名建築を歩く「井上靖文学館」 意外に日本的な菊竹清訓の仕事(静岡県) | ひつぞうとおサル妻の山旅日記

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名建築シリーズ57

長泉町井上靖文学館

℡)055‐986-1771

 

往訪日:2024年1月19日

所在地:静岡県駿東郡長泉町東野515‐149

開館時間:10時~17時(水曜休館)

拝観料:一般200円 高校生以下無料

アクセス:東名高速・沼津ICから約15分

駐車場:約40台

■設計:菊竹清訓

■竣工:1973年

 

《しろばんばの世界》

 

ひつぞうです。一月下旬に伊豆の温泉旅に出かけました。そこで建築と文学の落穂ひろいを。昨年長泉町のビュフェ美術館を訪ねた折、双子の施設である井上靖文学館をパスしていました。実はここ(大高正人の同志)菊竹清訓の作品でもあったのです。まずは建築散歩から。

 

★ ★ ★

 

日本国内に作家・井上靖ゆかりの文学館が三箇所(旭川・鳥取・静岡)ある。今では読者の数も減ったが、昭和の時代までは絶大なる人気作家だった。記念館の数がその事実を雄弁に物語っている。旭川は生誕の地、鳥取は家族の疎開地。ちょっと縁を誇るには弱いが、余計なことは言わない方がいい。それに対して伊豆は井上が幼少期を過ごし、多くの少年小説の舞台にもなった(正確には湯ヶ島で、通った旧制中学も沼津だけど)。一度訪ねてみたかった。

 

 

半年ぶりの再訪。前回は夏の暑い盛りだったからか。鬱蒼と藪に囲まれていたはずが、綺麗に刈り込まれている。

 

 

竹林も綺麗になっている。冬だから?

 

 

ここで理由が明らかになった。

 

井上靖記念館は向かいのベルナール・ビュフェ美術館とともに、スルガ銀行頭取肝いりの施設として1973年11月25日に設立された。つまり去年は50周年。2021年に財団管理から町営に変わったこともあり、銅像設立などのイベントがクラウドによって計画。昨年11月25日に無事執り行われたということらしい。

 

「そーゆーことにゃ」サル

 

 

漆喰も綺麗になっている(残念ながらビュフェ美術館は相変わらず水垢で薄汚れたまま。恐らく文学館もそうだったのだろう)。ある意味、我が家としては珍しく間が良かった。

 

「綺麗な建物を見られてよかったにゃ」サル

 

 

斬新な作品を連発した菊竹の作品とは思えないほど古典的な意匠だった。自伝小説『しろばんば』の中で、洪作少年(井上靖がモデル)がおぬい婆さんと暮らした土蔵がモチーフになっているのではないだろうか。

 

 

門を潜ると確かに真新しい銅像と石碑。詩が刻まれている。井上の文学遍歴は詩からスタートしている。銅像は地元の造形作家・堤直美氏の作。ここでポイントを建築に替えよう。まずは建築家・菊竹清訓について。

 

 

菊竹清訓(きくたけ きよのり)(1928-2011)。福岡県久留米市出身の建築家。早稲田大学建築学科卒。村野藤吾の事務所を経て独立。メタボリズム理論を駆使した初期作品から島根県立美術館九州国立博物館など三次元的なうねりが特徴的な後期の大作に至るまで、多くの作品を手掛けた。早大建築学科といえば、登山の建築家、吉阪隆正を思い出す。そして、その弟子で“狂気の建築家”渡邊洋治も。だが、この菊竹先生もかなり“狂気的”な作例が多い。

 

20年近く前に江戸東京博物館(現在改修中)を初めて訪ねた時は心底驚いた。

(以下5点ネットから拝借いたしました)

 

江戸東京博物館(1992年)

 

人物との比較において、その破格さが判るだろう。まるで20世紀のSF映画の宇宙船。

 

ソフィテル東京(1994年)存在せず

 

観たかったなあ。これ。バブル崩壊がなければ…いや、やっぱり無くなっていたな。

 

《都城市民会館》(1966年)現存せず

 

アンモナイト?どこからこんなイメージが湧くのか。

 

館林市役所旧庁舎(1963年)

 

取壊しの是非を巡って論争が続いた。羽島市役所と同じ轍を踏まずに済みそう。

 

 

それに較べると品行方正。この文学館は井上の存命中に起工、そして竣工している。飽くまで井上文学に寄りそい、そのイメージから逸脱しないように心掛けたのだろう。小説を読めば判るが、井上は保守的で客観の美を求める。そして不愉快を不愉快と率直に感じる。臍を曲げられては大変だ。そんな忖度が働いたのではないだろうか。

 

 

一時はノーベル文学賞候補になったね。

 

 

山茶花が美しく咲いている。

 

 

ここが入り口。薄い庇が張り出していた。

 

 

奥まで導線が続いているように見える。

 

 

白は井上文学のイメージカラーなのだそうだ。なぜだろう。そんな小説あったっけ?ちなみに『しろばんば』は頭の白い婆さんの隠喩かもしれないが、直接には雪虫とも呼ばれるアブラムシの仲間。あるいは白銀の穂高が舞台の『氷壁』か。

 

「土蔵のイメージじゃね?」サル

 

だよね。

 

残念ながら内部は撮影NG。菊竹先生の図面も展示されている。ワンフロアを太い支柱が支えるシンプルな構造。中二階になっていて、自由に読書もできる。長く続いて欲しいと思った(平日の朝一番とあって他の客はなかった。その方が静かで個人的には良かった)。

 

 

でも本当に好き(だった)のは2020年に惜しまれつつ廃業した佐渡グランドホテル(1967年)だった。早く宿泊しておけばよかった。こんなオバケみたいなホテル、二度と日本に誕生しないだろう。

 

少し早いが付属のレストランで食事した。ここのカレーはホントに旨い。

 

 

この日は期間限定の牛頬肉カレー。ライスが少な目なのも、この後の投宿を考えると嬉しい。

 

 

ということで次回は文学篇。

 

(つづく)

 

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