情 | 新宿 鼠通り

新宿 鼠通り

逃れよ…強壮な風の吹くところへ…

 

 

 

 

 

「おはよう!」

 

 

 

 

 

 

 

お店の開店準備をしていると…

 

 

いつも…挨拶にきてくれる女の子がいる…

 

 

「あ…おはよう…」

 

 

「昨日…マッサージ行ってきたよ!だから体がとっても楽!」

 

 

「へぇ…いいね…あなた…肉体労働だものね…」

 

 

たわいもない会話を…しながら…

 

 

掃除を始める…

 

 

毎日毎日…何人もの男に抱かれるひとは…

 

 

いったい何を考えて…生きているのだろう…

 

 

僕が…知ることのない世界で生きているあなたに…

 

 

興味を…持ってしまう…

 

 

「…パンチラしただけで…3もらっちゃった…」

 

 

「…何もしないで…ただ…お金だけ…配ってるおじさんがいるヨ…」

 

 

なんて喜んでいるかと思えば…

 

 

「…泊まり…ホテル代込みで1って言われた!アタシそんな安く見えるの?」

 

 

「外人に…中出しされた!」

 

 

と…おんおん涙を流したりする…

 

 

僕は…どう…答えればいいの?

 

 

うん…うん…と優しく同調していればいいの?

 

 

それとも…

 

 

そんな世界から…とっとと足を洗いなさい!と…説教すればいいの?

 

 

あるいは…

 

 

僕とも遊べる?いくら?…と聞けば満足?

 

 

ねぇ…

 

 

ほんとうは…

 

 

どうしたいの…どうなりたいの…

 

 

このまま…

 

 

この日々が…長く続くことは…ありえないのだから…

 

 

最近…警察が本気を出してきているのだから…

 

 

もう少し…自分の人生を丁寧に考えることは…できないのかな…

 

 

彼女のおいたちを…聞けば…

 

 

頭の中に疑問符ばかりが浮かぶ…

 

 

人間というものが…いっそうわからなくなる…

 

 

「ねぇ…なんで…なんで…そんなあなたが…いま…ここにいるの?」

 

 

「ん…んーワカンナイ…担当さんに聞いて…」

 

 

この町で…アルバイトをするようになって…

 

 

無力を…嫌というほど…思い知らされたから…

 

 

近づいては…いけないと…わかっていても…

 

 

可愛らしい瞳で…無防備に…話してくれる…あなたに…

 

 

それでも…

 

 

情が…芽生えてしまいます…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

 

いつもの場所に…彼女がいないな…と思ったら…

 

 

常連さんが…

 

 

「あの子…逮捕されたよ…」と教えてくれた…

 

 

それから…しばらく…

 

 

静かな…開店準備を…

 

 

黙々と…こなすことになった…