前回の続きです。
「お願いしたのにやってくれない!」
にならないための「契約書」
「個別の指導計画」を作らなくても、緘黙症状の改善はできます。
ですが、もし作れるならしっかり作っておくことを強くお勧めします。
今回は「なぜ個別の指導計画を作った方がいいのか」を説明します。
①「お願いしたのにやってくれない!」を防ぐ
担任の先生と「話す練習」をする約束をしたのに、全然やってくれない。
「場面緘黙あるある」ですね。
これが起きてしまうのは「立ち話」「口約束」だから。
なにしろ学校の先生は忙しいです。
その話をしたときは「できそうかな」と思っても、実際にはそんな時間はとれないのかも。
ですが、「個別の指導計画」があれば話は別です。
個別の指導計画は、学校と本人・保護者の合意の元に作成された「契約書」です。
(「指導計画」なので、教師がそれを履行しないのは「職務怠慢」になります)
「忙しいからできない」は言い訳にはできません。
「約束したのにやってくれない」ということはおこらなくなります。
<Q「忙しいからできない」なら、個別の指導計画があっても「できない」のでは?>
「できない」ことなら、計画を立てる段階で「それはできません」となるはずです。
計画段階で「できない」ことが分かっていることは、そもそも計画には書きません。
でもそうしたら「何もしない」ことになってしまわないでしょうか?
そのときは、「では何ならできるか」という現実的な落としどころを探りましょう。
「0か100か」ではなく、「現実的にできること」を計画することが大切です。
②「言語化」することでより計画の精度が高まる
個別の指導計画を作成するというのは、「言語化する」というプロセスです。
これによって計画の精度が高まります。
例えば料理でも、感覚で作るよりもレシピに従ってつくる方が上手にできると思います。
切り方、調味料の量、入れるタイミング、火の強さ・・・細かければ細かいほどいいですね。
個別の指導計画を作るときは、まず「本人の願い」をしっかり確認する必要が生じます。
「話せないこと」について本人と向き合って相談するのは、とても大事なことです。
そして、曖昧だった「目標」を明確にすることができます。
目標が明確だと、何のためにやっているか分からない練習をしなくてすみます。
「指導の内容と方法」も詳しく決めることができます。
練習方法が具体的に決まっていると、練習に取り組みやすくなります。
さらに学期末に「評価」を記載することで、「できたか・できなかったか」がはっきりします。
「効果のない練習をダラダラと続ける」こともなくなります。
(↑これも場面緘黙あるあるです)
このように、個別の指導計画を作成することによって、計画の精度が格段に高まります。
③「過度な負担」「苦手な刺激」から子どもを守る
個別の指導計画には配慮事項を記載することもできます。
「何をするか」だけでなく、「何をしないか」を書くこともできます。
これによって、過度な負担や苦手な刺激から子どもを守ることができます。
学校は多数派のルールによって動いています。
この中には、緘黙症状や不安症状の強い子にとってはマイナスなことも数多くあります。
<「話すこと」以外で、緘黙症状のある子の苦手なことの例>
・運動すること、ダンスなど大きく体を動かすこと
・文章や絵画など表現すること
・集団の中で過ごすこと、ザワザワした環境で過ごすこと
・人に注目されること、人前で何かの行動をすること
・人前で食事をすること、トイレに行くこと、着替えること などなど
このような学校生活の中で出てくる刺激は、ほとんどが予測することが可能です。
ですのであらかじめ対応を検討しておくことができます。
個別の指導計画作成の段階でしっかり対応を考え、共通理解を図っておくとよいでしょう。
<書き方の例> ※あくまで「例」です
「強い社交不安の症状により、人前ではダンスをすることができない。このためダンスの時間は特別支援学級で個別の課題学習を行うこととする」
「行動の抑制が強く、特に人前で給食を食べることができない。給食は特別支援学級でカーテンで仕切って食べられるように配慮する」