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答えは事件の真相のその先
(C)2023「ロストケア」製作委員会
ロストケア
斯波(松山ケンイチ)は利用者や家族にも気が利くと評判が良い訪問介護の介護士。ある日、利用者宅で二人の遺体が発見される。一人は利用者の老人でもう一人は介護センターのセンター長団(井上肇)だった。担当検事の大友(長澤まさみ)の斯波ら関係者聴取が始まり、合鍵を持って老人の金品を盗もうとした団の犯行との見方が強くなる。大友はセンター利用者の死亡率の高さがひっかかっていた。
(C)2023「ロストケア」製作委員会
初見。ずいぶんと攻めた話ですが、原作があるのですね。ミステリーだと思ってたら、中盤には真犯人の自供。後は介護をめぐる実態、それをカバーできていない行政、さらに尊厳死にまで言及。殺人犯は異常者なのか救世主なのか。
法治社会において殺人はもちろん罪。犯人は裁かれます。ところが犯人を凶行に追い込んだものには着目されません。「追い込んだもの=行政」としているように思えます。映画には作り手の主張は必要ですが、安直に答えが出せないテーマですよね。
(C)2023「ロストケア」製作委員会
みなさん、ご想像のとおり、犯人は斯波です。半ばに大友が「おや?」って思って問いただすとあっさり認めちゃいます。本作、どうやってやったかのミステリーではないのがわかります。なぜやったのかがポイントのヒューマンドラマになってます。
大友が最後にとった行動こそが作り手の主張なのだろうと推測できます。たぶん、多くの人は本能的に殺人を受け入れないようにできています。大友のあれだと声を大にして言えるものではないので、法廷の絶叫とかでぼかしてるのかな、と思いました。
(C)2023「ロストケア」製作委員会
マツケンはキャラにピタリとハマってました。当て描きレベルでしたね。白髪が似合ってました。長澤はホームにいる母の存在で本作の立ち位置が深くなってます。単に追求するだけではない、ってところで難役になってますよね。
鈴鹿央士は変わり者新人検事の役。事件解決の突破口を開く重要なキャラ。藤田弓子と柄本明が物語にリアリティを生む壮絶演技。坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ…介護に関わる人々が思いのほか豪華。ベテラン陣のバックアップが本作の下支え。
(C)2023「ロストケア」製作委員会
斯波の語る介護をめぐる環境や行政対応は誇張じゃないリアリティを持っています。斯波の父の叫びは刺さります。本当は行政がなんとかしなきゃいけないんでしょうが、その財源・労働力の確保も難しいのはわかるんです。答えがないんですよね。
問題提起作品のカテゴリーでよいのかな。介護は綺麗事ではありません。それでも生きなきゃいけないのが法なら、生きていける法がないといけません。自身やご家族に関わる問題です。答えが出せなくても、考えなきゃいけないことなんですよね。
DATA
監督・脚本:前田哲/脚本:龍居由佳里/原作:葉真中顕
出演:松山ケンイチ/長澤まさみ/鈴鹿央士/坂井真紀/戸田菜穂/峯村リエ/加藤菜津/井上肇/綾戸智恵/梶原善/藤田弓子/柄本明
hiroでした。