「蝶を追う」

ドイツのベルリンで製本に関わる仕事に従事する主人公の(しっかりと確かな)仕事を中心とした引越し等の日常を中心に描きながら、途中彼の(現在認知症である)妻との過去の思い出や近所の人々について書かれていて、書かれている内容に何度か心が折れそうになりつつも、「私はいまを生き、未来を積み重ねるべきことの重要性に気づかされた」(135頁)と言う部分を読んで気持ちが明るくなり、読み終えた後は心が満たされたように感じました。
そして(かなり蛇足ですが)、主人公と彼の妻との出会いや彼が彼女に結婚を申し込むまでが描かれている箇所を読んで感動しました。最終的な結果はどうあれ、強い意志を持った人間の望みは叶えられるのですね…。
しかし、かがり作業、折り丁、小型万力(バイス)、小型万力、ルリユール等専門用語が多く、身近でない仕事に従事する主人公について書くのは肉体的には大変でも気分的に楽しかったでしょうが、本の読む順番を気にしなかったり、お菓子を作ろうとしてキッチンの床に小麦粉や砂糖を散乱させたり、庭の花にじょうろで水を撒きすぎる等の行動をする彼の妻について書くのは(主人公とはほぼ180 度内容が違うので)辛い上にしんどかったのではないかなと思いました。
もっとも、僕だったら書く必要があっても書かないような気がしてなりませんが…。
「ビューティフルからビューティフルへ」

第59回文藝賞受賞作です。
「ナナ」と「静」と「ビルE」と言う三人が、大学受験が迫っている高校三年生の夏休み前から受験後までの時期について語る形で小説は進むのですが、三人の日常や生活環境が本当にバラバラでどこに焦点を絞って読むべきなのか迷った上、サイファーや女性にありがちだと思われる性的な事柄、あるいは人間が生きる事に対する苦悩に対する描写等がどれだけ読み進めても好きになれず、個人的には全体として余り面白さを感じませんでした。
そして、小説の中の言葉のリズムが通常よりやや過剰気味であるのに加え、主要な登場人物である“ことばぁ”の言っている言葉がもう一つ過剰であり、小説の流れに乗れなかったのも(他にも原因があるとは思いながらも)僕の中でこの小説の面白さを減じている要因の一つだなと感じました。
もしかすると、僕がサイファー等に慣れたら、この小説の面白さが変わるかもしれません…。



