「…エッグタルト…ありますか…」
開店準備中に…声をかけられた…
「ありますよ!」
「2つください…paypayで…」
レジの打ち方は…まだ現金しか習っていない…
電子マネーは…僕自身使っていないので…よくわらない…
「…すみません…僕…アルバイトなんで…現金ならなんとか…できるんですが…」
お客様は…ちょっと不服そうに…
財布の中をかき混ぜて…なんとか小銭を集めてくれた…
「ありがとうございます…ほんとすみません…」
「いまどき…paypayくらい使えないと…」
「…はい…使えるんですが…僕がやり方わからないだけなんです…」
「…ここのエッグタルト…ほんと美味しいから…いつも開店を待ってるんですよ!」
「ありがとうござます!次回はpaypayでお支払いできるように勉強しておきます!」
「…ワタシ…香港なんですヨ…」
流暢な…日本語だけれど…わずかに癖があるから…
中国人かな…と思っていたけれど…
本場…エッグタルト発祥の地のお客様からの…
味の太鼓判は…かなりうれしい…
「ここで…食べていってもいいですか…」
「もちろんです!いま…お水も出します!」
それから…
僕が25年前旅した…香港の話をした…
中国を1か月放浪して…深圳から…香港に入って…
そのあまりの違いに…驚いたこと…ほっとしたこと…
重慶大厦の安宿に泊まっていたこと…
スターフェリーと夜景が大好きだったこと…
ナイトマーケットが楽しかったこと…
ベトナムのビザがなかなか取れなかったこと…
香港人の笑顔に…救われたこと…
英国風のbarのビールが…めちゃくちゃ美味しかったこと…
「いま…香港は…ずいぶん変わっちゃったんでしょうね…」
「…ハイ…革命…失敗しましたからね…」
「!!!」
たとえ日本で有数の危険な町…歌舞伎町にいようとも…
平和ボケ日本人を…痛感する…
いままで…革命…という言葉を…本来の意味で語るひとに…
出逢ったことはない…
国が変われば…革命は…日常…
エッグタルトをうまい!うまい!と頬張る香港の若者が…
なんだか…戦士に見えた…
「…ワタシ…逃げてきたんですよ…日本に…」
重い言葉に…返事ができない…
香港の若者が使う「逃げる…」という言葉には…
「棄てる…」という意味が内包されている…
国を棄て…異国で人生を創り直す…
僕は…そんなことできるのかな…
ふっと…姉の顔が浮かんだ…
日本を離れ…アメリカで暮らす姉は…
アメリカで…死んでゆくのだろう…
アメリカは…そんなに…いい国なのかな…
姉は…やっぱり…日本を棄てたのかな…
どんな葛藤があったのだろう…
なにを諦め…なにを手に入れたのだろう…
いつか…聞いてみたい…