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死神の精度

伊坂幸太郎・著

短編集ですが、一貫して同じ主人公なので連作短編集と言えるかもしれません。

調査部から派遣された死神が、不慮の死を迎えるとされる人間に接触し、七日間で『可』(=死)もしくは『見送り』の判断をするまでの日々を描いた物語。

伊坂幸太郎さんの作品は初読なのですが、多くが映像化されている理由がわかる気がしました。

おそらく、読み手に対してひとつの場面を提示する場合に、ある程度まで万人に等しいイメージやビジョンを描かせるための『適切』な表現を選ぶのに、非常に長けている作家さんだからなのではないかと思います。

本来それはとても難しいことのはずなのですが、さらりとした描写でそういった『ビジョンの平均化』を可能とするところに、論理的な表現手法のすばらしさを感じさせられました。

余談も余談ですが、金城武さんが大好きなので、彼が主役の死神を演じているこの作品の映画もいつか観たいと思います。

雪の断章

佐々木丸美・著

最近復刊された、佐々木丸美さんの『孤児シリーズ』第一作です。

互いに対抗する大企業の命運を握るのは、昔行方不明になった3人の少女たち。
『孤児シリーズ』はこの3人の少女たちの成長と恋愛、そして周囲で起こる陰謀・殺人の謎をそれぞれ追っていくのですが、一冊でも完結する作品になっています。

佐々木さんの作品は、何よりその文体に特徴があるので、慣れるまでに時間がかかる場合もままあるようです。
が、慣れてしまえばどっぷりと浸ることができる不思議な魅力をもった文章です。

ちなみにこの孤児シリーズ、リンクの仕方が凄まじいので(というより、最終的にほとんどの佐々木さん作品がどこかしらでリンクしています)、違う話を読んでいて「ああ、この時この人はこういう理由でこんなことをしていたのか」、等の発見が拾いきれないほど沢山あって面白いです。

また、3人の少女たちが愛し愛されていく男性たちもそれぞれタイプが違っているので、読む時々で愛のかたちについて考えさせられます。

佐々木丸美さんは、もう随分以前に執筆活動から遠ざかっておられ、熱烈な読者の方々からの度々の復刊要請にもずっと首を横に振っていらっしゃったのですが、ご本人が亡くなられたことで、とうとう復刊の運びとなったようです。

一見すると皮肉な話ですが、シリーズが未完ということを考えると、佐々木さんの気持ちもわからないでもないように思います。
もう続きを書くことはできないのに、復刊されてしまうことには物語の創り手として抵抗があったのではないかと。

ただそれでも、たとえシリーズとしては完結していなくても、このすばらしい物語をより多くの方と共有できる機会が増えたことは、いちファンとして何より嬉しく思います。

ダックスフントのワープ

藤原伊織・著

短編集です。

表題作の『ダックスフントのワープ』とは、大学で心理学を専攻している主人公が、家庭教師をする小学生の少女に話して聞かせる物語のタイトルであり、いわゆる劇中劇と、その聞き手(少女)の心象・環境の変化を主人公の『僕』が追う、という構成になっています。

藤原伊織さんは『テロリストのパラソル』で有名な方ですが、後年はどちらかというとエンターテイメント的な傾向の作品が多くなった中で、繊細な心の機微を捉えた初期の短編であるこの作品は貴重だと思います。

また余談で申し訳ないのですが、私が通勤中に電車でこの話を読んでいたときのことです。
ラスト近くに少女がある言葉をある人へ向けて叫ぶシーンがあるのですが、それも舞台が『駅』ということもあって、朝からひとり号泣してしまいました。

『テロリストのパラソル』も大好きな作品なので、またしっかりと読み返してから感想を書きたいと思います。

藤原さんの作品で描かれる主人公の男性は、皆ひどく禁欲的で、どこか世界に対して距離を置いている人ばかりです。ただだからこそ、それぞれにお酒や仕事、剣道やボクシングなど、なにかひとつ徹底して執着するものがあります。
そうまでストイックな人物を描きだすというのは、きっと藤原さんの持つ『理想』がそこにあって、そして絶対に揺るがないからなのだろうと思います。

藤原さんは、本当に惜しいことに昨年お亡くなりになられました。
心より、ご冥福をお祈り申し上げます。