場面かんもく相談室「いちりづか」

場面かんもく相談室「いちりづか」

場面緘黙専門のオンライン相談室

1%の治療的アプローチをするか、しないか

 

 支援99%、治療1%で緘黙症状は治る 

緘黙症状のある子への学校でのアプローチは、大きく分けて次の2つに分かれます。

・緘黙症状があっても「困らないように支援」する

・「緘黙症状を治す」ために積極的に介入する

 

この2つは相反するものではありません。

両方をバランスよく行うことで、無理なく緘黙症状を改善させていくことができます。

 

大まかなイメージとしては「支援99%、治療1%」だと私は考えています。

 

学校生活のほとんどの部分(99%)では、安心して生活できるように支援を行います。

そして残りの1%(1週間のうち30分くらい)で話す練習をしていくのです。

 

練習の時間は1週間に30分あれば十分です。

しっかりした計画に基づいた練習なら、このくらいの時間で十分に効果がでます。

半年から1年、2年くらいで、ほとんどのケースでは緘黙症状を解消させることができます

 

 学校でよくある「話せなくていいよ」型の支援 

ところが、実際には「支援100%」になってしまうケースが少なくありません。

 

「支援100%」とは、次のような状態です。

・学校生活のすべての場面で「話せなくていい」状態にしてしまう

・話すことが必要な場面があっても、すべて何らかの方法で「支援」「配慮」してしまう

・話せるようになるための取り組みを全く行わない

・特別支援学級や通級を利用していても、緘黙症状改善の取り組みを行わない

 

これをしてしまうと、学校の中で話す必要がなくなってしまいます。

もしどこかで練習をしなければ、いつまでも話せるようにはならないかもしれません。

支援のし過ぎが場面緘黙の症状を長期化させる原因になってしまうのです。

 

 「話せなくていいよ」型の支援をしてしまう理由 

こうなってしまう理由は大きく分けて2つあります。

 

1つ目は、教師や支援者が治し方を知らないためです。

そもそも「緘黙症状は治せる」ということを知らなければ、治そうと考えません。

また適切な治し方を知らなければ、積極的なアプローチを躊躇してしまうと思います。

 

2つ目は、教師や支援者の「障害観」によるものです。

「特別支援教育は<支援>を行うことが大切だ」

「障害は無理に治すものではなく、困らないように支援していくことが必要だ」

 

こういった障害観自体は、決して間違いではありません。

では何が違うのかというと、「場面緘黙はそもそも「治らない障害」ではない」という点です。

場面緘黙の症状は、適切な対応によって治すことができるものだからです。
 

 たった1%の治療的アプローチをするか、しないか 

安心して学校生活が送れることは、もちろんとても大切です。

まずは99%の支援によって、安心して過ごせる環境をしっかり整えましょう。

 

そしてほんの1%、治療的アプローチを取り入れましょう。

この1%をするかしないかで、1年後、2年後に話せるようになっているかが違ってくるのです。

 

学校で「話せなくていいよ」型の<支援>を行ってしまっていないでしょうか?

もしそうなら、「緘黙症状を治すこと」についても考え始めてみてください。

 

 

【関連する記事】

 

 

 

【質問】

小学3年生の緘黙症状のある子の保護者からの質問です。

 

新年度になって、担任と支援学級の先生が替わりました。

支援学級の先生は専門的な資格もあるベテランの先生です。

 

ただ「話す練習」についてお願いしたところ、

「緘黙の子はいずれ話すようになる」と力説されてしまいまいた。

緘黙の子も何人か見たことがあるが、みんな中学生、高校生になったら話していたそうです。

「無理に練習をするよりも、今できることを伸ばしていくのが大事」とおっしゃっていました。

 

ベテランの先生にそう言われると確かにそんな気もしてきてしまいます。

それでも「話す練習」は続けた方がいいでしょうか。

 

 

【回答】

その先生の説明は3つの点で間違っています。

しっかり練習を続けて、できるだけ早く緘黙症状を治しましょう。

 

ベテランの先生に自信をもって言われると、それを否定するのはなかなか難しいですね。

まずはこの問題を正しく理解しましょう。

 

この先生の説明は、少なくとも3つの点で間違っています。

順を追って説明しましょう。

 1つ目の間違い:治らない子もいる 

その先生が担当した子は、中学生や高校生で話せるようになっていたとのことです。

確かにそういう子もいます。

 

ですが、放っておいたら中学生、高校生になっても治らない子もいます

「いつか話せるようになる」と思っていて、気づいたら高校生になっていたという子もいます。

私のところに相談があるのはそういうケースなので、私はそういう子を何十人も知っています。

 

高校生になったときにやっぱり「治っていなかった」ってなったら困りますよね?

だから今からしっかり対応していきましょう。

 

 2つ目の間違い:もっと早く治せる 

もし中学生や高校生で治るとしても、私ならもっと早く治すことをお勧めします。

〇〇さんは今年小学3年生ですね。

今から練習をすれば、3年生のうちにかなり症状を改善させることができます

 

それなのに、何もしなければ話せない状態はずっと続いてしまいます。

確かに中学生になるときに話せるようになるかもしれません。

ですが小学校の4年間は話せない状態でいいでしょうか?

 

もし小学生のうちに治せるなら、その方がいいに決まっています。

ですのでこの考え方は明らかに間違っていると言えます。

 

 3つ目の間違い:「無理」な練習ではない 

「無理に練習をするよりも、今できることを伸ばしていくのが大事」とのことです。

これは典型的な「特別支援教育」の考え方だと私は捉えています。

 

特別支援教育では、「治すこと」よりも「支援すること」を優先する傾向があります。

これは「治らない障害」に対しては正しいアプローチです。

ですが、場面緘黙の症状は治らない障害ではありません

 

私が提案している方法は、「無理なく緘黙症状を治す方法」です。

本人とよく相談して、「これならできそうだ」という方法を一緒に選びましたね。

本人ができそうだと言っているのですから、無理な方法ではありません。

 

ですので、安心して「話す練習」を続けていってください。

 

 最大の難関は、「先生の協力を得ること」かもしれない 

ただしここで1つ、重大な問題があります。

それは、練習のターゲットを支援学級の先生にしていることです。

 

前回(3学期)の相談の際に、練習のターゲットを決めましたね。

〇〇さんは「支援学級の先生と話せるようになること」を目指すことにしました。

ですので練習を進めるには、支援学級の先生に協力してもらうことが不可欠です。

 

ところが、その肝心の支援学級の先生が上記のような考えで練習には否定的ということですね。

こういう場合の選択肢は2つです。

 

1.支援学級の先生を説得して協力してもらう

2.練習相手を替える(別の相手をターゲットにする)

 

とは言え、やはり本人の希望がありますので、できれば1.の方でいきたいですね。

支援学級の先生は関わる時間も長いので、話せるようになることのメリットも大きいです。

ですのでその先生によく理解してもらった上で、練習に協力してもらうのが理想です。

 

 「話せるようになりたい」という思いを伝える 

ではどうしたらその先生は練習に協力してくれるでしょうか?

実はこれは、それほど難しくないと思います。

 

まずは「小学生のうちに話せるようになってほしい」と先生に伝えてみてください。

小学校生活をずっと話せない状態で過ごすなんてあまりにも不憫、と訴えましょう。

保護者だけでなく本人の思いが伝えられるとより効果的です。

本人の「小学生のうちに話せるようになりたい」という思いを伝えてみましょう。

 

特別支援教育に長けているベテランの先生なら、分かってもらえると思います。

【質問】

小学2年生の緘黙症状のある子の保護者からの質問です。

 

4月に2年生に進級しました。

新年度の環境について相談したいことがあります。

 

担任の先生は、今年からの新任の若い先生です。

先日学校での様子を聞いたころ、次のようにおっしゃっていました。

「話せなくてもお友だちが手伝ってくれるので、安心しています」

 

お友だちが手伝ってくれるのは確かに安心ですが、何か納得しきれないところがあります。

ここから担任の先生とどのように連携していったらよいでしょうか。

 

 

【回答】

話せないのは全然「安心」なことではありません。

まずは「話せないのは困ること」という認識を共有しましょう。

 

 「話せない」ことは、とても困ること 

「話せなくても困らない」という話をよく聞きますが、これは大変な間違いです。

こちらの記事をご覧ください。

 

 

確かに、周りの支援や配慮があれば、学校生活を無事に過ごすことはできます。

ですが、話せなければやはり困る、ということに変わりはありません。

 

例えば音読や日直などの場面では、どうでしょう。

周りの子が代わりに言ってくれたり、当てられないで飛ばされたりすることになると思います。

それは本当に「安心」していい状態でしょうか?

 

 いつまでも「話せない」状態が続いてしまうリスク 

この問題の最大の注意点は「いつまでも緘黙症状が改善しない」というリスクです。

 

「話せなくても困らない」にしてしまうと、その状態が長く続いてしまう可能性があります。

中学生、高校生になっても話せない状態が続くことも珍しくありません。

こうなってしまってか対応の仕方がよくなかったと後悔するのはやめましょう。

今の時点で問題が認識できているなら、今から対応を開始することをお勧めします。

 

 担当の先生とよく相談し、話せる状態を目指す 

担任の先生は若い方なので、まだこういった問題には詳しくないのだと拝察します。

まずは「話せないことは困ることだ」という認識を共有するところから始めてください。

 

その上で、しっかり計画を立てて話せる状態を目指しましょう。

小学2年生なら、担任の先生と話せるようになるために練習に取り組むのも効果的です。

 

緘黙症状は、適切な対応をすれば数ヶ月から2、3年のうちには改善させることができます。

今から始めれば3、4年生のうちにかなり話せる場面を増やせます

 

「話せなくても困らない」ではなく、「安心して話せる」状態を目指しましょう。

今のうちからしっかり計画を立てて対応していくことを強くお勧めします。

「対面での相談」を再開しました。

 

昨年から一時休止していた「対面での相談」を再開しました。

 

 

・Zoomは使ったことがないから不安

・オンラインでの相談は苦手

・直接会って話したい

・子どもの様子を直接見てほしい

といった方はご利用ください。

こちらの場所で知能検査・発達検査を承ることもできます。

 

 

 

「対面での相談」の内容は、「Zoomでの相談」と同じです。

上記のメニューにある右側の内容も、すべて「対面での相談」でも承ることができます。

 

相談室の場所は長野県上田市にあります。ただし交通が不便なため、公共交通機関での来場は困難です。公共交通機関をご利用の場合は「上田駅への出張」「松本駅への出張」または「その他の場所への出張」をご利用ください。

園や学校で見た子どもの様子が、

家での姿と全然違うことに気付いたら

 

新年度が始まってしばらくすると、園や学校の参観日があります。

親が場面緘黙の症状に気付くきっかけの1つが参観日です。

子どもが園や学校で話していないことに気付いたら、どうしたらよいでしょうか。

 

 先生から知らされるケースの方が多い 

保護者が子どもの緘黙症状に気付くのは、ほとんどが次の2つのパターンです。

・先生から知らされる

・園や学校での様子を見て知る

 

実際には先生から知らされるケースが多いです。

子どもにはっきりした緘黙症状があれば、先生から見ればすぐに分かるからです。

年度当初には気付かなくても、1、2週間学校生活を送れば明らかに分かります。

 

 先生から見て気付きづらいケースもある 

とは言え、中には気付くのが遅れてしまうケースもあります。

それは、園や学校で少しは話せている(=症状が軽い)場合です。

 

例えば次のような状態の子もいます。

・ほとんど話さないが、小さい声で音読はできる

・担任にだけは必要なことを言える

・友だちとは話している様子がある など

 

少しは話せていれば、先生から見ればあまり問題があるようには感じられません

なぜなら園や学校の先生は「家での様子」を知らないからです。

園や学校で大人しければ、「もともと大人しい子」だと思ってしまうかもしれません。

家でいっぱいおしゃべりする子であっても、その違いにはなかなか気付けないのです。

 

 「家での様子と全然違う」と思ったら要注意 

このような場合に気付きの機会になるのが、保護者が園や学校を参観するときです。

 

先生からはただの「大人しい子」に見えても、保護者からは家との違いがはっきり分かります。

「家では元気でよくしゃべるが、学校ではほとんど話さず、小さい声で音読だけはできる」

「家ではたくさんしゃべるのに、学校では担任の先生にだけしか声がでない」

もしこんな様子があったら、すぐに対応を始めた方がよいでしょう。

 

 「参観日に気付いた」の意味していること① 

「参観日に気付いた」というのは、「担任からは知らされなかった」ということを意味します。

これは実はとても大きな問題を含んでいる可能性があります。

 

緘黙症状があるにも関わらず、担任からそれを知らされなかったのはなぜでしょうか?

考えられる可能性は次の2つです。

 

1.教師は子どもの緘黙症状に気付いていなかった

2.教師は子どもの緘黙症状に気付いてはいたが、保護者に情報を伝えていなかった


どちらの場合でも、これは緘黙症状の改善にとってはマイナス要素となる可能性があります。

いずれにしても、担任と保護者との連携を強化していくことが必要になります。

 

これは上記のような症状の軽いケースだけではありません。

様々な事情で(例えば病休で担任が替わるなど)保護者との連携が遅れることもあります。

教師に余裕がなければ、気付きが遅れたりしてしまうこともあります。

症状が重い場合にも見過ごされてしまっているケースがあるのです。

 

 「参観日に気付いた」の意味していること② 

「参観日に気付いた」の意味するもう1つの問題は「対応の遅れ」です。

 

参観日がいつの時期かにもよりますが、それまで対応がなされなかったことは事実です。

4月、5月頃の参観日で気付いたケースでも、昨年度以前から問題があった可能性はあります。

それだけ長い期間、緘黙症状に気付かれずにきてしまったということを意味しています。

 

ですので、保護者が参観日に緘黙症状に気付いた場合は、緊急度が高いと考えましょう

ためらわずにすぐに対応を開始することをお勧めします。

 

 「場面緘黙なのかどうか分からない」という場合 

・ほとんど話さないが、小さい声で音読はできる

・担任にだけは必要なことを言える

・友だちとは話している様子がある

 

こういう子の場合、そもそも「場面緘黙なのか」という判断も難しいです。

病院に連れて行っても、「話しているなら場面緘黙ではない」と言われてしまうこともあります。

そうすると、せっかく早い段階で問題に気づけても、対応につながらなくなってしまいます。

 

こういう場合に重要なのは、「場面緘黙なのか」ではありません

 

「場面緘黙だから対応する」

「場面緘黙には該当しないから対応しない」という考え方は間違いです。

 

場面緘黙かどうかではなく、

「家での様子と全然違うか」「本人が困っているか」で判断しましょう。

 

・家での様子と明らかに違う

・話せない場面や話づらい場面があり、本人が困っている

といった場合は、場面緘黙かどうかに関わらず対応を始めることをお勧めします。

 

 参観日で「話していない」ことに気付いたら 

何をすべきかと言えば、まずは正確な情報収集と効果的な計画を立てることです。

 

①できるだけ早く、担任の先生に相談するのがよいでしょう。

その日のうちに、立ち話でもいいので園・学校での様子を詳しく把握しましょう。

何らかの事情で担任の協力が得られづらそうだと思ったら、他の人に相談しましょう。

養護教諭、特別支援教育コーディネーターなどに相談することができます。

 

また、本人からもよく様子を聞くようにしましょう。

親にも相談できないできたわけですから、一人で問題を抱えてしまっていると考えられます。

中には「親に知られてしまった」のように思っている子もいるかもしれません。

ですので子どもを責めたり、できていないことを叱責したりしてはいけません。

時間をかけてゆっくり話を聴いていってください。

 

そして③今後の具体的な対応について計画を立てることをお勧めします。

緘黙症状は、適切な対応をすれば改善させることができます。

しっかりと計画を立て、園や学校と協力して話せるようになることを目指しましょう。

 

詳しいことはこのテーマの記事を参考にしてください。

 

 

 

 

 

場面緘黙の症状は、早期からの適切な対応が不可欠です。

学校の先生や身近な専門家とよく相談し、なるべく早く対応を始めていきましょう。

 

 

 【注意点】

ここに書いてある方法は、効果のある場合もありますし、そうでない場合もあります。

書いてある方法を機械的に実践しても上手くいきません。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。

認知行動療法や吃音への心理教育など通して、

強い緊張と緘黙症状が大幅に改善したケース

 

【対象】

あきさん(仮名)女性

30代、保育士

 

【概要】

保育士として働いている大人の方のケースです。1年前の4月に「チャットでの相談」の依頼があり、カウンセリングを開始しました。あきさんは日常生活では会話ができ、仕事でも必要なことを話すことはできますが、喉にも体にも力が入って表情も出づらくなり固まってしまうとのことでした。緘黙症状の背景の1つの強い吃音症状もあり、「緊張」と「吃音」の2つによって話せない状態になってしまっていました。認知行動療法による緊張の強い場面の分析や行動の記録、吃音についての心理教育などにより徐々に自己理解が深まり、苦手な場面での緊張を少しずつ減らしていくことができました。1年間のカウンセリングの結果、職場や美容院など様々な場面であまり緊張せず話すことができるようになり、相談終了となりました。

 

 

【相談開始時の状態】

・家族とは話せる

・職場では仕事に必要なことは言えるが、話せなくなってしまうこともある

・同僚や子ども、保護者に自分から話しかけるのは苦手

・職場で子どもから不意に話しかけられると答えられなくなってしまうことがある

・美容院など、見られたり注目されたりする場面はとても緊張する

吃音症状の波があり、ブロックが強く声が出せなくなることがある

 

【緘黙症状改善の経過】

【1回目】初回の聴き取り:チャットでの相談

初回はチャットでの相談でした。あきさんのことや職場のこと、話せなくなってしまう場面のことなどを詳しく聴き取り、これからの治療方針について説明しました。

あきさんはまったく話せないわけではなく、話せる場面でも緊張が強いというのが主な問題だったため、「認知行動療法」の枠組みでの治療を提案しました。まずは緊張が強い場面や話すことが必要な場面について分析するために、1か月程度の行動の記録をつけてくることを宿題にしました。また2回目からはチャットでの相談ではなく、声を出して相談することになりました。

 

【2回目】緊張の強い場面の分析・治療方針の確認:これ以降は音声での相談

2回目からは音声での相談に変更しました。しかし非常に緊張が強く、特に前半は話し始めるまでに長い時間がかかったり、声が震えて聴き取れないくらいの声になることが度々ありました。(この傾向は5回目くらいまでは顕著でしたが、相談を進めるにしたがって軽減され、最終回(9回目)では非常にスムーズに話すことができるようになっていました)

2回目は今後の治療方針とここからの進め方を説明しました。あきさんの場合、強い緊張や緘黙症状の他に、吃音症状も強く影響していることが分かりました。このため緊張が強い場面の分析と並行して、吃音についての心理教育やトレーニングも行うことを確認しました。

 

 

この図は、あきさんに説明する際に作成した画像を修正したものです。心理教育や自己分析、コーピングを増やす、練習による成功体験などによって、好循環を作り出し不安・緊張の軽減を目指す、という計画です。

 

【3回目~8回目】場面分析や心理教育、練習等を通じて緊張が軽減、話せる場面が増える

3回目から8回目は、2ヶ月に1回程度の頻度で相談を続けました。各回の内容として、主に次のようなことを行いました。

3回目:緊張の強い場面の記録を見ながらの分析(これは以降毎回行っています)

4回目:吃音についての心理教育

5回目:特に緊張が強い「美容院」の場面についての分析と対策の相談

6回目:引き続き「美容院」の場面の相談:5回目の内容を踏まえた実践と振り返り

7回目:コーピングの分析(緊張の強い場面で使えそうな対処方法を考える)

8回目:7回目で考えたコーピングを実践してみての振り返り

あきさんの場合、回を重ねるにつれて自己分析が上手になっていき、それに伴って緊張も軽減していきました。また話せる相手が広がるにつれて行動の範囲も広がっていったようで、より行動的・積極的になっていったような印象があります。

 

【9回目】最終回:緊張が減り緘黙症状は概ね解消したため相談終結

9回目は相談開始からちょうど1年後でした。この頃になると行動の記録もとても上手に記録・分析することができるようになっており、またそれに伴って強く緊張する場面も少なくなっていました。

まだ予期せぬできごとや大人数に注目される場面などは緊張してしまうことがあるものの、日常生活を送る上では困ることはなくなったとのことでした。メールには「最近は、初めての場所で声が出なくても、表情だけは出るとか体はわりと自由に動くことも増えて本当に1年前からは想像できなかった事がたくさんあって嬉しいです」ともありました。

相談中もにこやかな表情で話すことができ、初回や初めて音声での相談を始めた2回目とは見違えるような変化がありました。大幅な改善が見られたことが確認できたため、この回をもって相談終結としました。

 

後日、あきさんからコメントをいただきましたので、ご紹介します。

 

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 1年間お世話になりました。
 

もともと、先生の著書は購入して読んだことがありましたので、数年前から存じ上げてはおりました。全く話せない訳でもない、話しづらさはあるけれど仕事はできている状況で相談できるのか、子供の頃からの苦手なものを改善できるのか不安もありながらの初回相談でした。
 
なかなかスムーズに話せないことも多かったですが、ひとつずつ紐解いてもらいながら、練習を積み重ねることで、少しずつ不安が少なくなっていることを実感して、世界が広がったような感覚でした。
1年前までの私では有り得ないくらい自然に人に話しかけられる、挨拶ができることがとても嬉しいです。今までは、できない・苦手を自分で数えているような感じでしたが、うまくいかない場面があっても、だいぶ緩く考えられるようになった気がします。

 

これからは、この1年を自信にして歩んでいきたいと思います。
本当にありがとうございました。

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【解説】緘黙症状のある大人の方の相談について

強い緘黙症状と吃音症状のある大人の方からの相談でした。じつはいちりづかに相談のある方のうち、1~2割程度はあきさんのような大人の方からの相談です。

大人の緘黙症状のある方の場合、一人ひとりの状態がとても大きく異なっています。このため解説の記事にはなかなか書きづらいので、子どもの緘黙症状についての解説の記事が多くなってしまうのですが、実はあきさんのような大人の方からの相談は多いです。

大人の方からの相談の場合、緘黙症状の改善を目指した「話す練習」だけでなく、今回の例のように「認知行動療法」を組み合わせて行うことが多いです。また背景にある問題は人それぞれなので、それに応じたトレーニングや心理教育、環境調整などを行うこともあります(あきさんの場合は「吃音」への対応が大きな課題の一つでした)。もちろん、シンプルに緘黙症状の改善を目指しているケースもあります。

あきさんのような大人の方からの相談でいつも思うのは、本人に「話せるようになりたい」「できるようになりたい」という気持ちが強ければ、こちらもそれに応えて一緒に問題の解決を目指して行けるということです。どんなに症状が重くても、本人が諦めなければ症状の改善や問題の解決は可能です。

もちろん、人によってかかる時間は違います。あきさんの場合はちょうど1年間で相談終結となりましたが、これは大人の方からの相談としてはかなり短期間だと私は思います。もちろんもっと短い期間で顕著な改善を示す方もいますが、多くの場合は長い時間をかけて少しずつ症状が改善していくと考えています。それまでの10年、20年という長い期間、緘黙症状があった訳ですから、それを少しずつ改善させていくにはやはりそれなりの時間がかかるのだと私は考えています。

それでも、焦らず少しずつ進めていけば、必ず場面緘黙の症状は改善させることができます。何歳からでも遅くはないので、今話せないことで困っている人も、緘黙症状の改善を目指して一歩を踏み出していってほしいと思います。

 

 

 【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。

4月に場面緘黙の症状が治る子は多い

 

毎年4月のこの時期は、新年度の学校の様子から聞き取りを始めます。

 

4月になると学校の環境が大きく変わります。

緘黙症状のある子にとっては先生やクラスメイトが変わるのは大きなチャンスです。

このため私はいつも、「新しい環境で話せる」ことを目指して1年間の計画を考えます。

 

話せない自分」を知らない相手なら声が出せるという子は多いです。

ですのでこの時期は、「学校で話せました」という報告がたくさん寄せられます。

前年度からしっかり準備をすれば、新しい先生やクラスメイトと話せる可能性は高まります。

 

今日は、2件続けて話せるようになって相談終了となりました。

1人は4年間一度も学校で話せなかった子、もう1人は教室に入れず別室登校になっていた子。

どちらも昨年度の途中から相談を開始して、1年経たずに改善させることができました。

 

4月は1年間で最も場面緘黙の症状が治りやすい季節だと思います。

小学6年生の夏から練習を開始し、

中学校入学で緘黙症状が解消した子

 

【対象】

さちこさん(仮名)女性

相談開始時は小学6年生

 

【概要】

保育園年中の頃から緘黙症状がありました。小学6年生の夏に相談があり、学校で話せるようになるための練習を開始しました。同時に中学校との連携もスタートし、緘黙症状の解消を目指しました。はじめは担任の先生をターゲットに練習を始め、3学期からは「卒業式で話す」ことを目標に、クラスの子にも声を出す練習をしました。

練習は順調に進み、中学校入学後は学校で話せるようになりました。話せない場面はすべてなくなったため、相談終了となりました。

 

 

【相談開始時の状態】

・家ではリラックスしてよく話す。

・担任や専科など学校の先生には一言も声が出せない。

・音読や発表はできないため、先生やお友達が代わりに読んでくれている。

・仲の良い友だち数名とは学校でも話せる。

・5歳から行っている習いごとの先生には声は出せない。

・お店の人にも声が出せない。

 

【緘黙症状改善の経過】

記録用紙の公開の許可をいただきましたので、掲載します。

この記録を見ると、練習開始時点から大幅に症状が改善していったことが分かると思います。

 

 

 

最初は「担任の先生と話す」を目標に練習を行いました。

2学期のうちに担任の先生とは話せるようになったので、「卒業式で話す」にも挑戦しました。

クラスの中で声を出す練習を経て、卒業式でも無事に声が出せたそうです。

 

中学校進学後は、中学の先生とも話せるようになりました。

話せない場面はなくなったことが確認できたので、相談終了としました。

幼児期から8年間続いていた緘黙症状を、半年ほどの練習で完全に治すことができました

 

お母様からコメントをいただきましたので、併せてご紹介します。

 

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長く話せていなかったのにこんなにも短期間で
声を出せるようになり、嬉しい驚きです。
相談して本当に良かったと心から思います。

ぎこちなかった動きが普通になった、
人前で絵が描けるようになった、
話せるお友達が増えてきた、
娘なりに成長しているんだから
そのうちきっと話せるようになる、
そう思っていたのが恥ずかしいです。

話すきっかけを作ることがこんなにも大事だったんだと、
それを早く作ってあげられなかったことを反省しております。

担任の先生との会話や、
卒業式で返事と別れの言葉を言えた事で自信を持ち、
良い中学校生活をスタートができたのかなと思います。
この先どうなるのか期待と不安もあります。
どうすれば良いか迷った時、またご相談させてください。
大変感謝しております。ありがとうございました。

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 【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人・家族の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。

 ⑦高校生(高専生)及びそれ以上 

高校生(高専生を含む:以下同じ)以上になると、個々人の状況は大きく変わってきます。

「コツコツ練習」か「環境の変化で一気に治す」か、個々に応じた方法を選びましょう。

 

 1)高校生以上は個々の状況による違いが大きくなる 

日本の教育制度では、幼児期から小中学生までは基本的に同じようなコースをたどります。

このため、中学生までは比較的共通する要素に関して説明することができました。

 

しかし、高校生以上になると個々の状況による違いがとても大きくなります

例えば中学生と高校生で違う要素として、例えば次の点を挙げることができます。

・高校だけでなく高等専門学校(高専)に在籍する子もいる

・通信制や多部制・単位制など、学校の仕組みが多様になる

・卒業年次が異なる(3年だけでなく、高専は5年、定時制は最長8年など)

・義務教育ではないため、高校に進学しない子もいる

・進路が多様:進学、就職、就労支援等

 

このように、高校生以上になると個々人の状況が大きく変わってきます。

このため、「高校生の対応」「大学生の対応」のような共通の説明はできなくなります。

 

また、大人の場合は緘黙症状だけでなく、個々の抱えている問題自体も大きく異なります。

緘黙症状だけでなく、就職の悩みや職場での人間関係、他の不安症等の併存など様々です。

したがって、これまで以上に個々の状態に応じた対応が必要になります。

 

 2)基本的な対応は、「コツコツ練習」か「環境の変化で一気に治す」か 

とは言え、緘黙症状の改善に関しては基本的な点はどの年齢段階でも同じです。

緘黙症状の改善は「コツコツ練習」か「環境の変化で一気に治す」のいずれかということです。

 

実は、これまでの「年齢ごとの対応」で説明した内容は次のように整理することができます。

・②年長:環境の変化で一気に治す

・③小学1~4年生:コツコツ練習

・④小学5~6年生:環境の変化で一気に治す

・⑤中学1年生:コツコツ練習

・⑥中学2~3年生:環境の変化で一気に治す

 

つまり、年齢によって「コツコツ」と「環境の変化」が変わるということです。

これ自体は高校生や大学生・短大生の場合も、就職している方の場合も同じです。

 

ただし上記の通り、高校生以降の場合は卒業までの年数や進路などが大きく異なります。

従って個々の状況によって、適切な方法を選ぶ必要があるということです。

 

 3)「コツコツ」と「環境の変化」、どちらを選ぶか 

では「コツコツ」と「環境の変化」のどちらを選んだらよいのでしょうか。

判断する目安は「卒業等までの期間」です。

 

大まかに言って、判断の分かれ目は「1年間」だと私は考えています。

卒業までの年数が、

・1年以上あるなら:コツコツ練習して今の環境で話せるようになることを目指しましょう。

・1年未満なら:進学や就職等の環境の変化で一気に治すことを意識した方がよいと思います。
 

「コツコツ練習」の場合は、こちらを参考にしてください。

 

「環境の変化(大学等への進学)で一気に治す」の場合は、こちらを参考にしてください。

 

これは就職している方の場合も同様です。

・今後も職場が変わる見通しがない場合は「コツコツ練習」

・職場が変わる場合は「環境の変化で一気に治す」

 

緘黙症状自体は、適切な方法で練習すれば何歳からでも改善させることができます。

話す練習は何歳からでも始めることができます。

年齢の高い方でも、あきらめずに緘黙症状の改善を目指すことをお勧めします。

 

 

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【注意】

ここに書いてあることは、あくまで一般的な場合の考え方です。

子どもの状態や周りの環境等によって、適切な対応は異なります。

個々の状態に応じて適切に判断してください。

 ⑥中学2~3年生 

中学2年生以降の場合は、高校への進学に合わせて緘黙症状改善を目指しましょう。

中3になってから始めるよりも、中2のうちから準備を進めるのが効果的です。

 

 1)高校進学は緘黙症状を治す最大のチャンス 

これまで、「小学校入学」「中学校進学」で緘黙症状を治す方法をそれぞれ言及してきました。

環境が変わるタイミング緘黙症状が治しやすいのは「高校進学」も同じです。

ここまで緘黙症状が残っている子の場合、高校進学はこれまでで最大のチャンスと言えます。

 

中学校進学と比べて、高校進学の場合は次のような長所があります。

・完全に新しい環境でスタートできる

・選択肢が多いので「自分にあった環境」を選びやすい

・年齢が高いので本人側の準備もしやすい

 

中学生まで話せないままでも、しっかり準備すれば話せる状態で高校生活を始められます。

2年間かけて準備に取り組んで、いい高校生活が送れることを目指しましょう。

 

 2)中学2年生になったら「学校で話せる」よりも「初対面の人と話せる」が大事 

前回の記事では、中学1年生では先生をターゲットに話す練習をしましょうと説明しました。

中1から話す練習が学校の中で進んでいるなら、ぜひそれは続けていきましょう。

 


ですがもし2年生から始める場合は、話が違ってきます。

 

中学2年生から始めるなら、「学校で話せる」よりも「初対面の人と話せる」を目指しましょう。

その理由は、高校で話せるようになるには、初対面の人と話せることが必須だから

中2からしっかり練習を始めて、話せる相手や場面を増やしておくことが大切です。

 

練習方法についてはこちらの記事(小学5~6年生)の後半(4の項目)を参考にしてください。

 

 

 3)中学2年生からでなければダメ? 

この記事では「中学3年生」ではなく「中学2~3年生」と書いています。

これは、できるだけ中学2年生のうちから準備を始めてほしいからです。

 

中学2年生から準備をしてほしい理由は、なによりも「失敗しないため」

せっかくの機会を最大限に活かすためにも、できるだけ丁寧に準備してほしいからです。

 

ではどんな準備が必要でしょうか。

最低限必要になるのは次の3点です。

・初対面の人と話せるようになっておくこと

・「ここなら話せそうだ」と思える高校を選ぶこと

・受験

 

この3つのどれが欠けても、「高校で話す」が上手くいかない可能性が出てきます。

特に、くり返し述べているように1点目はとても重要です。

 

1点目の練習に取り組みながら、「高校選び」と「受験勉強」も計画的に進めていきましょう。

 

 4)高校の選び方 

学校を選ぶ際に気を付けるのはどのような点でしょうか。

これは上記の「④小学5~6年生」の3)の項目に書いたものと基本的には同じです。
 

学校の規模、校風や学校の特色、特別支援教育への理解度などの要素は影響が大きいです。

ですが、やはり私が最も大事だと思うのは「本人の感覚」です。
本人が「ここなら話せそう」と思えることが高校選びの最大のポイントです。
 

高校の選択肢は無数にあります。

いくつかの候補に絞れたら、見学や相談で学校に足を運んでみましょう。

その学校に入学した際に話せる状態の自分をイメージできるでしょうか。

 

丁寧に進めるためにも、2年生のうちから時間をかけて準備を進めましょう。

 

 

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【注意】

ここに書いてあることは、あくまで一般的な場合の考え方です。

子どもの状態や周りの環境等によって、適切な対応は異なります。

個々の状態に応じて適切に判断してください。