2024年4月3日付けの熊本日日新聞のオンライン記事において、

2020年7月豪雨で被災して八代(熊本県八代市)-吉松(鹿児島県湧水町)間で不通が続くJR肥薩線に関し、熊本県と国、JR九州の3者は3日、鉄路による復旧を図ることに基本合意した。対象は八代-人吉(人吉市)間の51・8キロで、10年後の復旧をめどとしている。観光での活用に加え、沿線住民の日常利用も意識した県の復興方針案を、JR九州が受け入れた格好だ。

と報道されたのは、皆さんご存じの通リです。

 

そこで今回は、

  • 延長戦に突入
  • 木村(次期)熊本県知事の考えは?
  • JR九州との合意への道
  • 宮崎新幹線の調査結果の行方
  • 方向転換

の点から考えてみます。

尚、決まったのは肥薩線の八代~人吉間の復旧であり、

人吉─吉松間(35・0キロ)については今後、別途協議する。

となっていますが、これについては、別の機会に書くこととします。

延長戦に突入
 

今回の基本合意の10日程前に、新しい熊本県知事として木村敬さんが当選されました。

投票日は2024年3月24日だったのですが、

九州豪雨で被災のJR肥薩線、鉄道での復旧に月内にも合意…地域の要望に配慮し33年度頃を目指す

というニュースが流れて始めたのが、知事選投票日の直前だったのは「偶然」だとは思うものの、

JR九州は持続可能性の観点から鉄道での復旧に慎重な姿勢だったが、被災から4年近くが経過する中、地域の要望に配慮し、県の復興方針案を受け入れることにした。

とこれまでのJR九州の姿勢が何故急に変わったのかは不思議ですし、一方で、

復興方針案では観光振興に重点を置いていることからJR九州は日常の利用も求めており、県側は次回の検討会議で利用促進について回答を示す方針だ。

と問答が続いていたことが分かります。


普通に考えると、JR九州さんも色んな事情があって、ネット記事

使い勝手が悪すぎ!西九州新幹線「旅行支援でもガラガラ」の根本的原因

と書かれるような路線をこれ以上増やしたくないのでしょう。

ところが、その同じ日の

午後3時20分。急遽、会見を開いた蒲島知事。

という報道において、

合意に目処がたったという事実はありません。ただ、JR九州とはしっかりと今、協議を進めているところです

と蒲島熊本県知事自身がワザワザ言っているのは、誰かがフライング気味なリークをしたことを打ち消す必要があったのかもしれません。


更に、3月下旬になって流れたニュースでは、JR九州の社長が、

持続可能性が問題で、熊本県がボールを握った形になっている。人口減少が見えているし、観光だけでは納得できない

と改めて釘を刺すだけでなく、

来月15日までの蒲島知事の任期にとらわれず協議を行う姿勢もあわせて示しました。

と従来の姿勢に戻ったようにも見えますし、冒頭の記事の末尾に於いても、

古宮洋二・JR九州社長の話 関係者のご尽力に深く感謝申し上げる。2024年度末が目標とされる最終合意に向け、肥薩線が将来にわたり、持続的に地域に必要な役割を果たしていけるよう、鉄道での復旧に向けた検討を深度化していく。

と発言していますし、熊本県との共同ニュースリリースに加えて基本合意書迄もを自社のwebsiteで公開しています。


一般には、会社同士の協議に於いても、基本合意後に詳細を詰める中で最終合意に至らないことは多々あるわけで、基本合意≠最終合意と考えるのなら、当ブログがココで予想した、

「肥薩線復興を踏まえながら持続可能性に関する協議を継続したい」という玉虫色の結論を一旦出した上で延長戦に入るのではないか

相当の状態で、木村(次期)知事に引き継がれることになったようです。

木村(次期)熊本県知事の考えは?

肥薩線の今後を考えるに於いて重要なのは、木村(次期)知事が肥薩線に関して、どのように考えておられるのか?です。

出馬時のインタビュー記事では、

肥薩線は鉄道での再建に向けて全力で取り組む。

と言っておられるものの、知事選挙前に配布された選挙公報

 



の「10の約束」には肥薩線の復旧や県南の復興支援は入っていませんし、項2に書かれた、

不退転の決意で【渋滞解消】を実行!世界に開かれた熊本県の更なる発展を大胆なインフラ整備で実現

の詳細について説明されたwebsiteでも、肥薩線のことが全く触れられていないのは残念です。

ただ、ココでも書いたように、これまでJR肥薩線検討会議に出席してこられたのは田嶋副知事なので遠慮していたとか、プランBを考えていたので敢えて書かなかったとか、他に何か理由があるのかもしれませんが、

蒲島県政のよき流れをさらに強く大きく

と言っている以上、これまでの方針を反故にすることは、まさかないだろうと思うものの、実質的に延長戦に突入した以上、改めて絵を描き直す必要に迫られています。

JR九州との合意への道

東証プライムの上場企業であるJR九州は株主に説明できるだけの計画とその実現性の根拠を求めるのは当然で、熊本県としては「とりあえず、がんばりま~す。」というわけにはいきません。

特に、ココで紹介した29項目の施策の準備に全力で取り組むだけでなく、JR九州が求める「日常の利用」に対しても明確な回答を示す必要があります。

そこで冒頭の記事で、

「持続可能性を高める」との視点でまとめた四つの整理事項を最終確認した。

と書かれている各事項のポイントを指摘してゆきます。

  1. 地元自治体(自治体が設立する法人含む)が線路や駅舎といった施設を保有し、JR九州が運行を担う「上下分離方式」を採用
    ⇒「上下分離方式」については、当ブログでもココらあたりで紹介した流れの通リとなったのでしょうが、安全運航の為の線路の維持や観光客にPR出来る駅舎を運営する体制を用意することとなりますが、既にココで提案したように、(湯前~)人吉~八代間の鉄道業務に於いては、くまがわ鉄道の協力を得ることで解決します。
     
  2. 観光を軸とした地方創生モデルの実現と「マイレール意識の醸成」による日常利用の創出を具体化
    ⇒折角の合意に水を注すつもりはないのですが、「マイレール意識の醸成」するからではなく、実際のニーズへの対応があって初めて鉄道の日常利用が増えるのです。
     
  3. 観光利用と日常利用の充実が図られるよう、再開前までにめどを付ける
    ⇒「再開までにめどを付ける」ということは、肥薩線の復旧と同時に利用客が流れ込むように準備をするということです。
     
  4. 復旧や運営の在り方、数値目標の設定などについては協議を重ね、「可能な限り具体化する」とした。
    ⇒「数値目標の設定」をしたら目標必達が前提となりますし、一旦「可能な限り具体化する」に対しては「頑張ったけど駄目でした。」も認められません。

人吉球磨の日常でよく見る「でけたしこでよかたい。」について、

「でけたしこ」とは「出来た分だけ」という意味。「出来た分でいいよ」も「でけたしこでよかたい」と言われると、なんだかほっこりしますね。

とゴールドパイン社が販売しているTシャツ


説明で書いておられますが、それは言えないのです。

以上を1年間でまとめ上げるのは大変なことですし、人吉球磨が中心になって担わなければならないことが多いのですが、出来上がった詳細計画に対しては「でけたしこでよかたい。」では通らないことを共通認識としましょう。

宮崎新幹線の調査結果の行方

当ブログがココで紹介した宮崎県が委託するコンサルの調査が今年度の秋に上がってきて、

宮崎新幹線は新八代ルートが最適

という結果が出たら、どうなるのでしょう。


勿論、整備新幹線計画にない路線を検討するだけでも大変なことですが、一方で、JR九州が肥薩線復興に際して求める四つの整理事項において、「持続可能性を高める」ような結果が出ない可能性もあります。

その場合には、当ブログが提案する、新・肥薩線(案)が有力な選択肢です。

特に、肥薩線の日常利用を増やすのなら高架&高速化を前提とした「くまがわライナー」の投入により熊本方面への通勤・通学客・出張・ビジネス客の獲得以外の方法はありません。

また、既に熊本県が計画している

新八代駅周辺にコンベンションセンター 工業団地も市内に整備へ

も2027年から順次出来上がるように報道されています。

もちろん、人吉球磨から通う人もいるでしょうが、当初は、

国道219 号災害通行止めに伴い、 令和2年7月7日(火曜)8時よりE3九州自動車道(八代IC~人吉IC)を代替路とした無料措置

を利用したとしても、有料に戻った暁には、(湯前~)人吉~[新・肥薩線]~新八代~[シャトルバス]~各勤務先として貰えば「肥薩線の日常利用」の創出に繋がります。

方向転換

たまたまですが、

河野俊嗣宮崎県知事:昭和63年4月自治省入省(現総務省)入省

木村敬(次期)熊本県知事:1999(平成11)年自治省(現総務省)入省

と旧自治省(現総務省)の先輩後輩の間柄ですから当然面識ぐらいはあるでしょうし、或いは既に旧知の間柄かもしれません。

更に、河野俊嗣宮崎県知事が今月から蒲島前熊本県知事の後任として、九州知事会の会長となります。そこで、蒲島郁夫(現)知事の慰労を兼ねて、河野俊嗣宮崎県知事、木村敬(次期)熊本県知事の3者で会合を持って、当ブログが提案する新・肥薩線~宮崎新幹線(案)について、意見交換をすることから始めれば良いでしょう。

合意すべき点は、

  • 高速運行が可能な新・肥薩線として復興させ、人吉~八代~熊本の利用を先行させる
  • 宮崎新幹線が認可された暁には人吉駅経由とする
  • 新・肥薩線~宮崎新幹線の実現に向けて熊本県と宮崎県が協業する

の3つです。

当然JR九州や国土交通省との再協議が必要になりますし、予算の見直しも発生します。

ただ、元々鉄道や道路は広域間交通なので熊本県内で完結することなどありませんし、次の世代に向けて求められているのは、単に県南の復興だけではなく、社会インフラの強化と経済活動基盤の充実です。

木村(次期)知事自身は、前記のwebsiteで、

世界に開かれた新生シリコンアイランド九州の実現に必要な人流・物流を確保するため、「すべての道は熊本に通じる!」幹線道路インフラの整備を推進するほか、熊本の空の玄関口・阿蘇くまもと空港を活性化します。

と約束しておられます。


確かに九州新幹線や九州縦貫自動車道により九州北部や鹿児島県とは結ばれていますが、宮崎県との十分な人流を確保するためには宮崎新幹線が欠かせません。

当ブログでは、2年以上に渡って肥薩線の再建について提案してきたからか、直近の1ケ月に於いても、約4割のアクセスが肥薩線関連です。

他にも良い記事を書いているので、そちらの方も宜しくと言いたいところなのですが、多くの方が肥薩線の行方に関心を持っていることは間違いないわけで、方向転換に際しては、皆さんの応援をお願いします。