9月26日の日米首脳会談で、日米物品貿易協定(TAG(ティーエージー))について交渉を開始することに合意したとの報道がされました。しかし、アメリカではこれがFTAと報道されていることから、日本の報道でもTAGが実質上のFTAではないかとの疑問が提起されています。そこで、日米共同声明のこの部分を比較してみました。
(1)正文(英文)
3. The United States and Japan will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a United States–Japan Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services, that can produce early achievements.
(2)在日米国大使館発表の訳文
3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する。
(3)外務省発表の訳文
3 日米両国は,所要の国内調整を経た後に,日米物品貿易協定(TAG)について,また,他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても,交渉を開始する。
特別に法律文書として意識しなくても、普通に英語の正文を読めば次の黒文字のような構造であることが分かります。
(クリックして拡大して見てください。)
ここでは、「goods」と「other key areas including services」が「as well as」で同等に扱われていることが分かります。このことから、米国大使館の訳のほうが正確な訳であるということができるでしょう。
日本政府は、「goods」だけを抜き出して「United States–Japan Trade Agreement」にくっつけて、あたかも「United States–Japan Trade Agreement on Goods」なるものがあるように訳しています(赤線の括り)。これは、実質的には役務を含むあらゆる分野を交渉の対象としたFTAでしかない協定を交渉の対象としたことを、国民に隠すための意図的な操作と言わざるを得ません。
ツイッターで、「“goods”の後に“,(コンマ)”があるのでここで切れるのだ」とTAGを正当化する人がいますが、それでは“, that can produce ……”の関係代名詞との接続を無視した訳になってしまいます。
外務省が翻訳で国民を騙すのは、今に始まったことではありません。私が最初に気付いたのが1985年。官報告示されたいわゆる「女性差別撤廃条約」でした。ここでは条約参加国に課せられた保育施設などの社会的サ-ビスの提供を促進(奨励)することについての義務が矮小化された内容で官報告示されました。
最近では、2015年4月の米国連邦議会でのアベ首相の演説が、「トンでも翻訳」とでも表現しなければならない内容で、外務省から公表されました。
外務省が出した翻訳は「政府として正式なもの」かも知れませんが、必ずしも「真実のもの」、「正しいもの」ではありません。「意図的な誤訳」を疑ってかかる必要があります。本当にイヤな政府としか言いようがありません。