「五人の姉」

天埜裕文「五人の姉」(『群像』2026年8月号所収)を読みました。
この小説は、“大学入学に伴って姉のアパートの部屋で同居していた主人公の女性。秋雨が降る日、姉から駅に傘を持ってきてと頼まれた主人公を待ち受けていたのは、駅で横一列に並んだ五人の人物がお気に入りのブラウスとスカートを纏い、腕時計に見つめる姉である光景だった。主人公はその中の一人に声をかけアパートの部屋に戻り一日過ごしたものの違和感を覚えたため、別の姉を連れ帰って一日過ごしてみたもののまた違和感を覚えて…。”と言った展開なのですが、仕事は黙々とこなす一方でウクレレの弾き語りやテレビ録画した漫才の吹き替えと言った趣味や特技を持っている偏食気味で長い時間眠りにつく姉、小説の途中で主人公の友人となり、五人に増えてしまうアキノ、主人公が姉の状況を話し質問した際に見解を述べた三人の大学教授、駅前の雑居ビルの中にあるカフェの店員、忘れた頃に登場する主人公の母親等の登場人物達と設定が(個人的に)かなり強烈で、読んでいる間比較的長くないはずなのに時々頭がクラクラしました。
恐らく、僕がこの小説を読み通せたのは、つとめて冷静に説明しようとするがゆえに可笑しくて、読み進めるにつれて何だか愛おしくなった主人公の語りの効果に違いありませんが、最終盤の展開及び最後の場面は僕の想像外でとても吃驚しました…。
「雷の夜に、ぼくは」

長野まゆみ「雷の夜に、ぼくは」(『群像』2026年8月号所収)を読みました。
この小説には、三十年前に一度会ったきりの男に出会ってしまった主人公の十四歳の夏のある出来事が書かれているのですが、その出来事に関して中心人物である一本木の存在のミステリアスさ加減とある種の不気味さが、雷雨や油絵の具の香りや動物たちの墓標といった細かな設定の効果もあってか、小説を読み進めるにつれて増していくのが読んでいて堪らなかったです。
そして、小説の終盤、主人公は直接手を出していないにしても、まさか一人の人間の運命を決定づけてしまうなんて予想していなかったですし、一本木が最後どうなったのかを書かないで冒頭の場面に繋げるという展開は(正直)個人的には意外で綺麗だなと思いました。
「窓の中の私」

北条裕子「窓の中の私」(『群像』2026年8月号所収)を読みました。
群像新人文学賞受賞第一作。
この小説では(小説上の)現在と過去の記憶、それらから想起されるイメージの描写が唐突に感じられるように出現するので、最初から順を追って読んでいたはずなのに内容をしっかり摑み取れず、読んでいる間はかなり息苦しかったです。
もっとも、周囲に対して牙を剥きながらも、「いつでも私自身に」「こてんぱんにやられてしまう」(ともに121頁)と自分から告白する、主人公かつ語り手でもあるクロイシサナの意識や行動の描写に身を任せてしまえばいいのかもしれませんが。
ああ、「窓の中の私」と言うタイトルは、この小説に相応しいのかもしれないですね。
ただ、(毎度の事ですが)性的表現の描写は個人的には読んでいて嫌な気分になり、好きになれませんでした…。