文責:瀬戸宗一郎
H25予備試験合格
H26司法試験合格(最年少)
twitter:@soichiro_ready
1 はじめに
以下に予備試験直前期に私が実際に何をしていたかを書きたいと思います。ただ、実際に何をしていたかのほかに、なぜそれをしていたか、今だからいえる最善の勉強法、私の意見等が混ざってしまっていますので、その点だけはご了承ください。書いていると意図せず説明口調になってしまうことがあるので、合格体験記とは少し違う文章の雰囲気になってしまいますが、書いてあることのほとんどが私が実際にやっていたことである点は変わりません。
まず、初めにですが、いまから書くことは、私が直前期に何をしていたかという内容ももちろんですが、それ以上に勉強法の一般論的な色彩が強くなっています。なぜかというと、私は直前期とそれ以外とで特に勉強のやり方を変えてはいなかったからです。普段の勉強でも、直前期でも、その最終的な目標は問題を解けるようになることですから、目標が同じである以上、今まで自分がやってきた勉強をそのまま続けていけばいいはずだと考えていたからです。ですので、受験生のみなさんも、自分が今までやってきた勉強法をそのまま続けていただくのが一番かと思います。そのうえで、今から私が下に書くことを、自分と合う部分だけ取り入れてもらえればいいかなと思います。
2 論証と問題の反復
私は、直前期であっても、第一にやるべきことは基本的な論証・問題の反復だと考えていました。実際に勉強の大部分を暗記に割いていたと思います。これにはいくつか理由があります。
まず、司法試験や予備試験は難しい問題が出るので、それを全部解けなければ受からないかのような錯覚に陥りがちです。しかし、実際は時間内にそれを真面目に考えることは極めて困難ですし、また基本論証の暗記すら不十分な人も多いことから、応用的な問題点では勝負がつかず、基本的なことを淡々と書けたかで勝負が決まってしまいます。
また、もし応用的な問題に食らいつくにしても、全てを自分で一から考えるのには無理があり、基本的な論証、基本的な問題を叩き台にしなければなりません。そのうえで、自分が知っている論証や問題とどこが違うかという観点から考えていくことで、筋を外すことは格段に少なくなると思われます。
さらに、試験本番では、制限時間は70分、書く時間を仮に50分とすると、答案構成にかけられる時間は20分しかありません。この20分間で、書くことをすべて決めなければならず、典型論点について考えている時間はありません。難しい問題であればあるほど、前提として典型論点は一瞬で処理する必要があるのです。
ですので、私はたとえ論文直前期であってもやるべきことは普段と同じ、基本的な論証と問題の反復であると考え、それを反復継続していました。なにか違うことや特別なことを殊更にやらなければならないのではないかという不安に駆られる必要はないのではないかと思います。
3 穴を無くす
そのうえで直前期に私が気を付けていたこととして、穴を無くすという意識があります。予備試験では、細かい論点を聞かれることが多く(僕が受けた2回は少なくともそうでした…24年の物上保証人の事前求償権、25年の訴因と択一的認定・しかも捜査と証拠からの出題なし)、しかも、このような問題は基本的なことがほとんどで、暗記が出来てさえいれば本来得点源になりうるものです。しかし、司法試験(予備試験)で覚えるべき論点は七法で1000個(?)ほどあり、細かい論点には穴があることが多く、結果として多くの人が不十分な論述になってしまいます。そして、裏を返せば、他の人と差がつきやすい場所であるということです。細かいながらもあくまで「基本知識」なので、出来なくてもいいという言い訳はできませんし、暗記するだけで差がつくのですから非常に簡単ともいえます。なので、私は、普段の勉強では覚えていない論証を無くすという意識で勉強をしていました。
4 答練・模試は必ず受ける
私は、直前の答練・模試を合わせて5回受験しました。当たり前のことですが、答練・模試は必ず受けましょう。というのも、特に大学生ですが、面倒なのか直前期に答練・模試に行かずに自分で勉強をして試験を受ける人が多いように感じます。しかし、これは未知の問題をちゃんと時間を計って解くという経験ができない、時間配分の練習ができない、全体の中での自分の位置がわからない、などデメリットしかありません。また、中には「予備校の問題は質が悪いから受けない」と言って受けない人もたまに(?)見受けられます。しかし、仮にその仮定が正しいとしても、答練・模試を受けないのは明らかな間違いです。質がどうであろうと、全員が同じ問題を解きその中で順位付けがされるのは変わらないので、必ず受けるようにしてください。自分の全体の中での順位を確認しないまま本試験に臨むのは自殺行為です。
とはいえ、答練は自分の覚えてきたことを表現する練習の場にすぎないので、暗記が第一なのは変わりません。それに答練を一回受けると大体土日の大半が潰れるので、他の勉強に割く時間が削られます。ですので、自分の勉強の進度と相談しながら回数を調整しましょう。最低でも3回(10科目全て)は受けるようにしたほうがいいかと思います。
5 実務基礎科目の比重
おそらくここが一番ネックになっていると思います。ただ、私も合格した年ですら、実務基礎の対策は不十分なまま試験に臨んでいました。刑事実務の事実認定に関しては、答案の書き方が全く分からないまま、本番の試験でも作文をした記憶があります。ですが、それでも実務基礎の評価はBだったので、大した対策が出来ていなかった人が多かったのだと思います。しかも、試験範囲が不明確、予備校の対策も七法ほど追いついていないということもあり、点数が取りやすい科目とはいえず、あまり対策に時間をかけるべきでないとすらいえます。ですので、とりあえずは七法の対策を先決にして、実務基礎はあまり根を詰めて対策をする必要はないでしょう。実務基礎の対策が不十分であると感じても、それはみんな同じですので、殊更不安な気持ちになる必要はありません。
とはいえ、実務基礎の知識が全くないのと多少あるのでは、取れる点数に開きがあることは変わりません。ですので、私は、実務基礎の勉強は、「基本的な知識・問題は一度は見たことがある状態にする」といった程度にサラッとやっていました。
6 実務基礎で勉強すべき範囲
上で述べたように、実務基礎の勉強は「基本的な知識・問題は一度は見たことがある状態にする」といった程度でいいのですから、勉強すべき範囲(私が実際に勉強をした範囲と一致)としては、民事実務が要件事実と証拠法(二段の推定等)、法曹倫理、刑事実務が事実認定と手続(公判前等)、法曹倫理といったくらいでいいでしょう。到達地点もそこまで完璧にする必要はなく、「出てしまったときに筋を外さない程度には書ける」といった程度でいいと思います。
7 民事実務
まずは要件事実です。私が使った教材は、新問題研究要件事実(法曹会)、要件事実問題集(岡口基一)です。どちらの本も、新しい訴訟物が出てくるたびにその要件事実を覚える、なぜそれが要件事実となるのかの理由も覚える、新しい抗弁が出てきたらそれも覚えるといった形で進めていきました。ここで注意すべきは、例えば賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権の場合、「原告は、被告に対し、平成○年○月○日、本件建物を、賃料月額○万円で賃貸した。」「原告は、被告に対し、同日、本件賃貸借契約に基づき、本件建物を引渡した」など、実際にどのように記載するかというテクニック面は聞かれない傾向にあるので、これを覚える必要はないと思います。私は「賃貸借契約の成立(目的物と賃料の記載)」「基づく引渡し」といった程度にやんわりと覚えていました。
本の難易度としては、新問題研究要件事実が超入門書、要件事実問題集が難しいといった感じです。予備試験の要件事実の勉強のために、本来難しい本や分厚い本を読む必要はないと思うので、後者をもし読まれる方がいましたら、基本的な知識の部分のみを覚える程度にして、深入りはしないようにしてください。現在同じ岡口裁判官が執筆された本で、要件事実入門(初級者編)という予備試験受験生向けの本が出ているので、そちらを読んだ方がいいかもしれません。
証拠法については、各予備校から出ている実務基礎テキストで足りるのではないかと思います。私はLECのものを使っていました。これ以上のものが出ても、おそらくできる人は少数だと思うので、大した失点にはなりませんし、これを完璧にするくらいなら点数の取りやすい刑法や商法などをやってほうがいいでしょう。ですので、これらのテキストの証拠法のところを何周かする程度でいいと思います。法曹倫理についても同様でいいでしょう。
なお執行保全は口述では頻出ですが、論文ではまず出ないと思われるので、捨ててしまっていいでしょう。
8 刑事実務
まずは事実認定です。使っていた本は刑事事実認定重要判決50選という本です。55個判例が記載されていますが、このうち重要なものを20個ほど、予備校のテキスト等と対照しながら選び出して、それについての解説を読むといった感じでいいと思います。覚える点は、考慮要素は暗記、あとは判決ではどのような要素を用いてどのような判断がされたかをやんわりと論理だけ覚えておく、といった感じでやっていました。とはいえ、この本はあくまで判例集なので、答案の書き方などが解説されているわけではありません。ですが、私は、時間がなかったこともあり、この本しか読みませんでした。すなわち、答案の書き方がわからないまま本試験に突入したことになります。七法なら即死レベルだと思います。ですが、それでも評価はBでしたので、周りの人も全員いかに対策が追い付いていないのかということだと思います。ですので、繰り返しにはなりますが、実務基礎の対策が追い付いていなくても、それはみんな同じです、殊更にナーバスになる必要はありませんし、むしろ七法で挽回してやるというくらいの気持ちで勉強を進めてください。
一応私が勝手に考えていた答案の書き方のイメージを言うと、ほぼ刑法のあてはめと同じような感じです。一つ一つ事実を抜き出して、逐一評価を加える、その事実からどのようなことが推認できるのかということを書いていく、問題文にある事実はすべて使っていく、といった感じです。例えば「事件の2日後に盗品を所持、弁解が不明瞭→何らかの形で事件に関わっていることが推認される」「入口の防犯カメラには甲のみが映っている、部屋は4階にあり外部から侵入は困難→犯人は甲であることが強く推認」といった風です。誰かの供述があればまずはその供述が信用できるか検討→信用できれば、その供述からどのようなことが推認できるかを同じように書いていました。また、犯人の自白、犯行目撃証言等の直接証拠は補充的に最後に検討するといったくらいのことは気を付けていました。
手続、法曹倫理については、民事実務と同じく、予備校のテキストでやっていました。法曹倫理は毎年民事から出題されるので、刑事の法曹倫理は捨ててもいいかもしれません。
※後日、各論編と称する続編を投稿致します。
なお、瀬戸に対する質問も当該記事のコメント欄へご質問ください。
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