前回の続きです。
本人・保護者と学校との共同作業で
効果のある「個別の指導計画」を作る!
架空の事例による解説
私が例として作ったものを見ながら解説していきましょう。
小学2年生の緘黙症状のある子(架空の例)の通級(自校通級)の個別の指導計画です。
学校では緘黙症状があり、一言も声を出すことができません。
小学1年生から「通級による指導」で週1時間の指導を受けています。
個別の指導計画で重要なのは、以下の項目です。
1.主訴
2.本人の願い
3.長期目標
4.短期目標
5.指導の内容と方法
6.評価(成果と課題)
順番に見ていきましょう。
1.主訴
主訴とは「そもそも何が問題になっているか」のことです。
通級を利用している子なら、「通級を利用し始めた理由」が主訴になるでしょう。
場面緘黙の症状のある子ですから、当然ここには「緘黙症状」に関係することが記載されます。
何が問題なのか、なぜ相談にかかっているのかを明確にしておきましょう。
緘黙症状の他にも、主訴があるケースもあります。
・学校に行けない
・視線が怖くて教室に入れない
・体の緊張が強くて○○(トイレ、食事、運動など)ができない など
緘黙症状・不安症状とは関係のない問題が生じているケースもあります。
・緘黙症状以外の「発達障害」
・学習面の問題
・多動など行動面の問題
・その他の心身の疾患 など
2.本人の願い
これが最重要項目です。
個別の指導計画は「本人の願い」を踏まえて考えることを意識しましょう。
「本人の願い」には色々ありますが、ここでは「主訴」に関係する範囲のもので考えましょう。
緘黙症状に関することがあれば、ここからの計画が考えやすくなります。
緘黙症状以外でもっと困っていることやできるようになりたいことがあるケースもあります。
何ができるようになりたいか、優先順位をよく考えるとよいでしょう。
【事例の解説】
この例では「本人の願い」は次の2点が挙げられています。
「友だちと話せるようになりたい」
「授業中など、聞かれたときに答えられるようになりたい」
これらを達成するためにどうしたらよいかを考えていきます。
※ただしこの例では「友だちと話せるようになりたい」の取り組みは書かれていません。
通級では「友だちと話せるようになる」に直接アプローチするのは少し難しいためです。
このためこの例では「友だちと話せるようになる」は主に家庭で行うことを想定しています。
(そのように書かれてはいませんが)
3.長期目標と4.短期目標
「長期目標」「短期目標」がそれぞれどのくらいの期間を指すのか明確な決まりはありません。
私のイメージは以下の通りです。
・長期目標は数年(1、2年から、小学校低学年なら小学校卒業・中学校入学くらいまで)
・短期目標は数週間~数ヶ月(学期末か、長くても年度末まで)
短期目標は、長期目標とつながりのあるものでなければなりません。
複数の短期目標を達成することが長期目標達成につながる、という流れを意識しましょう。
このため、短期目標の方がより細分化された具体的な記述になります。
短期目標は、1学期で現実的に達成可能な目標を設定するとよいでしょう。
「今学期中に何ができるようになることを目指すか」という視点で考えてください。
長期・短期目標で最も重要なのは「本人と相談して決定する」という点です。
本人と相談しながら、現実的に達成可能な目標を設定しましょう。
【事例の解説】
この例では、それぞれ以下のように目標を設定しています。
・長期目標「学校で友だちや先生と話せるようになる」
・1学期の短期目標「家で音読を録音し、通級の教室で再生させることができる」
・2学期の短期目標「通級の先生に、音読の録音を聞かせることができる」
長期目標の期間は、小学2年生なので「高学年になるくらい」をイメージしています。
「4年生頃までに、学校で友だちや先生と話せるようになったらいいなぁ」という感じです。
その長期目標を達成するために、通級では「音読を学校で再生」に取り組むことになりました。つまり短期目標を考える段階で、「指導の内容と方法」もセットで考えているということです。
1学期中に通級の教室で録音の再生ができて、
2学期には通級の先生に聞かせられるようになって、
そして3学期には・・・、
といった感じで短期目標をクリアしていくことで、長期目標の達成を目指しています。
5.指導の内容と方法
「どのような練習を行うか」をここに明記します。
ここが曖昧だと、効果的な練習を行うことができません。
「誰が・いつ・何を・どのように」を具体的に記載しましょう。
通級ではなく、学級担任に協力してもらい話す練習を行うこともあります。
その場合もここに明記しておきましょう。
指導計画に明記してあれば「頼んだのにやってくれない」ということはなくなります。
(もしできないことなら、指導計画作成の段階で「できません」と言われるはずです)
【事例の解説】
この例では、以下の内容と方法が書かれています。
・家で教科書の音読を録音し、通級の時間に先生のいないところでぬいぐるみに聞かせる
・先生が廊下にいる状態で録音を再生する
・先生が教室にいる状態で録音を再生する
実際の練習はもっと細かいスモールステップを設定して行っていきます。
「個別の指導計画」は毎週書き直す訳にはいかないので、このくらいでも構いません。
この例では「録音を聞かせる」という練習方法を採用しています。
録音を使った練習についてはこちらに書きましたので、ご参照下さい。
6.評価(成果と課題)
練習はPDCAサイクルで進めていきます。
学期末に短期目標が達成されたかどうかをしっかり見直し、次の練習方法を考えましょう。
・短期目標が達成されていたら
→次の短期目標とそのための練習方法を考えましょう。
・短期目標が達成されていなかったら
→達成されなかったのはなぜかをしっかり考えましょう。
・難易度が高すぎた
・練習回数が足りなかった
・本人の意欲が湧かなかった
・他の理由
ここの見直しができれば、1学期でうまくいかなくても2学期で成果を出すことができます。
【事例の解説】
この例では、以下のように書かれています。
・音読を聞かせる練習が11回できました。はじめは録音するときの不安レベルが・・・
欄の大きさの都合で省略してしまいましたが、もし詳しく書くとしたらこんな感じです。
・ぬいぐるみに音読を聞かせる練習は1学期で11回できました。最初の2回は「録音するとき」の不安レベル(※1~5で記録)が4でしたが、3回目からは少しずつ下がっていきました。下がった理由を聞くと「慣れた」とのことでした。
不安レベルが2.5まで下がったので、録音を聞かせる相手をぬいぐるみではなく、タブレットのビデオ通話の画像に変えました。○○(先生の名前)が画面越しに映っていて、マイクをOFFにしているので相手には音声は聞こえない状態での再生に挑戦しました。不安レベルは少し上がりましたが、練習を続けるうちにこれも慣れてきたようです。
直接○○に聞かせるのはまだできないそうですが、2学期に挑戦したいとのことでした。
まとめ:本人・保護者と学校との共同作業
「主訴」から「評価(成果と課題)」までのつながりを説明しました。
このつながりをしっかり意識していけば、よりよい個別の指導計画を作成することができます。
個別の指導計画作成は学校側が責任をもって行うものです。
しかし、作成にあたっては本人・保護者との共同作業が不可欠です。
本人・保護者・教師で、それぞれの頭の中にあることや考えていることは違います。
「個別の指導計画」という道具を使うことで、共通理解を図ることが可能になります。
連携を促進し、計画を効果的に進めるためのツールとして個別の指導計画を活用してください。