録音を使った「話す練習」② 録音から「会話」につなげる方法と、実施する際の注意点 | 場面かんもく相談室「いちりづか」

場面かんもく相談室「いちりづか」

場面緘黙専門のオンライン相談室

「録音を使った練習」の解説の続きです。

 

・録音から「会話」につなげる方法

・録音を使った練習の注意点

について説明します。

 

「録音を使った練習」

【使いやすさ】★★★★★

 

 

録音から「会話」につなげる方法

 

【ステップの例】※途中の段階をかなり省略しています

 

1.「教科書の音読などを家で録音して、翌日担任の先生に聞かせる練習」からスタート

 

  ↓ 慣れてきたら「学校での録音」に挑戦

 

2.「誰もいない時間・場所に(放課後に相談室などで)録音して、翌日担任に聞かせる」

 

  ↓ 学校での録音ができるようになったら「時間と場所を近づける

 

3.「担任からの質問への答えを相談室で録音して、すぐに担任に聞かせる

 

 ここまでできれば、リアルタイムでの応答まであと一歩!

 

 

このように、録音を使った練習では「時間と場所を近づけていく」という考え方が効果的です。

 

「家での音読」から「担任との会話」まで、どのくらい時間がかかるかはケースバイケースです。

始めてしまえば数日でできてしまうこともありますし、かなり細かいステップをつくっていって2年くらいかかってようやく先生からの質問に答えられるようになったケースもあります。

 

「録音した音声を聞かせる」から「会話」につなげるには、どこかの段階で「大きなジャンプ」が必要になります。

ですが計画の立て方によっては、「大きなジャンプ」をかなり小さくすることも可能です。
そのためには、スモールステップを構成する1つ1つの要素をなるべく細かく分解することが大切です。

 

スモールステップを構成する要素は、「人」「場所」「活動(すること)」の3つの条件で考えることができます。

また録音の場合、「録音する方法」「聞かせる方法」の2つの状況で構成されているため、それぞれについて条件を考えていくことができます。

組み合わせの数が増えるということは、それだけスモールステップが作りやすい方法だということです。

 

1)録音する内容

他の練習でも同じですが、何を録音するのか(=活動(すること))の条件は話しやすさを大きく左右します

 

「話す練習」全般でよく使う、一般的な内容

・音読(教科書や新聞のコラムなど)

・なぞなぞ、しりとりなどの声を使った遊び

・質問への返答(事前にもらった質問に答える)

 

「録音を使った練習」ならではの内容

・歌や英語のスピーチなど「声を出す」学習活動

・日記風に今日のできごとを語る、ビデオレターっぽく少し長めに話す

・YouTuberになった気分で紹介や解説の動画

 

このように少し長めに話すのは、他の対面での練習ではしづらいので録音向きの練習です。

基本的には短めの音読などからスタートして、慣れてきたら「質問に答える」「長く話す」に挑戦していくのがお勧めですが、どれをやったらよいかは本人と相談して選びましょう。

 

2)録音する方法

練習の最初は、夕方や夜に自宅で録音するのが一般的です。

 

そこからステップアップして、「場所」や「時間」を変えていくことができます。

慣れてきたら学校の相談室や支援学級の教室での録音に挑戦することもできますし、中間の段階として通学路や校庭、駐車場や車の中での録音もできます。

時間についても、「前日の夜録音する」のと「当日の朝録音する」のでは時間的な距離が異なります。

また学校で録音できるようになれば、録音してから聞かせるまでの時間を短くしていくことができます。

 

3)聞かせる方法

聞かせる方法によってもスモールステップが作れるのが、録音を使った練習の長所です。

 

ICレコーダーで録音して聞いてもらう場合でも、色々な条件が考えられます。

・誰が聞くのか(担任だけか、特定の友だちか、クラス全員か、など)

・その場で聞くか(本人はいるかいないか)、別の場所で聞くか

・すぐに聞くか、時間を決めて聞くか

・スピーカーから音声を出して聞くか、イヤホンで聞くか

・何回聞くか(聞いたらすぐに消去するのか、など)

・どうやって音声データを渡すのか(誰がいつどのように) など

 

4)裏ワザ:「聞かせないで消す」

録音を使った練習の一番最初のステップとして、「録音するだけして、聞かせないで音声データを消去する」という方法も使えます。

 

録音するだけなら一人だけで練習できますし、消してしまえば誰にも聞かれないで済みます。

そして慣れてきたところで「録音した声を誰かに聞かせる」に挑戦すればよい訳です。

これは「練習を聞かれるのは嫌」というケースで、練習の一番初めの段階で使うことがあります。

 

 

録音を使った練習の注意点

 

録音を使った練習をする際の注意点は1つだけ。

「本人とよく相談すること」です。

 

本人がこの方法でいけると思えば絶大な効果を発揮しますが、本人が嫌がったらこの方法を採用するべきではありません。

 

では、もし親や教師がこの方法で練習をしていってほしいと思っているのに、本人が録音を拒否した場合は、どうしたらよいでしょうか。

それは簡単で、他の方法を考えればいいだけです。

 

録音を使った練習は効果的ですが、これしか方法がない訳ではありません。

「話せるようになる」ための方法なんて500通りもあるわけですから、その人にあった方法を選びましょう。

本人とよく相談しながら、効果的に練習を進めていけるといいですね。

 

 

録音を使った練習の小技や工夫などはまだまだありますので、また別の機会にご紹介します。

 

 

【注意点】

ここに書いてある方法は、効果のある場合もありますし、そうでない場合もあります。

書いてある方法を機械的に実践しても上手くいきません。

練習メニューを考えるにあたっては、様々な要素を慎重に考慮した上で、個々に応じた方法を選択するようにしてください。