞くこともあると思います。

これは情報としては有用です。

ですがそのまま真似をしても上手くいきません。

その子に合った、最適な方法を考える必要があります。

 

心理療法として確立した手法だが、場面緘黙には向いていないもの

心理療法として確立した手法であれば何でも効果がある訳ではありません。

場面緘黙に適していなければ、当然効果はありません。

 

相談でよく出会うのは「箱庭療法」「プレイセラピー」を受けているケースです。

 

「プレイセラピー」を受けている子は、相談にくるケースでは最も多いです。

「自治体の相談機関でプレイセラピーを受けているが、一向に改善しない」

これはもう「場面緘黙あるある」です。


「箱庭療法」を受けている場面緘黙の子にもたまに出会います。

こちらも同じで、ほとんど無意味だと私は考えています。

 

これらの手法で改善しない理由は明白です。

「園や学校で話せるようになること」に取り組んでいないからです。

プレイルームでカウンセラーと遊んでいても、学校で話せるようにはなりません。

 

ASDやADHDなど他の障害に効果があっても、場面緘黙には効果がないものもあります。

例えばASDの子によく使われる「SST」が一例です。

場面緘黙は一般的に「ソーシャルスキル」の問題ではないので、SSTでは改善しません。

もちろん緘黙症状の原因がソーシャルスキルの不足だという子の場合は、効果が期待できます。

 

 知識のない「専門家」が独自に考案した方法 

「関連する分野に精通していても、場面緘黙については詳しくない」という専門家は多いです。

これは私は悪いことだとは思いません。

発達の問題や心身の問題は多様ですから、何でもオールマイティに対応できる人はいません。

私も、自分の専門分野ではないことは詳しくありません。

 

問題なのは、「知らない」ことを素直に認められない「専門家」がいることです。

これは自治体の相談窓口や小児科など、色々な子が相談にくるところで起きやすいと思います。

 

場面緘黙についての知識がない「専門家」に、場面緘黙の相談があったらどうなるでしょう。

「申し訳ありません。場面緘黙については詳しくありません。代わりに○○を紹介します」

と素直に言ってくれれば問題ありません。

 

有害なのは、その場凌ぎでいい加減な方法を編み出して、提案してしまうことです。

そして、よせばいいのにその後も月2回くらいカウンセリングに通わせ続けてしまうことです。

一度この罠にかかってしまうと、長期間この効果のない治療法に費やすことになります。

 

通っても通っても、緘黙症状は改善しません。

改善しなければ暗い気持ちになり、親子共々疲弊します。

そして子どもに「いくらやっても話せるようにならない」という思いを植え付けます。

最悪の展開だと私は思います。

 

 疑似科学的な「治療法」 

「インナーチャイルド」「ホメオパシー」など、多くの非科学的な「治療法」が存在します。

もともと保護者自身がこういうのが好き、というケースが多いのではと推察します。

 

残念なことに、こういった疑似科学にハマっている方は、私のところには相談にきません。

ですのでこういうケースの相談を受けることは多くないのですが、話にはよく聞きます。

 

子どものために、どうか効果のある方法を選んで下さいと願うばかりです。

 

 「治さなくてもいい」という考え方 

これは「治療法」ではないので、厳密には「場面緘黙に効果のない治療法」とは言えません。

ですが緘黙症状の改善を妨げる強力な障壁であるため、ここに加えました。

 

学校の先生や自治体の相談機関などで、これを言われるケースが多いように感じます。

「共生社会だから」

「障害も個性の一部」

「ありのままを受け容れて」

「障害は「治す」ものではない」

「場面緘黙があっても社会で活躍できる」

「場面緘黙があっても自分らしく生きることが大切」

「話せなくても支援機器を使えばコミュニケーションができる」

「障害があっても困らないように支援するのがインクルーシブ教育」

など聞こえのいいことを言われて、追い返されてしまうケースはよくあります。

 

もっとも危険なのは、保護者がこの考え方に納得してしまう場合です。

保護者が「場面緘黙は治さなくてもいい」と思ってしまったらどうなるでしょう。

親の協力がなく、子ども自身の力だけで緘黙症状を改善させるのは、非常に困難です。

 

この考え方が間違っている理由は、とても簡単です。

「場面緘黙は「治らない障害」ではないから」

 

場面緘黙の症状は治すことができます。

緘黙症状に気付いたら、できるだけ早く改善に取り組むことが大切です。

 場面緘黙の症状は治すことができる 

場面緘黙の症状は、適切な対応をすれば改善させることができます。

 

本人に「話せるようになりたい」という意思があれば、必ず話せるようになります

あとは「適切な計画」を立てて、練習を行っていけばいいだけです。

 

場面緘黙の症状は、幼児期から小学生の間に現れることがほとんどです。

小学生の場合なら、1年から数年程度で話せるようになるケースが多いと考えています。

小学校低学年で症状が現れた子なら、中学校入学までにはかなり改善させることができます。

 

もちろん1、2回の相談ですぐによくなったりはしません。

ある程度時間をかけて、継続的に対応していくことが必要です。

それでも上手に対応すれば、3ヶ月から半年程度で効果が現れることが多いです。

 

 時間が経つほど、対応は難しくなる 

一般的に、対応は早ければ早いほど改善しやすいです。

緘黙症状が現れてすぐに対応を開始すれば、短期間で症状を改善できる可能性は高いです。


時間が経てば対応はより難しくなっていく傾向があります。

対応が難しくなる要因は色々ありますが、概ね次のような説明ができると考えています。

 

・本人自身が「話せない」経験を多く積み重ねていく

・「話せない」期間が長くなると、それがその子にとって「当たり前」の状態になっていく

・周りの「話さない子」という見方が強くなってくる

・友だちができづらいなど、人間関係で孤立しやすくなる

・「話せない」ことによって活動が制限されるなど、二次的な問題が生じてくる

・こういった状態が続くことで、心身にマイナスの影響を与える

 

症状が重くなってから対応に取り組めば、改善までにはより長い時間がかかることになります。

 

 症状が改善しない理由 

多くの場合、はっきりした緘黙症状が見られれば、すぐに何らかの対応を行うと思います。

学校や、地域の発達相談窓口、病院などの身近な機関に相談にかかるのではないでしょうか。

 

しかし、こういった身近な機関で対応しているのに、症状が改善しないこともあります

「いちりづか」に相談のある方のほとんどは、すでに他の機関で相談や治療にかかっています。

色々病院にかかっていても治らないから相談にきた、という方も少なくありません。

 

なぜ身近な機関で対応しているのに、症状が改善しないことがあるのでしょうか。

 

これまでそういった方からお話を伺っていて、あることに気付きました。

「効果のない治療法」を受けているケースがかなりあるということです。

 

何もしていないのではなく、「効果のない治療法」を続けているから症状が改善しないのです。

 

 「場面緘黙に効果のない治療法」を紹介する意義 

「効果のない治療法」はただ効果がないだけでなく、症状の改善にとって悪い影響があります。

 

意味のない練習や治療法を続ければ、それだけ症状を長引かせてしまうことになります。

かえって問題を複雑にさせてしまっているケースに出会うことも、稀ではありません。

 

しかし親や本人が、その治療法に効果があるかを判断するのは容易ではありません

そもそも「効果のない治療法」があること自体に、なかなか気付くことができません。

何かの資格や肩書きのある「専門家」から勧められれば、それを信じてしまうでしょう。

 

ではどうすれば、親や本人が「効果のない治療法」があることに気付けるでしょうか。

そして、今受けている治療法に効果があるかを判断するには、どうしたらよいでしょうか。

 

まずは「効果のない治療法」についての情報が必要だと考えました。

ブログのテーマに「場面緘黙に効果のない治療法」を加えることにしたのはそのためです。

 

 治療を受けていても場面緘黙の症状が治らない方へ 

学校や地域の相談機関で治療や対応を受けているのに、緘黙症状が改善しないという方へ。

 

これから「場面緘黙に効果のない治療法」について解説していきます。

もしお子さんやご自身の状況に当てはまることがあれば、治療法を一度見直してみてください。

 

くり返しになりますが、場面緘黙の症状は「適切な対応をすれば」改善させることができます。

1年以上治療を受けても改善の兆しがない方は、対応を見直すことを強くお勧めします。

 

【注意点】

このテーマでは「場面緘黙に効果のない治療法」について解説していきますが、どんな方法でも「絶対に効かない」というものはありません。

その子の状態や、本人の考え方、臨床家との相性、タイミングなどによっては、どんな方法でも効果が現れることはあります。また、多くの場面緘黙のケースには効果がなくても、一部のケースには効果がある方法も存在します。

ですのでここで紹介する方法は「絶対にその方法では治らない」という意味ではありません。受けている治療や対応に効果があるかを判断するための材料にしていただければ幸いです。

前回の続きです。

 

「お願いしたのにやってくれない!」

      にならないための「契約書」

 
「個別の指導計画」を作らなくても、緘黙症状の改善はできます。
ですが、もし作れるならしっかり作っておくことを強くお勧めします。
 
今回は「なぜ個別の指導計画を作った方がいいのか」を説明します。
 
 

 ①「お願いしたのにやってくれない!」を防ぐ 

担任の先生と「話す練習」をする約束をしたのに、全然やってくれない
「場面緘黙あるある」ですね。
 
これが起きてしまうのは「立ち話」「口約束」だから。
なにしろ学校の先生は忙しいです。
その話をしたときは「できそうかな」と思っても、実際にはそんな時間はとれないのかも。
 
ですが、個別の指導計画」があれば話は別です。
個別の指導計画は、学校と本人・保護者の合意の元に作成された「契約書」です。
「忙しいからできない」は言い訳にはできません
「約束したのにやってくれない」ということはおこらなくなります。
(「指導計画」なので、教師がそれを履行しないのは「職務怠慢」になります)
 
<Q「忙しいからできない」なら、個別の指導計画があっても「できない」のでは?>
「できない」ことなら、計画を立てる段階で「それはできません」となるはずです。
計画段階で「できない」ことが分かっていることは、そもそも計画には書きません。
でもそうしたら「何もしない」ことになってしまわないでしょうか?
そのときは、「では何ならできるか」という現実的な落としどころを探りましょう。
「0か100か」ではなく、「現実的にできること」を計画することが大切です。
 

 ②「言語化」することでより計画の精度が高まる 

個別の指導計画を作成するというのは、「言語化する」というプロセスです。

これによって計画の精度が高まります

例えば料理でも、感覚で作るよりもレシピに従ってつくる方が上手にできると思います。
切り方、調味料の量、入れるタイミング、火の強さ・・・細かければ細かいほどいいですね。
 
個別の指導計画を作るときは、まず「本人の願い」をしっかり確認する必要が生じます。
「話せないこと」について本人と向き合って相談するのは、とても大事なことです。
 
そして、曖昧だった「目標」を明確にすることができます。
目標が明確だと、何のためにやっているか分からない練習をしなくてすみます。
「指導の内容と方法」も詳しく決めることができます。
練習方法が具体的に決まっていると、練習に取り組みやすくなります。
 
さらに学期末に「評価」を記載することで、「できたか・できなかったか」がはっきりします
「効果のない練習をダラダラと続ける」こともなくなります。
(↑これも場面緘黙あるあるです)
 
このように、個別の指導計画を作成することによって、計画の精度が格段に高まります。
 

 ③「過度な負担」「苦手な刺激」から子どもを守る 

個別の指導計画には配慮事項を記載することもできます。
「何をするか」だけでなく、「何をしないか」を書くこともできます。
これによって、過度な負担や苦手な刺激から子どもを守ることができます。
 
学校は多数派のルールによって動いています。
この中には、緘黙症状や不安症状の強い子にとってはマイナスなことも数多くあります。
 
<「話すこと」以外で、緘黙症状のある子の苦手なことの例>
・運動すること、ダンスなど大きく体を動かすこと
・文章や絵画など表現すること
・集団の中で過ごすこと、ザワザワした環境で過ごすこと
・人に注目されること、人前で何かの行動をすること
・人前で食事をすること、トイレに行くこと、着替えること などなど
 
このような学校生活の中で出てくる刺激は、ほとんどが予測することが可能です。
ですのであらかじめ対応を検討しておくことができます。
個別の指導計画作成の段階でしっかり対応を考え、共通理解を図っておくとよいでしょう。
 
<書き方の例> ※あくまで「例」です
「強い社交不安の症状により、人前ではダンスをすることができない。このためダンスの時間は特別支援学級で個別の課題学習を行うこととする」
「行動の抑制が強く、特に人前で給食を食べることができない。給食は特別支援学級でカーテンで仕切って食べられるように配慮する」

前回の続きです。

 

本人・保護者と学校との共同作業で

効果のある「個別の指導計画」を作る!

 

 架空の事例による解説 

私が例として作ったものを見ながら解説していきましょう。

 

小学2年生の緘黙症状のある子(架空の例)の通級(自校通級)の個別の指導計画です。

学校では緘黙症状があり、一言も声を出すことができません。

小学1年生から「通級による指導」で週1時間の指導を受けています。

 


 

個別の指導計画で重要なのは、以下の項目です。


1.主訴

2.本人の願い

3.長期目標

4.短期目標

5.指導の内容と方法

6.評価(成果と課題)

 

順番に見ていきましょう。

 

 1.主訴 

主訴とは「そもそも何が問題になっているか」のことです。

通級を利用している子なら、「通級を利用し始めた理由」が主訴になるでしょう。

 

場面緘黙の症状のある子ですから、当然ここには「緘黙症状」に関係することが記載されます

何が問題なのか、なぜ相談にかかっているのかを明確にしておきましょう。

 

緘黙症状の他にも、主訴があるケースもあります。

・学校に行けない

・視線が怖くて教室に入れない

・体の緊張が強くて○○(トイレ、食事、運動など)ができない など

 

緘黙症状・不安症状とは関係のない問題が生じているケースもあります。

・緘黙症状以外の「発達障害」

・学習面の問題

・多動など行動面の問題

・その他の心身の疾患 など

 

 2.本人の願い 

これが最重要項目です。

個別の指導計画は「本人の願い」を踏まえて考えることを意識しましょう。

 

「本人の願い」には色々ありますが、ここでは「主訴」に関係する範囲のもので考えましょう。

緘黙症状に関することがあれば、ここからの計画が考えやすくなります。

 

緘黙症状以外でもっと困っていることやできるようになりたいことがあるケースもあります。

何ができるようになりたいか、優先順位をよく考えるとよいでしょう。

 

【事例の解説】

この例では「本人の願い」は次の2点が挙げられています。

「友だちと話せるようになりたい」

「授業中など、聞かれたときに答えられるようになりたい」

 

これらを達成するためにどうしたらよいかを考えていきます。

 

※ただしこの例では「友だちと話せるようになりたい」の取り組みは書かれていません。

通級では「友だちと話せるようになる」に直接アプローチするのは少し難しいためです。

このためこの例では「友だちと話せるようになる」は主に家庭で行うことを想定しています。

(そのように書かれてはいませんが)

 

 3.長期目標と4.短期目標 

「長期目標」「短期目標」がそれぞれどのくらいの期間を指すのか明確な決まりはありません。

 

私のイメージは以下の通りです。

・長期目標は数年(1、2年から、小学校低学年なら小学校卒業・中学校入学くらいまで)

・短期目標は数週間~数ヶ月(学期末か、長くても年度末まで)

 

短期目標は、長期目標とつながりのあるものでなければなりません

複数の短期目標を達成することが長期目標達成につながる、という流れを意識しましょう。

このため、短期目標の方がより細分化された具体的な記述になります。

 

短期目標は、1学期で現実的に達成可能な目標を設定するとよいでしょう。

「今学期中に何ができるようになることを目指すか」という視点で考えてください。

 

長期・短期目標で最も重要なのは「本人と相談して決定する」という点です。

本人と相談しながら、現実的に達成可能な目標を設定しましょう。

 

【事例の解説】

この例では、それぞれ以下のように目標を設定しています。

・長期目標「学校で友だちや先生と話せるようになる」

・1学期の短期目標「家で音読を録音し、通級の教室で再生させることができる」

・2学期の短期目標「通級の先生に、音読の録音を聞かせることができる」

 

長期目標の期間は、小学2年生なので「高学年になるくらい」をイメージしています。

「4年生頃までに、学校で友だちや先生と話せるようになったらいいなぁ」という感じです。

 

その長期目標を達成するために、通級では「音読を学校で再生」に取り組むことになりました。つまり短期目標を考える段階で、「指導の内容と方法」もセットで考えているということです。

1学期中に通級の教室で録音の再生ができて、

2学期には通級の先生に聞かせられるようになって、

そして3学期には・・・、

といった感じで短期目標をクリアしていくことで、長期目標の達成を目指しています。

 

 5.指導の内容と方法 

「どのような練習を行うか」をここに明記します。

ここが曖昧だと、効果的な練習を行うことができません。

「誰が・いつ・何を・どのように」を具体的に記載しましょう


通級ではなく、学級担任に協力してもらい話す練習を行うこともあります。

その場合もここに明記しておきましょう。

 

指導計画に明記してあれば「頼んだのにやってくれない」ということはなくなります。

(もしできないことなら、指導計画作成の段階で「できません」と言われるはずです)

 

【事例の解説】

この例では、以下の内容と方法が書かれています。

・家で教科書の音読を録音し、通級の時間に先生のいないところでぬいぐるみに聞かせる

・先生が廊下にいる状態で録音を再生する

・先生が教室にいる状態で録音を再生する

 

実際の練習はもっと細かいスモールステップを設定して行っていきます。

「個別の指導計画」は毎週書き直す訳にはいかないので、このくらいでも構いません。

 

この例では「録音を聞かせる」という練習方法を採用しています。

録音を使った練習についてはこちらに書きましたので、ご参照下さい。

 

 6.評価(成果と課題) 

練習はPDCAサイクルで進めていきます。

学期末に短期目標が達成されたかどうかをしっかり見直し、次の練習方法を考えましょう。

 

・短期目標が達成されていたら

 →次の短期目標とそのための練習方法を考えましょう。

 

・短期目標が達成されていなかったら

 →達成されなかったのはなぜかをしっかり考えましょう。

 ・難易度が高すぎた

 ・練習回数が足りなかった

 ・本人の意欲が湧かなかった

 ・他の理由

 

ここの見直しができれば、1学期でうまくいかなくても2学期で成果を出すことができます。

 

【事例の解説】

この例では、以下のように書かれています。

・音読を聞かせる練習が11回できました。はじめは録音するときの不安レベルが・・・

欄の大きさの都合で省略してしまいましたが、もし詳しく書くとしたらこんな感じです。

 

・ぬいぐるみに音読を聞かせる練習は1学期で11回できました。最初の2回は「録音するとき」の不安レベル(※1~5で記録)が4でしたが、3回目からは少しずつ下がっていきました。下がった理由を聞くと「慣れた」とのことでした。

不安レベルが2.5まで下がったので、録音を聞かせる相手をぬいぐるみではなく、タブレットのビデオ通話の画像に変えました。○○(先生の名前)が画面越しに映っていて、マイクをOFFにしているので相手には音声は聞こえない状態での再生に挑戦しました。不安レベルは少し上がりましたが、練習を続けるうちにこれも慣れてきたようです。

直接○○に聞かせるのはまだできないそうですが、2学期に挑戦したいとのことでした。

 

 まとめ:本人・保護者と学校との共同作業 

「主訴」から「評価(成果と課題)」までのつながりを説明しました。

このつながりをしっかり意識していけば、よりよい個別の指導計画を作成することができます。

 

個別の指導計画作成は学校側が責任をもって行うものです。

しかし、作成にあたっては本人・保護者との共同作業が不可欠です。

 

本人・保護者・教師で、それぞれの頭の中にあることや考えていることは違います。

「個別の指導計画」という道具を使うことで、共通理解を図ることが可能になります。

連携を促進し、計画を効果的に進めるためのツールとして個別の指導計画を活用してください。