『古い画の家』

『小沼丹推理短篇集 古い画の家』(中公文庫)を読みました。
少し前に某書店で「あ、小沼丹だ!」と思い購入したものの少し積ん読状態にしてしまい、申し訳ない事をしたなと思っていたのですが、意を決して(?)三日前ぐらいから読み始め、今日になって漸く読み終える事が出来ました。
この本に収められた11篇の小説はどれも発表時期は古いのですが、その事を感じさせないぐらい(小説の中にあるユーモア等も含めて)面白く、(随分偉そうですが)読んでいて幾度となく「さすが、小沼丹だな」と思いました。
ただ、巻末の三上延の解説によると1960年代に刊行予定だったのに刊行されなかったようです。
もっとも、もし予定通り刊行されていたら、売れていたかどうかは微妙な気がしなくもないですが…。
個人的には兄弟姉妹の関係が事件の鍵を握る「手紙の男」、宝石にまつわる「クレオパトラの涙」、主人公がまさかギャングの片棒を担ぐ羽目になるとは思わなかった「ミチザネ東京に行く」、お見合いについての話である「二人の男」、ある登場人物の大胆な行動に驚いた「赤と黒と白」、読んでいて主人公の王様を読んでいて好きになった「王様」、読み終えて唸ってしまった「リャン王の明察」が強く印象に残りました。
あと、“推理短篇集”となっていますが、どの小説も探偵は登場しませんので、気をつけてください(?)。
『夏』

イーディス・ウォートン『夏』(山口ヨシ子/石井幸子訳、彩流社)を読みました。
ニューイングランドを舞台として、周囲の人々が〈山〉と呼ぶ司法の及ばない地域から幼い頃に引き取られ、日々の生活や状況に対して「ああ、何もかもうんざり!」(6、9頁)と言ったりする主人公のチャリティ・ロイヤルが偶然出逢った建築家)ルーシャス・ハーニーに恋してしまうある夏の恋の物語は個人的にはそれなりに面白かったものの、個人的にはそれ以上でもそれ以下でもなかったです。
ただ、終盤に仲が悪かった養父のロイヤル氏との関係が変化するのは読んでいてスッキリしました。
もしかすると、巻末の『イーディス・ウォートンと脱出を夢見る異端者たちーー『夏』を中心に』に書かれているようは、主人公のチャリティ・ロイヤルが自立のために職業を探そうとしたり恋愛においては主体性を貫き、自分の行動に責任を持ち、時にルーシャス・ハーニーを小さいと感じる「新しい女性」(252頁)であるとまで考えて読んでいたら感想は変わったかもしれませんが。
あと、近所の図書館の新着図書の棚で見つけ借りて読んだのだけといえばそれまでなのですが、僕はこの作家について知りませんでした…。
『野原』

ローベルト・ゼーターラー『野原』(浅井晶子訳、新潮社)を読みました。
墓地である「野原」に毎日やってくる老人が聴いた29人の死者の語りが積み重なり、(オーストリアのどこかにある架空の町の)パウルシュタットを徐々に描き出していくのですが、読書中に満たされた気持ちが損なわれる事はありませんでした。
そして、人の出会いや別れ、教会の火事、戦争中の思い出、病院内での出来事、その他日常のあれこれ…、死者が語る内容が若干暗めであっても気持ちに大きな変化がなかったのは、作者(及び老人)の死者の語りに対して口を挟まない態度が主たる原因だと思いました。
また、個人的にはな感想とパウルシュタットには余り住みたくはありませんが、性別や生きていた期間が異なる29人の死者の語りを書いた事は凄いと思いました。