卒業式の2日後に…
娘は…ひとり…ロンドンへと旅立った…
無事に出国できたかな…
いまごろ…免税店をひやかしてるかな…
ちゃんと…搭乗ゲートまでたどりつけたかな…
飛行機は…予定通り離陸したかな…
事務所で仕事をしていても…
移動中の現在…心配は…尽きることがない…
なにより…いま…欧州では…戦争が起きている…
卒業式の2日後に…
娘は…ひとり…ロンドンへと旅立った…
無事に出国できたかな…
いまごろ…免税店をひやかしてるかな…
ちゃんと…搭乗ゲートまでたどりつけたかな…
飛行機は…予定通り離陸したかな…
事務所で仕事をしていても…
移動中の現在…心配は…尽きることがない…
なにより…いま…欧州では…戦争が起きている…
日曜日の夕方…帰宅すると…
母がひとりで…
ご飯とお味噌汁とお漬物を…食べていた…
「もう夕食を…食べてるの!!ちょっと待って…なんか食べに行こうよ!」
「……寒いから…いいわ…これで十分なの…」
「いやいや…僕も外で食べたいから…一緒に行こうよ…」
昨年…
要介護1に認定され…
老化が進行している…母は…
外に出ることや…ひとと会話することが…
すっかり億劫になってしまったようで…
ひとり…部屋に閉じこもる時間が…増えてしまった…
いろんな刺激を…与えないと…前頭葉は萎縮してゆくばかり…
早く家に帰れたときくらいは…母に何か刺激を与えたい…
「駅前の…中華とかどう?あそこで一度食べてみたくてさ…」
そう話しかけると…箸を持つ手が…止まった…
「…ラーメンと餃子とか…どう?麺類好きだろ…」
「…ラーメンいいわね…」
「オッケー!!じゃあ行こう!支度して!」
お店に入ると…
きっと…老化を食い止め…生きる糧となる…
「来月から…ひるまさんの担当ページ数…減らしていいですか?」
こんな言葉をもらうことで…2023年がはじまった…
「…なんで?そんなに…僕の創るデザインは…クソですか?」
「…いえ…仕事を…もっと増やしてほしい…という方がいて…」
「…そんなの…フリーランスなら…口にしないだけで…誰でも思ってることでしょ…」
だが…しかし…
版元様の決定は…どう足掻いたって…覆ることはない…
収入が激減することを宣告され…
かわりに…どこかの誰かが…潤うのかと思うと…
なんだか…叫び出したくなる…
創りだしたモノの価値よりも…
言ったもん勝ち…ならば…
仕事ください…とあちこち頭を下げ…
なんなら…キックバックだって…厭わない…
僕の顔写真が…ローカル新聞の一面に…掲載されました…
「うわぁ…ここは明るくていいですね!…前の事務所は…薄暗かったですよね…」
「へぇ…前より広くなりましたね…」
「ほぅ…ここは…風が…よく通りますね…」
「おお!めちゃくちゃいいっ!タワマンなんかより…全然いいじゃないですかっ!」
「この景色は…スゴイ!アジアの景色ですね…」
「…なんだか…居心地がいいね…」
「しかし…エレベーターえらい!前は…階段…ホントキツかったわ〜」
「へぇ…収納がかなり多い部屋だね…」
「角部屋で…窓も多くて…羨ましいわ…」
シン・事務所にご来社された方の感想です…
もちろん…引っ越したばかりだから…
リップサービスが…大半だろうけれども…
それでも…なんか…
自分が褒められているようで…
とても嬉しい…
ガールズ・バーの上にあった…前の事務所以外に…
僕の居場所は…ない…と思っていたけれど…
住めば都…
いまでは…
この歌舞伎町の事務所で…仕事ができることに…
毎日…喜びを感じています…
なんだか居心地がいい理由は…
歌舞伎町という町のエネルギーと…
日当たりのよさと…夕焼けの美しさ…だと思っていたけれど…
「おお〜懐かしい〜昭和の団地やん!」
という感想を聞いて…膝を叩いた…
相撲がとれそうな…エレベーターホール…
幅の広い階段と廊下…
もう…どこにも売っていない…ブリキのゴミバケツ…
部屋は…梁があるものの…
天井も高く…ゆったりした作り…
押し入れと天袋は…2つもあって…収納は十分…
高度成長期に…
夢と希望の暮らしを…象徴したであろう…この昭和の団地には…
令和の時代にも…
いまだ…その香りが…残っているから…
なんだが…懐かしくて…居心地がいいのだろう…
「……ちょっといい?」
「…ん……」
「…あなたに…あげたいものがある…」
ハイジアの階段にちょこんと座る…少女に…
新宿八百屋で…買ったばかりの…ミカンをひとつ…手渡した…
「!!…ミカン…!」
少女の瞳が…ぱっと輝く…
「となり…すわっていい?」
僕は…少女の横にすわり…
ミカン…バナナ…パクチー…サニーレタス…全部で500円もしなかったと…
24時間やっている新宿八百屋の話をした…
「…ねぇ…おじさん…警察なの?」
「まさか!!!違うよ!!!」
「ふーん…あたし…パパ活希望です…」
「…そうか……ねぇ…いつから…ここに座ってるの?」
「新宿に…来たのは…2ヶ月前…」
「もう…電車ないよ…」
午前0時をとっくに回っているので…
大久保公園周辺の…嬢の数は…さすがに…まばらだが…
まだ…20人ほどの…男たちが…ウロウロしている…
「…今日は…あとひとり…つかまえたら…終わりにする…」
少女は…絡みつくような…ねっとしりた目で…僕を見る…
「…つかまえられなかったら?」
「ネットカフェ…かな…」
「ねぇ…あなたいくつよ? …How old are you?」
「ぶ……なぜ…英語?あたし…19歳だよ…」
「…ほんとかよ…未成年だと…捕まるぜ…」
ふたたび…目が合う…
それから…少しだけ…お話をした…
いま…梅毒が急激に増えていること…
未成年の立ちんぼが…やたら捕まっていること…
あと…やっぱり聞きたい…
最近では…
立ちんぼ…ではなく…
交縁女子…と言うそうだ…
大久保公園で…交わる縁…だから…
交縁…
夕方になると…ここに…
顔もスタイルも…かなりレベルの高い…若い女子たちと…
ギラギラした目で…値踏みする男たちが…集まってくる…
お気に入りを見つけると…スッと近寄り…交渉を始め…
2人連れ添って…ラブホに…消える…
毎日…毎晩…見かける風景…
僕は…交わるより…
話をしてみたかった…
「…ねぇ…こんなこと言うと…嫌われるだろうけれど…
ほかに…方法はないのかな?」
「……」
「あなた…綺麗だし…お洋服のセンスもとっても可愛い…
そういう…自分の好きなことから…なんか…見つけられないのかな…」
「……」
「…まだ…19歳でしょ…いまから始められることなんて…山のようにあるよ…」
「……」
「…ここにいることが…一番自分らしいことなの?」
「……」
少女は…
僕の説教を…
嫌がっているようには…見えなかった…
何かを考えるような…
遠くを見るような…静かな目で…
僕のあげた…ミカンを…
ぽーんぽーんと…手のひらの上で…何度も遊ばせている…
「……飲みもの…買ってくる…」
少女は…そう言うと…
真っ赤なスカートを…ひるがえし…
僕の前から…消えた…
やっぱり…
愚問だったか…
事務所の移転を…
お仕事をいただいているお客様に…お伝えすることは…
ビジネスにおける義務…だと思い…移転ハガキを送った…
すると…数日後…
観葉植物やお花が…届くようになった…
びっくりした…恐縮した…焦った…
申し訳なく思った…
そんなつもりで…お知らせたわけではありません…
ただ…所在地の変更を…お伝えしたほうがいい…と思っただけなんです…
すみません…すみません…
余計な…お金を使わせちゃって…すみません…
僕は…移転を…祝福していただけるような…人間ではありません…
いただいた…植物には…
どれも…木製の立て札があって…
有限会社蛭間デザイン事務所 代表取締役 蛭間勇介 様
「祝 御移転」と赤文字で記され…
そして…送り主の会社名…社長さまのフルネーム…が書かれている…
担当の方に…
すっかり空っぽになった事務所を…確認してもらい…
鍵を…返却して…
4年半に及ぶ…立ち退き交渉は…
円満に…解決した…
「…なにが一番キツかったって…移転することが…僕の意思ではない…ってことですよ…」
「……申し訳ありません…」
「移転先を探したり…事務手続きを…積極的にできなくて…
毎日…気持ちを創り出すのに…苦労しました…」
「……すみません…」
「しかし…あなたのお仕事も…キッツいですね…
対立を生み出し…交渉がこじれれば…すぐに…紛争になってしまう…」
「…はい…」
「もちろん…僕も…弁護士さんに相談しましたが…
あなたが…誠実な方だと信じて…結局…お願いしなかったんです…」
「…はい…よかったです…」
「僕も…あなたを信じてよかった…
意外と…すんなり終わったでしょ…僕…欲があんまりないんですよw…」
「……」
「…こんな形で…お会いした関係だと…デザインの仕事やらしてください…なんて…
言いづらしいし…」
「……」
「いろんな…欲とお金の話を聞きたいから…一度くらい…お酒を飲んでみたかったっけど…」
「……」
「…これで…もう二度と…あなたに逢うことは…ないですね…」
僕は…そう言って…
相手の肩を…ポンポン…と2度叩いた…
「…いえ…これからも…同じ新宿なのですから…
偶然…お見かけすることもあるかもしれません…」
「…まあね…」
「そのときは…必ず…声をかけさせていただきます…」
「いいね!そのときは…是非…飲みましょう!」
いままで…この方にお逢いするときは…
手の内を知られないように…自分が不利にならないように…
一つ一つの言葉に…意識を尖らせ…
態度や表情にも…細心の注意を払い…
常に…緊張して…対峙していた…
どれだけ書面を交わそうが…
もしかしたら…騙されているかもしれない…という疑念が消えることもなかった…
でも…これからは…
何の利害関係もない…
平和的な…合意を得ることができた相手…
ときどき…
デザイン制作から印刷まで…
トータルで依頼されることがある…
そんな時は…
15年…おつきあいしている印刷屋さんに…お願いする…
印刷のクオリティはもちろんのこと…文字校正も行ってくれるし…
顔馴染みの担当者は…電話をすれば…
納期のことや…発送先のことで…
いろいろ…融通をきかせてくれる…
先日…
増刷の依頼が…来たので…
いつもなら…ものの数時間で…見積りまで出してくれるのに…
その日に…メールの返事が来ることはなかった…
翌日も…3日経っても…返事は来なかった…
おかしいな…と思い…
電話をかけた…
プープープー…
この会社が…話し中というのは…記憶にない…
10分後に…リダイアルしても…
プープープー…
イヤな…胸騒ぎがして…
ネットで…ググってみたら…
負債総額4億5千万円で…破産…
という文字が…目に飛び込んできた…
うちの事務所にも…
いらしていただいたこともある…
担当者の方の…顔が浮かんだ…
昨年は…
コロナの影響について…電話で…ちょとゆっくり…話した…
「ちょっと…いいですか…」
徒歩での…絶賛引っ越し中に…
右後方から…ふいに声をかけられた…
ひとが近寄ってくる気は…まったく感じられなかったので…
「きゃあ!!」と…
びっくりして…条件反射で声をあげて…相手を見たら…
警察官だった…
一瞬で…僕の…全細胞が入れ替わる…
「どちらへ…いかれるのですか?」
「………う…んんんん……ひ…ひっ…引っ越し中なんです…」
「…すみませんが…身分しょ……」
「すぐそこ!すぐそこが…僕の事務所だから…ついてきて!!!!」
若い警官は…僕の横に並び…笑顔を見せる…
「ここ!ここが僕の事務所!!!階段4階だけど……中で…お話し聞きますよ…」
階段を登りかけた警官が…足を止めたので…
ビルの入り口の看板と…会社名が記載されている郵便ポストを指さした…
「…あっ…なんか…すみません…」
「んあぁぁぁ…!!!!勝手に…僕を…呼び止めて…なに言ってんの?」
警官のオーラが…急速に…消えた…
「…ねぇ…ひとつだけ…聞かせて…」
「……」
「なんで…僕に…声をかけたの?なにが…怪しいと思ったの?」
「…リ…リュックです…その…登山用リュックです…」
「このリュックの…なにが怪しいの?」
「…さ…最近キャンプブームで…キャンプで使うナイフを…そのままリュックに入れっぱなしに…」
「…確かに登山用だけど…リュック背負ってる輩なんて…いくらでもいるだろ!」
「……い……いえ…大丈夫です…ナイフとか持ってませんよね…」
警官は…背中を向け…階段を降りる…
「えっ!見ないの?僕の事務所…見てよ!ほんと引っ越し中なんだから!」
「へんなもの…持ってませんよね!」
「持ってるわけ…ないでしょ!ねぇ…見ないの?」
警官は…背中を向け…逃げるように…去っていった…
へぇ…
職務質問を…を諦めることも…あるんですね…
でも…ほんとは…
新宿の…治安を守っていただき…ありがとうございます…と…
伝えたかった…
それと…僕の…なにが…世の中とずれていて…
どうして…職質をされてしまうのか…知りたかっただけなの…
嫌疑が晴れて…
ちょっと…嬉しかった…
◉関連記事(過去の職質体験談)
12年前と…
変わったのは…
警官の…職質のマニュアルか?
それとも…
僕の姿勢か?
シン・事務所は…
靖国通りを渡り…
ゴジラロードを進み…
ラブホ街を抜けたあたり…
いまの事務所から…徒歩10分なので…
引越しは…業者を頼まず…
ひとりで…荷物を担ぎ…少しづつ運ぼうと思った…
引越し代を節約したいこともあるけれど…
肉体を…酷使することで…
僕の体に…17年も染み付いた…この事務所から…
決別したかった…
商売道具のiMacを抱え…
両肩には…本や雑誌を満載した…大きなバックを2つ…
背中に…食器や調味料でいっぱいの…ザックを…背負い…
まるで…罰を受けていような姿で…
歌舞伎町を…歩む…
一歩踏み出すだけで…
両肩は…悲鳴を上げ…
足が…アスファルトに…めり込む…
ゆっくり…ゆっくり…休み…休み…
牛歩のような移動なので…
片道…20分もかかってしまった…
一往復しただけで…絶望的な気分…
「ねぇ…引越しを…手伝ってよ…」なんて…頼めるひとが…
僕には…まったくいないことに…気がつかないふりをして…
荷物を…抱え…背負い…
汗と涙を流しながら…
歌舞伎町を…30往復した…
それでも…運びきれず…
結局…
引越し屋さんに…お願いした…
なんだか…やることが…バカすぎて…
ほんと…悲しくなります…