『若く逝きしもの』

フランス・エーミル・シッランパー『若く逝きしもの』(阿部知二訳、みずいろブックス)を読みました。
1953年に筑摩書房刊の復刊との事ですが、この本を手に取るまで僕はこの作家についてまるで知りませんでした。
(巻末の桑木務の解説を読んで知ったのですが)1939年のノーベル文学賞受賞者だったとは…。
この小説は、フィンランドの農村におけるシリア(女性)の生涯が中心に書かれているのですが、前半に克明な彼女の父親のクスタアの農場主から没落していく過程を置く事で、後半のシリアが薄幸ながら健気に生きる(この作家が本当に書きたかった)姿が際立って印象が強まりより深い感動が得られたかなと感じました。
あと、(フィンランドの独立云々に関する事柄も含めて)日常や風景、農村の様子等の描写が細かく魅力的で素晴らしかったです。
しかし、巻末の解説を読んだから書く訳ではないのですが、フィンランドには「ヨーロッパの古い伝統が残されている」(387頁)のですね。
個人的には、キリスト教の堅信礼、婚約・予告・結婚への段取り等読んでいて少し突き放された感じもありましたが…。
『アイダホ』
エミリー・ラスコヴィッチ『アイダホ』(小竹由美子訳、白水社)を読みました。 この小説は母親が子供を殺したと言う事件が核のはずなのに、どれだけ読み進めても詳細が明らかにならないため、正直なところ読み終えた後も気持ち的にはスッキリしませんでした。
とは言え、登場人物各々の視点から過去と現在を行きつ戻りつ書かれている上に、自然は勿論幼い頃の出来事も含めて描写も瑞々しくて、読んでいてしばしば興奮しました
もっとも、他人から見たら、表面上は静かだったと思いますが…。
そして、刑務所内での母による子殺しの犯人のジェニーと同房となったエリザベスとの友情と、ジェニーの前の夫で現在は主人公の音楽教師アンの夫であるウエイドが若年性痴呆症と言う設定と妻に振るう暴力の描写が個人的には印象に残りました。
あと、途中に出てくる歌(の歌詞)も良かったです。
『キリンの首』
ユーディット・シャランスキー『キリンの首』(細井直子訳、河出書房新社)を読みました。
僕はこの本の著者について知識を持たないまま、図書館の新着図書の棚にあったので先日借りてきて読んだのですが、(四年後に廃校となる旧東ドイツ地域のあるギムナジウムが霧台となっている事も含めて)主人公の生物教師のイアン・ローマルクの周囲と自身に向ける情け容赦ない視線と態度の描写が読んでいて少し怖さを感じつつも面白かったです。
ただ、居住している地域に対してや周囲の人々に対しては勿論、自分自身に対しても本当に文字通り情け容赦ない視線を向けた上で見合った態度を取るので、生徒から人気もあまりないのも納得できはしたものの読んでいて何度か不安になりました。「自分は安心して読んでいるけど本当に大丈夫かな…。」と。
そして、個人的にはこの本の途中途中にある動物達の挿絵が精密で美しく、何分か眺めているうちに心が満たされる思いがしました。
追記 読み終えた後で(作者の事が少し分かったので)、以前見つけた時は読めないなと思い敬遠してしまい読まなかった『失われたいくつかの物の目録』(河出書房新社)をいつか読んでみようかなと思いました。

