今年も人吉球磨に関わる色んなテーマで書いてきましたが、締めくくりは、やはり肥薩線です。

先ずは、直近1ケ月の動きを振り返っておきます。

11月29日 新幹線ルート「新八代-宮崎」を調査へ…宮崎県知事「有力な選択肢の一つ」
11月30日 JR九州社長「国費200億使っても乗客数十人しか…」“持続可能性”をどう示すかが肥薩線復旧のカギに
12月13日 「2033年度の復旧を」 豪雨で運休のJR肥薩線 地元側が"復興方針案"を提示
12月20日 肥薩線の復旧「次回会議で返答」 JR九州社長、熊本県の復興方針案受け
12月24日 東九州新幹線、大きな進展なく50年…大分・宮崎両県の5市協議会が早期整備へ決議

ざっと振り返ると、ココでも書いたように熊本県が地元負担の相当割合を負担するという太っ腹な発表をしたことが11月10日付けの記事で明らかになり、12月13日に開催された検討会議では熊本県が「2033年に肥薩線の復旧を目指す」と宣言したので、12月20日にJR九州社長が「次回会議で返答」としたのが大筋です。

今月の会議で熊本県が踏み込んで来ることはJR九州も予想していたからか、直前の11月30日の社長記者会見で、

国費200億円使い「毎日ウン十人しか乗りませんでした」で本当に良いのか

と牽制した上で、

持続可能性「肥薩線を今後どうしていくのか」が必要ではないか

と改めて問いただしてきたのに対して、読売新聞の12月14日付けの記事では、

国交省と県は13日、報道陣に、古宮社長が11月の記者会見で、「税金を使う価値がある路線なのかということは、地元も一緒に考えないといけない」などと述べたことについて、同社から謝罪と訂正があったことを明らかにした。

と釈明しているのは、「まだ協議中なのに何を言っているんだ?」と誰かに怒られたのかもしれません。

しかし、それ以上に衝撃的だったのは11月29日の宮崎県知事の新幹線発言で、ルートから外れてしまうかもしれない5市が揃って12月24日に意見されたのは当然でしょう。

でも考えてみれば、私が1年前にココ

宮崎まで高速鉄道を伸ばす→宮崎新幹線を建設する

と書いた時は、法螺話に聞こえたでしょうが、調べてみると同様の提案をしておられた方は他にもおられる位ですから宮崎県が調査に入るのは当たり前なのかもしれません。

尚、今回、最新の状況を踏まえた私案をまとめるに当たって、参考にしたサイトを先に一覧(先頭は作者/敬称略)にしておきます。

[たくみっく]急浮上「宮崎新幹線」計画の件をわかりやすくすると
[暇坊主1]東九州新幹線に新ルート誕生?「宮崎」新幹線の調査開始【新八代〜宮崎を結ぶ新ルート】
[暇坊主2]宮崎新幹線の調査が東九州新幹線誘致の機運上昇に繋がる【大分県が喜び、延岡市が困惑】
[タビリス]「肥薩新幹線」は実現可能か。新八代~宮崎間、宮崎県が調査へ
[マイナビ]東九州新幹線で宮崎県も新ルート提案、新幹線政策の転換を促すかも
[UMKテレビ宮崎/gunosy]新幹線整備へ 河野知事「九州横断ルートも選択肢」と認識示す 宮崎県
[読売新聞]「東九州新幹線」の費用対効果、日豊線ルートわずかに有利…久大線ルートと比較、大分県が試算
[NHK大分]新幹線ルート 日豊と久大 費用対効果の差ほとんどなし
[観光経済新聞]【テツ旅、バス旅 77】東九州新幹線 鎌倉 淳

1.東九州新幹線と久大ルート

そもそも東九州新幹線とは、

福岡県福岡市から東九州の大分県大分市附近、宮崎県宮崎市附近を経由して、鹿児島県鹿児島市に至る新幹線の基本計画路線である。

とされていて、

1973年11月15日の「昭和48年運輸省告示第466号」によって、建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画に追加された。

wikipediaに書かれています。

しかし、

その後のオイルショックや国鉄の経営悪化などの状況変化のため、工事のために必要な調査さえ行われておらず、着工には至っていない。

という状態が50年続いているので、この先の50年でも実現の見込みが薄いような気がします。


だからか、大分県が新たに考えた久大本線(久留米~大分)ルートと元々の日豊本線ルートとを比較調査をしたところ、NHK大分の記事にあるように、

日豊本線と久大本線のそれぞれに沿ったルートについて調査を進めた結果、費用対効果の差はほとんどなかった

としていますが、ここで重要なのは、先の「新幹線の基本計画」では、福岡市→大分市→宮崎市→鹿児島市としているだけで、日豊本線とか小倉を経由するとかは一言も書いていないので、今回の久大本線ルートも当初の計画の範囲内なのだろうということです。

更には、観光経済新聞が、

久大ルートは大分の温泉地帯を横断し、由布院と別府をつなぐ形にもできるので便利そう。長崎から新鳥栖乗り換えで大分の温泉に向かうこともでき、九州の観光周遊に役立ちそうです

と評価しています。


福岡とダイレクトに結びながら大分県のドル箱である二大温泉地の集客にも役立つし、長崎旅行の観光客を呼び込めるのなら久大本線ルートこそ理想的なのかもしれません。

何れを推して行くのかは分かりませんが、この二つのルート、及び次項の宮崎新幹線の案について、マイナビニュースに杉山淳一氏が書かれた記事から図を引用させていただいて貼っておきますので、位置関係の把握をお願いします。


                    (出典:マイナビニュース)

2.宮崎県の事情

大分県の新しい動きに対して、「大分の先はどう考えているんですか?」と宮崎県が聞いたのかどうかは分かりません。

でも、私の周りの宮崎県出身の方は「新幹線が話題になったことは殆ど無い。」と左程期待している風でもありません。

というのも、仮に出来たとしても、福岡→大分の開通から更に何年も先の話でしょうし、宮崎市、都城市など県南に大きな街が集中している宮崎県は、暇坊主さんが言っておられるように、

日豊本線ルートだと距離が長い県北の工事費の負担が大きい

ということもあって盛り上がらないのかもしれません。


しかし、全く期待していないわけでもなくて、宮崎県のwebsiteには、

大雨、河川の氾濫によりJR肥薩線が甚大な被害を受け、復旧に時間がかかっている。そこで宮崎~都城~人吉~新八代間に新幹線の誘致をしてほしい。県は公共交通機関をもっと重要視してほしい。

という意見が掲載されています。


勿論、それを受けてというわけではなく、

「今年6月に国は基本計画路線等について、地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討する方針を示した。熊本県新八代と本県を結ぶルートは今後の実現可能性などを踏まえますと、有力な選択肢の一つと認識しています。」

という県知事の考えがUMKテレビ宮崎/gunosyのサイトに書かれていますが、一方で、前記の新幹線ルートから外れてしまうかもしれない5市は、

大分・宮崎両県を通る基本計画路線は東九州新幹線のみ。

を盾に従来計画を進めるように主張しています。


政府の方針の読み方に差異が生じているのかもしれませんので、出典である「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(令和5年6月16日閣議決定)」を確認すると、

基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う。

と書いてあるだけです。


この辺りは官僚文書の読解能力が必要なのかもしれないものの「地域の実情に応じた」とワザワザ言っていることから、両名とも霞が関出身の佐藤樹一郎大分県知事河野俊嗣宮崎県知事は、政府の方針を踏まえて動いているのでしょう。

3.肥薩線の持続可能性

今更言うまでもなくJR九州が指摘している「肥薩線を今後どうしていくのか」は当然の話で、当ブログでもココで地元からも具体的なプランを出すように提案してきましたし、12月13日の熊本県の復興方針案に対して、地元のKKT熊本県民テレビから、

書かれているのは、「観光施設」、「交流施設」、「鉄道ミュージアム」建設、「音楽祭の開催」、「宿泊施設の整備」。これを見て、JR九州がどこまで「現実的で効果的」と思うかです。

と少し厳し目でコメントされています。


それに今回色んな方の意見を聞く中で指摘があったのは、


肥薩線が復旧後に再び豪雨災害があったらどうするのか

 

ということです。


仮に、


今回は国の後押しのお陰で肥薩線が復旧する
     ↓
復旧後も営業赤字状態が続く
     ↓
再び豪雨被害を受ける


となった場合、もう一度費用を投じて肥薩線を復旧させて欲しいとは言いにくいでしょう。

確かに肥薩線が持つ日本の原風景的な良さを残したい気持ちはありますが、一方で、SL人吉が来年の3月で営業終了と決まった時に、

「のんびりした列車の旅」から「快適な列車の旅」への転換を目指す

ココで書きました。


ならば、今回の肥薩線の復旧においては、収益が確保出来て且つ災害に耐えられる強靭なインフラとして再生させてはどうかというのが現在の当ブログの立場です。

勿論、それでも全ての災害に耐えられる訳ではありませんが、収益の見通しがあって地域経済に欠かせないのなら、再々復旧も可能なのです。

4.宮崎新幹線の建設

この件に関して全面的に世話になるタビリスさんが「肥薩新幹線」という言っておられるのは熊本県民としては嬉しいのですが、ここは宮崎新幹線として話を進めます。

先ず、予算と採算の見通しについて、

1兆円規模のプロジェクトになるでしょう。費用便益比(B/C)を計れば、基準となる「1」を超えるのは難しそうで、実現できるかは定かではありません。

と冷静に計算しておられるのでしょうが、一方で、

古宮社長が求める「持続可能性」の一つの解になり得るでしょう。

という指摘もしておられます。

そして具体的な方法としては、

肥薩線をローカル線として復旧するのではなく、改軌のうえ高速路線としてよみがえらせ、宮崎まで新幹線を走らせれば、大幅な収益改善が見込まれ、「持続可能」となります。

を提案しておられます。

路線は、

八代~吉松間を線形改良のうえ標準軌で復旧し、吉松~小林間の吉都線を改軌、さらに小林~宮崎間で高速新線を建設

とのことなのですが、素人ながら、このクネクネとした

路線を標準軌にして高速走行が可能なのかと思いますし、かといってトンネルだらけだと工事費が嵩む上に肥薩線の価値が下がります。

 

それに、当ブログとしては、ココで書いたように、

  • くまがわ鉄道が(湯前~人吉~八代)の運行を担当する
  • くまがわライナー(人吉~八代~新八代~熊本~阿蘇くまもと空港)

も提案しているので、

  • 高架とする
  • 人吉~八代間の駅を統合する

は止む負えないとしても、車窓からの景色が著しく損なわれるのか避けたいところですが、このあたりは専門家に任せるしかありません。

また、整備手法としては、

「準新幹線」という整備手法

の適用を提案しておられて、

在来線の一部を改良し、短絡線整備と組み合わせて、段階的に「新幹線」に進化させていく方法

なのだそうですが、

最高速度260km/h区間と160km/h区間を組み合わせたもので、「フル規格より事業費が安価で、ミニ新幹線より表定速度が高い整備方式」

ということなので、

博多~宮崎間を2時間台で結べれば、利用者は大きく増える

ことが期待でき、

九州新幹線直通列車が走るのであれば、肥薩線復旧の課題である「持続性」をクリア

という結果が得られるのであれば誰もが納得するでしょう。

更に、当ブログとして付け加えたいのは「貨物新幹線」の導入です。

詳しくは鉄道チャンネルさんの解説を読んでいただくとして、要するに、

新幹線を利用した物流の拡充

です。

昨今話題の「2024年問題」は、その後も続く問題であり、トラックドライバー不足が解消される見込みはありませんし、二酸化炭素の削減要請も続きます。

だからか、

JR 九州バスと九州新幹線とを組み合わせた新たな物流ルート

といった取り組みが試行されているわけで、潜在的なニーズはあるようなのです。

ならば、宮崎新幹線を使って運んだ方が良いわけで、宮崎県で貨物を取り扱う主要駅の一つが都城も当然路線対象とすべきですし、宮崎新幹線というインフラを如何にして多くの用途で活用するのかを考える必要があります。

5.肥薩線の復旧と宮崎新幹線の取り込み


現時点では、肥薩線の復旧を前提に関係者が動いているだけに、宮崎新幹線を持ち出すのは得策ではありません。

それに、いまさら卓袱台返し的な話や費用負担増となる案を持ち出されるのは熊本県としても迷惑でしょう。

なので、あくまでマル秘作戦ではありますが、

  1. 肥薩線の復旧を優先とする。
  2. 但し線路の強靭化の為のルート変更、高架、駅の統合を止む無しとする。
  3. 現在の人吉駅利用を前提として、肥薩線、くまがわ鉄道、及び将来的に新幹線の発着も見据える。
  4. 復旧後の運行路線は、以下とする。
    ・くまがわ鉄道により湯前~八代間を運行
    ・くまがわライナー(人吉~熊本~阿蘇くまもと空港)の投入 
  5. 宮崎新幹線のルートは、新八代~人吉~(えびの)~(小林)~都城~宮崎~宮崎空港とする。

を軸とします。

ここで、宮崎空港まで延長するのは、

  • 人吉球磨圏への観光客を宮崎空港経由に誘導
  • 人吉球磨住民が名古屋以東への移動の際に宮崎空港を利用
  • 宮崎~熊本~福岡にて九州への観光客に周遊性を高める

にて、双方にメリットを持たせることができますし、宮崎新幹線開通に伴い宮崎空港(の福岡便)の発着枠の空きは札幌便/沖縄便等へ流用すれば、宮崎空港の活性化に繋がります。

ただ、現時点で、宮崎新幹線を当てにすることはできないのは、必ず人吉を経由するとは限らないからです。

なので、暇坊主1さんの書き込みにある、

人吉市民ですが昨日の宮崎県知事の新幹線計画に色めき立っています。宮崎まで20分らしいので宮崎空港も利用しやすくなる。熊本30分、博多まで1時間、なので観光客の誘致も活性化できる。

の気持ちは十分分かるのですが、


人吉に新幹線キタ━(゚∀゚)━!

 

と棚ボタを糠喜びするのは早すぎます。


それに、前記の大分県知事、宮崎県知事の発言は、ひょっとして国土交通省、大分県、宮崎県の霞が関トリオが、実は密に連携しながらプロレスをしていて、それを踏まえてのJR九州の社長の発言なのかもしれないことを考えると、熊本県もリングに上がることを考えなければなりません。

来年は、肥薩線の新しい夢を見れることを望みます。

また、最後になりましたが、1年間お付き合いいただいて有難うございました。

皆さんも良い年をお迎え下さい。