F9の雑記帳
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「夏蚕の翅」



 冬島いのり「夏蚕の翅」(『群像』2026年6月号所収)を読みました。
 第69回群像新人文学賞当選作。
 この小説は北海道南西部の小さな港町に二人きりで暮らす姉弟の物語なのですが、母親が家を出ていったため摂食障害となった姉について弟の視点から語られる前半の部分は全体的にやや息苦しく感じる場面が多く、何度か読むのを止めようと思いました。
 姉の生を否定する態度や姉の姿の奥に母親の姿を見る弟への憎悪の描写が僕には強烈でしたので、もしかすると上記の様に感じたのかもしれません。
 ただ、姉が高校進学のため小樽市に引っ越し、弟は港町に残る事になった後半は弟と姉双方に回復と成長を感じさせる展開で、弟と姉の立場で語られているせいもあるかもしれませんが、読みすすめるにつれて僕自身も解放されていくように感じました。
 あと、個人的には弟と慶次の関係、姉にとっての白鳥セツと阿部ハル(アイヌ名ウパシル)の関係は、読んでいて「人間にとって人との出会いは大切なんだ」と言う事を痛感させられました…。

「水をなぞる」



 竹中優子「水をなぞる」(『新潮』2026年6月号所収)を読みました。
 この小説は、“主人公・笹原貴恵は、適応障害を発症したため市役所を退職し、健康食品や健康器具を販売する(主人公を含めて従業員四人の)会社に再就職する。商品の販売会の業務や月一回のゴミ拾い作業等をこなす日々の中で、主人公は個別指導の学習塾の教室長をやっていると言う女性・木下と出会う。「生徒が一万円に見えるようになった」と言ったりする木下の言動・態度や主人公自身の過去が描写されていくうちに、主人公自身の姿が次第に明らかになり…。”と言った内容なのですが、小説の終盤で「私、貴恵さんを見てて、他人のお母さんに勝手になるってこんな感じかあって分かっちゃって」(130頁)と木下に面と向かって言われたり、職場の同僚である林に「なんか貴恵さんを見てると、こうなっちゃいけないんだなって勉強ができます」(132頁)と言われ呆れた顔をされてしまう貴恵に対して、読んでいる間は「言われたい放題だな」と思ったものの、木下に手作りの筑前煮をタッパーに詰めてあげたり、自分が購入したヘルスチェアと言う健康器具を使わないからとあげようとしたりすれば、確かにそう言われても仕方がないかなと思う気持ちが読み終えて時間が経つにつれて強くなってきて、「自分も気をつけないといけないな。」と思いました。
 そして、主人公が他人に対して凄く優しい態度を取ったり、木下曰く「あなたのためにって何かを押し付ける」(130頁)態度を取るのは、自分に自信があまりないからかなと(個人的には)読んでいて思いました。
 また、(小説の本筋にはほぼ関係はありませんが)主人公には主人公の事を気にかけている久保田美春がいて、時々一緒にご飯を食べたりしている設定は、読んでいて少し羨ましかったです…。

「骨と鎖」



 永田修矢「骨と鎖」(『群像』2026年6月号所収)を読みました。
 第69回群像新人文学賞当選作。
 この小説には陸と汰月と言う二人の少年の小学校6年生から中学校2年生ぐらいまでの日々が描かれているのですが、小説の中盤までは汰月が陸よりも上の立場にいて一種同性愛的な雰囲気が文章のあちこちに漂っていたのに、ある日の夜に陸が同級生を殺した事により汰月は自分が壊れてしまい引きこもりになる(が後に学校に通うようになる)一方、陸は何かにつけて暴力的になると言う展開は(個人的には登場人物の性格設定の変更はないと思っていたので)意外で驚くと同時に、リカやユウマと言った他の登場人物達の性格設定や陸や汰月との関係についての描写等は読んでいる間首を縦に振らざるを得ないなと感じる場面が多かったです。
 ただ、小説の中盤に出てくるバーでの陸と友人達の行動の描写も含め、全体的にもっと熱があればより良かったのではないかと感じました。
 ああ、小説の終盤に出てくる汰月が描き終わり陸に見せた絵が(個人的に)気になるなあ…。
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