(株)ヒューマン・エッジ代表取締役社長・斧出吉隆のブログ -9ページ目

効果的なコーチングについて(3)

前回は、P&Gという会社では「人材育成」が必然としてあったので、「コーチング」そのものも効果的であった、という趣旨の話をしました。「人材育成」が必然というのはどういう意味でしょうか。

実は私が知る限り、(私は1980年から1999年までP&Gに在籍していました)P&Gでは、もともと研修の体系というものがありませんでした。P&G本社をはじめ、世界的に研修の体系が構築されはじめたのが1987年ごろであったように思います。P&G本社の近くに Learning Center と呼ばれる大規模な研修センターができて、そこで研修の年間プログラムが実施されるようになったのはおそらく1990年頃ではなかったでしょうか。

もちろん、そういった研修体系ができる以前から、MBAに行くよりは「P&Gで学べ」といった事が言われていましたから、P&Gのトレーニングはずっと前からビジネスの世界では定評があったわけです。ではそれまで、人材育成に不可欠なトレーニングはどこでどの様に行われていたのでしょうか?

P&Gでは各部門で必要なトレーニングを行っていたのです。

なぜならば、たとえそれがOJTであろうと、OFF-JTであろうと、「人を育てて、個人の業績を向上させ、自分自身の業績向上にもつなげる。その結果、会社の業績が向上し、自分自身の昇進や昇格の機会が増える」という人材育成の原則からすると、ビジネスの結果を向上させるトレーニングを各部門が決定して行うというのは極めて合理的です。

しかも、個人の業績を上げてゆくための手段をコーチングと呼ぼうが呼ぶまいが、そんなことはたいした問題ではないのです。OFF-JTも重要なのですが、各部の上司が行っている日々のOJTを通して、OFF-JTで学んだ事が身についてゆくのです。

P&Gで行われていた、上司から部下へのOJT、それはまさにコーチングの連続です。具体的な達成可能な目標を決めて、それに対して自分のできるタスクを自分で決定し、上司の許可をもらう。もちろんこの間、上司からはいろんなチェックが入り、コーチングが行われるのです。

■例えば、部下の提案で論理的なつながりに不整合がないか?
■メモの効果的な書き方
■時間の管理と優先順位の付け方
■効果的なプレゼンの方法

など、OFF-JTで学んだ内容に肉付けがされていくわけです。上司の部下育成のエネルギーは大変なものだったと思います。

では、なぜP&Gの上司はそこまでして部下を育てる必要があったのか?それは次回で説明いたします。

効果的なコーチングについて(2)

前回はコーチングがOJTの具体的な手段であることを、P&Gに入社したころの私の具体例でご紹介しました。

P&Gという会社は、よく「人材育成の会社」であるといわれます。実際、私がP&Gを退社したのが、1999年の話ですから、辞めてからもう10年がたとうとしています。この間、いろんな人とお会いしましたが、狭い外資系の人脈の世界ですから、元P&Gの誰々をご存知ですか?という質問をよくされます。

私は人事で採用を担当していたこともあって、たいがいの名前は覚えていました。そして、驚くとともに、採用を担当していた私としては、少し嬉しく誇りにも感じるのですが、そういって質問された名前の方々の多くが、P&Gを辞めてから、移った先の会社で、社長、あるいはそれに近い重要なポジションで活躍されていることでした。

なぜ、P&Gでは他社で活躍することができるような人材を、次から次へと輩出できるのか?

これに対する答えはいくつか考えることができます。4つの違ったタイプの外資系企業で勤めた私の経験から考察すると、たとえば、P&Gでは研修が充実している。あるいは、若いうちから大きな仕事を任されるので、知識、経験、スキルの成長が著しい。等々、これ以外にもいくつか考えられますが、一番大きな要素は「日々のOJTを通じたコーチング」であると思います。不思議なことに、P&Gの内部では特にとりたてて「何がコーチングで、どうすればよいのか?」ということについて定まったものはなかったように思います。

それでも私は、敢えてP&Gという会社が人材輩出企業であると呼ばれる所以は、一人一人に対するコーチングの成果だと断言したいと思います。それではP&Gで行われているコーチングは世間一般で行われているコーチングと何が違うのでしょうか?

コーチングを行う必要性が違います。

多くの企業でコーチングという手法が導入されていると思いますが、それはなぜなのでしょうか?

コーチングの目的は「人を育てて、個人の業績を向上させ、自分自身の業績向上にもつなげる。その結果、会社の業績が向上し、自分自身の昇進や昇格の機会が増える」ということです。P&Gでは人を育てない限り、ビジネスも伸びないし、昇進する機会も与えられない、ということが明確に示されていました。管理職の査定にもこの点が明確に反映されていましたので、P&Gでは人材育成のための手段であるコーチングが必要だったのです。

効果的なコーチングについて(1)

今回からはコーチングについて少し話をしてゆくことにします。

まず、コーチングを何のためにおこなうかという目的についてです。それは「コーチを受ける人のモチベイションを向上し、スキルと経験値を上げることによってその人のパフォーマンスをあげること」です。

私自身、人材育成の最終的な到達点は「コーチング」だと信じています。なぜならば、日々のOJTを通じて「人」は成長してゆくからです。

私は最初、P&Gという会社に入りましたが、最初の4ヶ月間はほとんど仕事ができませんでした。もちろん大学院をでて、すぐのころの話ですから、仕事ができなくても当然です。ただ、この4ヶ月間の教育で、-といってもOJTの教育でしたが-論理的思考とはどうあるべきなのか?あるいは戦略的に考えるとはどういう視点を持つべきなのか?といった事を徹底的に仕込まれました。そのときの上司とは正直言ってよい関係ではありませんでしたので、毎日会社に出て行くのが億劫でとてもいやだったことを覚えています。

どの様に仕込まれたかというと、主に文書の書き方です。その当時のP&Gという会社では社内の正式な文書は英語でした。日本語のビジネス文書を書いたことがない新入社員の私に英語のビジネス文書が書けるはずはありません。でも、こういった言い訳が通用しないのも会社という組織です。私は毎日英語の文書を書くことに悪戦苦闘しながら、自分で書いた英文を翌日秘書の方に英文タイプしてもらっていたのです。そのころはまだ、個人が使えるようなワープロなど存在しませんでしたから、全て秘書の方に英文のタイプをお願いしていたのです。

さて、悪戦苦闘して書いた私の英文ビジネス文書は私の上司によって、無残にも原型をほとんど留めることなく、赤ペンで書き直され、時にはこの部分は何のことか分からないと指摘され、惨めな姿となって私の手元に戻ってきていたのです。

私は、戻ってきた英文の文書を書き直して清書し、それを秘書の方に翌日打ってもらうという動作を繰り返していました。直されてまた書き直して、また秘書の方にタイプしてもらうということの繰り返しでした。特に秘書の方には、何度も打ち直してもらうので、申し訳ない思いで一杯でした。

しかし、3ヶ月経ったころから、いわゆるパターンが分ってくるようになったのです。戦略的な考え方について質問されることはあっても、文書の書き直しは非常に少なくなりました。まさしく日々のOJTの成果が出たのです。ただ残念なことにこの上司とは相変わらず信頼関係を築くことはできませんでした。コーチングにとって大切なことが欠けていたんですね。