「録音」を使って緘黙症状を改善させる方法です。
前回の記事では、録音を使って緘黙症状を改善させた事例を紹介しました。
そこで今回は「録音を使った練習」の方法や工夫について解説します。
「録音を使った練習」
【使いやすさ】★★★★★
「録音」は場面緘黙の症状を改善させる練習でもっともよく使う方法の1つです。
(こちらの記事も参照)
録音した声を聴かせるところから始めて、慣れてきたら直接声を出すことにつなげていきます。
はじめから終わりまでとても細かいステップを設定することが可能で、上手に計画すればとても効果がある練習方法です。
この記事では、
・録音を使った練習の長所
・お勧めの道具
・録音から「会話」につなげる方法(後編で紹介します)
・録音を使った練習の注意点(後編で紹介します)
を紹介します。
録音を使った練習の長所
録音を使った練習が他の練習方法より優れている点がいくつかあります。
◎がついたはじめの3つは、他の練習方法にはない、録音ならではの長所です。
1.自宅でできる(◎)
2.一人でできる(◎)
3.いつでもできる(◎)
4.途中のステップが設定しやすい(○)
5.コミュニケーションの練習につなげやすい(○)
録音の練習は自宅で好きな時間に行うことができます。
これは緘黙症状のある人の「話す練習」にとっては非常に大きなメリットです。
場面緘黙の症状のある人のほとんどは、家では普通に話すことができます。
その普通に話せる状態で練習ができるのが、録音を使った練習の強みです。
また録音自体は一人でもできるので、「他人に聴かれたくない」場合の練習方法としても最適です。
「協力者があまり時間をとれない」といったこともないので、練習の回数も他の方法よりもたくさん設けることができます。
従って、色々な練習方法の中で「行いやすさ」という点で最も優れているのが、録音を使った練習だと言っていいでしょう。
「途中のステップが設定しやすい」「コミュニケーションの練習につなげやすい」は、他の練習方法にも共通して言えることです。
「録音の練習でどうやって途中のステップを設定するの?」と思う方もいるかもしれませんが、それは後ほどご説明します。
お勧めの道具
では録音をするときのお勧めの道具は何でしょうか。
スマホ、ICレコーダー、タブレットなど色々ありますが、私は基本的には「使いやすければ何でもいい」と考えています。
その人にとって使いやすいものを使うのが一番です。
<スマホ>
中学生や高校生でスマホを持っているなら、自分のスマホを使うのがお勧めです。
スマホでの録音はお手軽なだけでなく、そこから先の話す練習にもつながります。
なぜならスマホで録音する練習をすれば、「スマホで話す練習」につなげていきやすいからです。
また、録音したメッセージを機械から再生するのではなく、LINEなどを使って音声ファイルを送って聞かせる場合にも最適な道具と言えます。
親のスマホでも基本的には同じですが、「使いやすさ」という点では少し劣りますね。
本人のしたいときに練習できるという要素も大事なのですが、親のスマホの場合はいつ練習するかが制約されます。
<学校のタブレット・ノートPC>
学校から支給されているタブレットやノートPCも使いやすいです。
「音読を聞かせる」「発表の練習」など、担任の先生に協力してもらって、学習活動の一部として話す練習を行う場合にはお勧めです。
せっかく道具があるのに、「学校のタブレットではメッセージの送信ができない」「そもそも学校のタブレットを持ち帰れない」といった学校のローカルルールが足かせになるケースもあります。
この場合は「合理的配慮」や「個別の指導計画」といった視点から例外的な対応を認めてもらうように話を進めることもできます。
ただ、別に学校のタブレットでなければできない練習ではないので、学校がダメと言うなら別の道具を使った方がよいかもしれません。
<ICレコーダー>
ICレコーダー(ボイスレコーダー)も性能のよいものが安く手に入るようになりましたので、練習用に1台購入するのもお勧めです。
ICレコーダーを使った方がいいケースとして、録音を聞かせる際に音声データで送るのではなく、機械そのものを渡して聞いてもらう方法をとる場合があります。(例:家で録音して、翌日担任の先生に渡して別の部屋で聞いてもらう)
この場合はスマホよりも、やはり専用のICレコーダーが1つあった方がいいでしょう。
学校のタブレットでもできますが、ICレコーダーの方が持ち運びがしやすいという長所があります。
持ち運ぶがしやすい方が継続しやすいですし、朝先生にこっそり渡すのもしやすいです(タブレットだと渡すときに目立ちます)。
<おもちゃ>
録音と再生ができるおもちゃもたくさんあります。
音質や形状などは様々ですが、使いやすいものがあったらおもちゃでもよいですね。
「ボイスチェンジャー」機能がついているおもちゃもあって、これも場面によっては意外と活躍したりします。
<ボイスメッセージが送れる子ども見守りGPS>
スマホと連動させて子どもの位置情報を把握する道具ですが、最近はボイスメッセージを送る機能がついているものもあります。
もしすでにこれを使っているご家庭なら、ICレコーダーを買わなくても話す練習にも活用できますね。
「学校にもってきちゃダメ」と言われないのが長所かも?
<親の使い古したスマホ>
新しいスマホに替えた際に、古い機械がそのまま残っていることがあります。
古い使わなくなったスマホでも、Wifiがつながれば電話以外のかなりの機能がそのまま使えます。
実は高性能なお役立ちアイテムなのです。
<「VOCA」などのコミュニケーション・エイド>
VOCA(ボカ)というのはコミュニケーションを支援するための機器の総称で、STや特別支援学校の先生などの専門職が使います。
昔はコミュニケーション支援と言えばVOCAは代表選手だったので、専門職の方からVOCAの利用を提案されることがあるかもしれません。
ですが今はスマホやICレコーダーがあるので、わざわざ専用のVOCAを使う必要はありません。
身近にある道具でできる練習なら、身近にあるものでやりましょう。
ここまで、「録音を使った練習のメリット」と「お勧めの道具」について説明してきました。
次回は録音から「会話」につなげる方法、そして忘れてはいけない注意点について説明します。
【注意点】
ここに書いてある方法は、効果のある場合もありますし、そうでない場合もあります。
書いてある方法を機械的に実践しても上手くいきません。
練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。