プレイ | 新宿 鼠通り

新宿 鼠通り

逃れよ…強壮な風の吹くところへ…

 

 

 

学費を支払うために…

 

 

銀行にお金を引き出しに行った…

 

 

銀行は…かなり苦手だから…

 

 

精一杯…派手な服を着て…向かう…

 

 

決して…スーツなんか着ていかないの…

 

 

緊張しながら…銀行の扉を開け…

 

 

整理券を受け取り…

 

 

イスに座っていると…

 

 

以前…ウチの担当だった…男性行員が…

 

 

僕を見つけて…出てきてくれたので…

 

 

少し…雑談をした…

 

 

番号が呼ばれたので…

 

 

預金払戻請求書と通帳を…

 

 

窓口の女性行員に…渡す…

 

 

ほどなく…

 

 

「ひるまさーん」と呼ばれる…

 

 

嫌な予感…とても嫌な予感…

 

 

窓口に行くと…予感通り…
 
 
「高額の…ご出金なので…本人確…」
 
 
「イヤだね…」
 
 
「…あ…あの決まりなので…」
 
 
「イヤです…見せたくありません…」
 
 
そう言って…イスに戻る…
 
 
いま…おたくの行員と…目の前で…
 
 
雑談をしていたのを…見ていなかったの?
 
 
なんで…自分で汗水垂らして…稼いだお金を…引き出すのに…
 
 
あなたたちの…許可が必要なの?
 
 
かれこれ…30年以上の取引があって…
 
 
毎月…集金に来てもらっている…うちの会社は…信用ゼロ…ですか…
 
 
僕は…そんなに怪しい人間ですか…
 
 
本人確認…と言われるたびに…屈辱を感じます…
 
 
だから…決して…身分証明書は…見せません…
 
 
いえ…
 
 
いいよ…わかったよ…
 
 
おたくのルールに従って…身分証明書を見せましょう…
 
 
そのかわり…預金を全額引き出します…
 
 
そんなことを…考えながら…
 
 
少し…興奮してる自分を…諫める…
 
 
女性行員は…上司らしきひとのところへゆく…
 
 
上司は顔を上げ…僕を見る…
 
 
僕は…目を逸らさない…
 
 
それから…5分ほど待たされて…
 
 
ようやく…名前を呼ばれた…
 
 
通帳を確認し…トレーの上の現金を…封筒に入れる…
 
 
女性行員は…じっと僕を見る…
 
 

今度は…僕が…目を逸らした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌週…

 

 

事務所に…その銀行の営業さんが…集金にやってきた…

 

 

「ひるまさーん…先週…来行されたんですね…」

 

 

「…あ…ごめん…またやっちゃった…」

 

 

「…言ってましたよ…本人確認を断られちゃったって…」

 

 

「ごめん…ごめん…その女性にも…申し訳ありませんでした…と伝えておいて…」

 

 

「大丈夫っす…ひるまさんは…そういうひとだから…って言っておきました…」

 

 

「…そうなんだ…ありがとう…」

 

 

「ひるまさんは…本人確認をわざと断って…楽しんでるんだ…って言っておきましたよw」

 

 

「…た…楽しんでる!そんなことないよ!こっちは小心者だから…ビクビクして…」

 

 

「いやいや…断ったらどうなるのか…楽しんでますって!プレイでしょ!」

 

 

「………」

 

 

 

 

若いのに…なかなか…鋭い観察眼を持っている営業さんだな…

 

 

 

もう少し…いろいろ話をしたくなった…

 

 

 

「…ねぇ…あなた…お酒飲むの?」

 

 

「もちろん!記憶がなくなって…玄関で寝てた…なんて…しょっちゅうです…」

 

 

「へぇ…そんなふうに…見えなかったよ…」

 

 

「…お酒は…なんでもいけます!」

 

 

「…僕がアルバイトしてる居酒屋一緒に行く?」

 

 

「!!アルバイトしてるんですか!是非是非!行きたいっす!」

 

 

「オッケー明日はどう?何時にあがれるの?」

 

 

 

彼に安い酒をごちそうして…

 

 

銀行のルールに従わなかったことを…

 

 

なんとなく…自分の中で…うやむやにした…