2025夏の東美正札市
早いもので、先週末には、今年も東京美術倶楽部での正札市が開かれる季節になりました。 年二度のこの催し、行かなかったことはほとんどなく、通い詰めているのですが、正直、ここ数年は惰性で通っている感じ。昔は、何軒かの骨董商から、通知の葉書が来たものですが、近年は、郵送料の高騰もあるのでしょう、わざわざ通知をくれるのは、一軒だけになりました。その葉書を見て、ああもうこの季節かと思いつつも、暑さも厳しいし、どうしようかなと迷ったのですが、兵庫の知人が、わざわざ出て来るということなので、お付き合いすることに。ついでに、高校生の孫が、このところ、茶の湯に興味を示すので、供をさせることにしました。開始時間のすぐ前に着いて、4階の展示場前に行くと、結構な人数が並んでいます。去年年末よりは、確かに人出は多かったように感じました。ただ、今回は外国人の客に一度も遭遇した感じがなかったのは、近年では珍しいことです。さて、知人は、風炉の釜を探しているというので、一緒に探すことに。年末の市と違い、夏ではあり、ある程度の数の風炉釜は出品されていました。知人の所持の備前焼風炉が、結構大きいもので、普通の筒釜では、周りがスカスカになりそうなので、わりと大き目で、裾が広がった感じがよかろうということ。知人が目をつけたのが、吉羽与兵衛、角谷与斎、畠春斎、門脇喜平、鈴木忠兵衛という作家物、五点。古い物では、浄味や道也も見かけましたが、怪しげなので、パス。五点の内、どれがいいか、老巧な道具屋さんに相談することに。道具屋さんの意見では、「吉羽の富士釜は、表千家即中斎の箱書が付いているのが余計(知人は裏千家なので)だろう。角谷の車軸釜は若作だし、この値段では、あまり薦めない。鈴木の車軸釜は、南部釜というブランドが自分は少し気になる。門脇の芦屋写しは、箱だけでも今作らせたら五万もするような高価な箱で、品も金味はいいし、しっかりした作りだと思う。畠の天命筋釜写しは、東京国立博物館にある名物釜の写しで、自分も昔扱ったこともあり、その頃は17万くらいしたので、この値なら安いと思う。あとはご自身の好みの問題です」ということ。プロの見方は、いろいろ参考になるものです。芦屋写しか、天命写しか、全く違うだけに、知人はかなり長い時間悩みましたが、結局、畠春斎をお買い上げ。共蓋と唐銅蓋と両方付いていて、使いでがありそうだし、侘びた感じも風炉に合うと考えられたようです。 一方、孫の方は、初めての場所だし、くっついて来ると思いきや、入場早々、勝手に一人で自由に見に行ってしまい、マイペースなこと、呆れるばかり。先日も、二泊三日で京都旅行をして来るなど、一人歩きが好きなようです。携帯で呼び寄せ、3階・2階は一緒に回らせようとしたのですが、目を離すとどこかへ消えてしまいます。本人に言わせると「ちゃんと見てるよ」というのですが、どんなものなのか。3階の洋画のコーナーは、全く興味を示さず、最初から素通りなのは、私とよく似ています。2階の高級品売り場では、「怖くて触れない」と、感想を漏らし、最低2万からという道具の値段には驚いたらしいのは、彼の境遇からいけば、当然のことかもしれません。「何か欲しいものがあったか?」と訊ねてみると「別に」という答えなのも、自然ではあります。 さて、孫にも気を取られて、いつも以上に雑に見ているので、見落としも多いと思いますが、ちょっと面白いと思ったのは、小ぶりの祥瑞写しの沓形茶碗、印はない書き銘ですが、湖東焼かという感じ、根来塗りの短棨、伊万里の少し変わった面白い図柄の三寸皿のセットなどがありましたが、いずれも売約済み。昨年末は、やたら沢山懐石器具が出ていましたが、今回はサッパリで、代わりに、ガラス物が久しぶりに多く、洋食器や伊万里物もそこそこ出ています。2階の高級品売り場では、非常に大きな金重陶陽の備前水指、箱書も伝来もないが、八十万もする古い独楽棗などが目をひき、小堀権十郎の茶杓が百六十万、松永耳庵の茶杓が五十万という値の差は、やはり遠州系は高いのかなどと感じましたが、いずれも縁のない世界。通知をくれた道具屋さんに、お付き合いで、「何かお薦めは?」と訊ねても、今回は何もということ。淡々斎が、若宗匠時代に好んだ宝善の色絵平茶碗を見せられましたが、購買欲が起きるほどでもなく、今回も手ぶら。 呈茶席は、今回も武者小路流の方で、太宰府の藤丸から取り寄せたというお菓子で一服頂戴。軸は狩野益信の「滝に燕」という佐々木小次郎が喜びそうな図柄に、黒薩摩釣船花入、初代と十一代の寒雉の釜と風炉を組み合わせ、スエーデン製のガラス水指、瀬戸耳付き茶入、文叔の茶杓、小ぶりの蕎麦茶碗、三好木屑の彩色大亀香合などの飾りを拝見して、終わったのが正午。昔は、丁寧に見て周り、二時過ぎまで掛かったものでしたが。それでも、十分疲れて、会場を後にしました。 萍亭主