【場面緘黙が治ってきた】録音を聞かせる練習からオンラインでの会話へ(高校生) | 場面かんもく相談室「いちりづか」

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録音を使った練習で

オンラインで話せるようになった高校生の紹介です。

 

【対象】

まことさん(仮名)男性

相談開始時は高校1年生

 

【概要】

スマホでメッセージを録音してメールで送ってもらう、という練習から緘黙症状の改善につながったケースです。

もともとは友だちを相手に練習する計画だったのですが、友だちがあまり頻繁に練習に協力してくれなかったため、私にメッセージを送ることになりました。徐々に練習のステップを上げていき、この練習を開始してから3ヶ月ほどでZoomの面談時に直接声での応答ができるようになりました

 

【練習の経過】

<ケースの紹介>

まことさんは強い緘黙症状があり、家族以外と話すことができません。高校1年生のときに私との面談を開始しました。本人には「話せようになりたい」という意思があったので、本人と相談しながら練習を進めていくことになりました。

ただし面談では直接私と話すことはできません。カメラ・マイクOFFにしてお母様と相談してもらう、という形で本人の意思を聴き取っていきました。

練習の目標は「友だちと話せようになりたい」に設定しました。まことさんには声では話せないですがオンラインゲームを一緒にやったりする友だちがいます。ゲーム中も話すことはできませんが、この友だちと話せたらいいなということで、これを目標にしました。

練習の方法をまことさんと色々相談していく中で、「録音した声を聞かせるならできるかもしれない」と分かり、試してみることにしました。何もないところから録音を送るよりも、「友だちから質問してもらって答えを返す」方がやりやすそうだということで、友だちに協力をお願いして練習をしていくことになりました。

実際にやってみると、友だちからの質問(好きなゲームの話題など)に単語で答えを録音して、送信して聞かせることができました。不安レベル(どのくらいその行動の不安度が強いかを1~5で記録してもらっています)も1や2のことが多く、無理なく練習が続けられることが分かりました。

 

ですがここで1つ大きな問題がありました。友だちがあまり練習に協力してくれず(拒否ではなく、単に頻度が多くないだけ)、少ないときは月に1回くらいしか練習ができなかったのです。面談の度に練習の相手や方法を見直した方がよいかを本人と話し合いましたが、まことさんとしては友だちと話せるようになりたいという思いが強く、しばらくは友だちに録音を聞かせる練習を継続しました。

※話す練習をどのくらいの頻度で行うかは人によって異なりますが、どのケースでも「最低でも2週間に1回(月に2回)」は行うように説明しています。本当は週に1回くらいできた方が成果はでやすいのですが、相手の都合で毎週はできないというケースはよくあります。それでも「2週間に1回」を下回ると、練習の機会が少なすぎて成果がでづらくなります(例えば2学期の4ヶ月間でも、2週間に1回のペースだと10回も練習できません)。ですので、現実的に練習の頻度が「2週間に1回」を下回るような場合は、練習の方法自体を見直して、より回数ができる練習方法がないかを検討することにしています。

 

しかし高校卒業も近づいてきて、受験勉強などもあり友だちに協力してもらうのはさらに難しくなっていきました。そこで練習方法を変え、私(高木)と話す練習を行うことになったのです。

そこからの経過の概要は次の通りです。

 

<ステップ1>

練習「メールでの質問に対して、3日後までに音声で録音して返事を送る。頻度は週3回ほど」

最初のお題は「まことさんの好きなゲームについて教えてください」。

 →1ヶ月で9回実施。いずれも不安度は1だったため、次のステップに行くことを検討。

 

<ステップ2>約1ヶ月後~

練習「オンライン面談中に、メールでの質問に対して、音声で録音して返事を送る」(カメラ・マイクはOFFにした状態で録音)

質問は「お昼に食べたものは何ですか」など。

次回の面談までの間、録音して送る練習も継続。

 →オンライン面談2回分で練習を実施。不安レベルは2~1となったため、次のステップを検討。

 

<ステップ3>約3ヶ月後~

練習「オンライン面談中に、リアルタイムで音声で返事をする」(カメラOFF、「はい/いいえ」で答えられるものから開始)

質問は「今日は学校に行きましたか?」「これからゲームはしますか?」など。

 →この練習でオンライン面談を数回続け、「はい/いいえ」以外での返答もできそうだということで「しりとり」や「単語で答える質問」なども実施。

 

・・・このようなステップを経て、私とはオンライン面談中に音で質問に答えることができるようになりました。小さいときから考えても、家族以外と話せたのは初めてのことだそうです

もちろんこれで練習が終了ではありません。今度は友だちと話せるようになることを目指して練習していくことになります。幸い、私と話す練習を行う前よりも、本人の中で話せそうだという感じが増したようです。何とか高校卒業までに、友だちと話せるところまでいけたらいいなと思います。

 

【解説】

比較的緘黙症状の強い高校生のケースでした。高校生で強い緘黙症状があると対応が難しい、と感じる方も多いと思いますが、このように本人とのコミュニケーションができればカウンセリングを進めていくことはできます。

この事例を通じて、「高校生でも緘黙症状は治る」ということを知っていただけたらと思って紹介しました。

 

まことさんは、私がこれまで関わってきた場面緘黙の方の中では非常に珍しいケースです。何が珍しいのかというと、私が直接「話す練習」の相手をしたからです。

いつも私がお勧めしている「話す練習」では、練習する相手は友だちや担任の先生など、私以外の人になります。思い出してみても、私が話す練習の相手をしたケースというのはこれまでに4、5人しかいません。

 

私ではなく友だちや先生を練習の相手にする理由は、「本人がそれを希望するから」です。

「いちりづか」でお勧めしている練習方法はこちらの記事に書いておきましたが、簡単に言うと本人が話せるようになりたい相手と話せるようになることを目指す」というものです。

ですので最初に本人が目標を設定して、それからその目標を達成するための方法を本人と一緒に考えます。そうすると必然的に、私とではなくその相手と練習をすることになるのです。

 

それでは、カウンセラーと話す練習をすることになるのはどういうケースでしょうか。

それは「本人がカウンセラーと練習をすることを希望した」か、「他に練習の相手がいなかった」かのいずれかです。まことさんの場合は後者でした。

 

では、まことさんとの話す練習が上手くいった理由を考えてみましょう。

前回の記事で緘黙症状改善のための3要素【WPC】について述べましたが、まことさんの場合はどうだったでしょうか。

 

【W(本人の意思)】本人が「話せるようになりたい」と思っていた

【P(綿密な計画)】面談で本人とのやりとりができ、一緒に計画を考えることができた

【C(関係者の連携)】練習が継続して行えた

 

はじめはWとPはクリアしていましたが、C(友だちの協力)ができていませんでした。

そこでCの部分を計画を見直し、「高木と話す練習をする」という形でC(関係者の連携)の問題を解決した、ということです。

 

【注意点】

事例の紹介にあたっては、本人及び家族の同意を得ています。

ただし個人に関わる情報ですので、転載は絶対にしないでください

また必要に応じて細部を改変していますので、事実と異なる場合もあります。

 

この事例の紹介はあくまで個別のケースに対して上手くいった方法です。

同様の方法を行っても、他のケースに対しては効果がない場合もあります。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。