ボクサー筋とも呼ばれる前鋸筋
今日は、前回の投稿でも少し書いた、肋骨と肩甲骨を繋ぐ、「前鋸筋」という筋肉についてご紹介します。
この筋肉は肩甲骨を前に押し出したり、両手をバンザイする様な動きで使う筋肉です。
この「肩甲骨を前に押し出す」動きはストレート系のパンチで非常に重要な動きになってくる為、前鋸筋は「ボクサー筋」とも呼ばれています。
前鋸筋を使ってストレートを打つと、肩がまっすぐ前に押し出される為、ノーモーションで伸びのあるパンチを打つことが出来ます。
しかしあまり大きい筋肉ではない為、意識できないと使うのが難しい筋肉でもあります(僕はこの筋肉を使うのが非常に苦手でした(^_^;))。
逆にこの筋肉を使えないと、肩を前に押し出そうとしたときに代償動作として、僧帽筋などの筋肉を使うようになります。
僧帽筋を使って肩甲骨を前に押し出すと、肩をすくめるように上に上げながらパンチを打つような動きになります。
この打ち方だとパンチを打つ際に肩が上がるので余計なモーションがひとつ増え、動きを読まれやすくなってしまいます。
そして、肩が上がることで体幹が上に引き伸ばされ、体幹を固めることが難しくなる為、下半身の力をパンチに伝えられなくなります。
つまり、僧帽筋を使って打ったパンチは、腕の力だけで打ついわゆる「手打ち」のパンチになってしまうのです。
そうならない為にも、エクササイズによってこの前鋸筋をしっかりと使えるようにしておく必要があります。
次回はこの前鋸筋を使えるようにする為のエクササイズをご紹介します!
体幹の役割(3)
さて、前回までは体幹をひとつの塊として、下半身の力を腕(パンチ)に、上半身の力を脚(キック)に伝えるという体幹の使い方を書いてきました。
これに加えて、体幹には下半身、または上半身で発生した力を「増幅させて」パンチ、キックに伝える能力があると僕は思っています。
例えば、以前ご紹介した、肩関節の伸張反射を使ったフック。
このフックですが、体幹をしっかり安定させることで、下半身で生まれた力を上半身に伝え、肩関節のバネ、反動で増幅させて打ちます。
同様に、肋骨から肩甲骨にかかる前鋸筋や、脊柱、骨盤から大腿骨にかかる腸腰筋など、
体幹と股関節、肩関節を繋ぐ筋肉のバネを利用してパンチ、キックのパワーを増幅させることが出来ます。
このときもやはり、体幹を固めて安定させ、手足を脱力することで、体幹から伸びる筋肉のバネが最大限に引き出されます。
つまり、体幹でパワーを増幅させるというのは、正確には体幹を固める事でパンチ、キックのパワーを増幅させる「土台」を作れるという事です。
この様に、様々な役割を持つ体幹。
トレーニングの時もただ鍛えるより、動作の中でどの様な役割を持つのかという事を意識してトレーニングする事が大切です。
体幹の役割(2)
前回、体幹をひとつの塊として固定することが重要だという話をさせていただきましたが、ここには注意しなければいけない落とし穴があります。
体幹を固める為には腹筋や背筋、横隔膜など、体幹の様々な筋肉に力を入れて筋力を拮抗させる必要があります。
しかし、身体の中心にある体幹に力を入れて固めると、その影響で手足も力みやすくなります。
手足が力んで動きが悪くなり、スピードが落ちたり攻撃の伸びがなくなってしまってはいくら体幹を固めても逆効果です。
何よりそんなに全身に力を入れたまま動いていると、ものすごく消耗が激しくなり、あっという間に疲れてしまいます。
つまり、体幹をしっかり固めながらも、手足(特に股関節と肩甲骨)は自由に動かせるようにする必要があります。
その為には体幹部分の筋肉に力を入れながら、いかに手足の力を抜けるかがポイントになってきます。
パンチやキックの動作では、右ストレートなら右腕、左ミドルなら左脚と、技を出す際に実際に相手を攻撃する"武器"となる部分を、
当たる瞬間までは身体の中でも特にリラックスさせておく必要があると思います(当たる瞬間には力を入れて固めます)
イメージとしては塊となった体幹を使って、手や足を相手に「投げつける」、「振りまわす」感じでしょうか。
投げつける、振りまわすだけだと正確性のない雑なパンチ、キックになってしまうので、最低限の力で角度や軌道をコントロールします。
こうやって体幹を固めつつ手足を適切に使うことで、全身を効率よく使ったシャープで力強いパンチ、キックが可能になります。
僕も指導の際に体幹のエクササイズを取り入れる事がありますが、体幹を固めつつ手足を大きく動かすメニューを意識しています。
そしてもうひとつの落とし穴はスタミナ面です。
手足をリラックスしていても、体幹をずっと固めたままだと、やはり相当なエネルギーを消費します。
体幹を固めて動きが少ない分、呼吸も難しくなりさらに消耗が激しくなります。
そのため、パンチを打ったり、キックを蹴ったりする瞬間はは体幹を固めますが、その瞬間以外はうまく体幹の力を抜く必要があります。
(一流の選手にはディフェンスしている時も非常にリラックスしていて、相手の攻撃を受け流している選手もいます。)
パンチ、キックを打つときはしっかり体幹を固めて打ち、それ以外のときは身体の力を抜いてなるべくリラックスする。
こういったメリハリをつけていく事で、動きにリズムが生まれ、自然な動きの中で体幹を有効に使うことができるようになります