「ハンチバック」

第128回文學界新人賞受賞作です。
まず、語り手がミオチュブラー・ミオパチーと言う先天性疾患を抱えており、財産面でも特に問題がない設定には(個人的には失礼でしょうが)驚きました。
そして、ハプニングバーでのエロ記事から始まる冒頭部分を含めて性に関する表現や描写が多い上、この小説で描かれる語り手の思考や行動に面食らってしまい、読んでいる間しばしば気持ちで負けてしまいそうになりました。
考えた事がなかったのですが、健常者と障害者の違いはこれ程までに大きかったんですね…。
また、最後の(ほぼエロ記事である)部分については唐突で戸惑いはしましたが、個人的にはあった方が良いと思います。
あと、最後になりますが、“ハンチバック”と言うタイトルにも驚きました。“せむし”ですか…。
『E.M.フォースター短篇集』

この本には8篇の小説が収められています。
以下に各々の小説の感想(めいたもの)を書いておきたいと思います。
・「コロヌスからの道」:仮に運命というものがあるとして、娘たちのせいでそれから外れたルーカス氏は一体どうなってしまうのでしょうか。物語の終盤で不穏な空気が流れていましたが…。
・「パニックの話」:外に飛び出し自由を得たユースタス、謎の死を遂げる漁師の息子ジェナーロ…、謎が謎のまま残され、読み終えて不安になりました。
・「シレーヌの話」:「シレーヌとは何だ?人魚か?」と読み終えて多少モヤモヤは残りはしたものの、非常にスッキリした気分になりました。
・「アーサー・スナッチフォールド」:一時の快楽のために若者の運命を変えてしまった主人公の後悔の念は十分に理解できましたが、「男同士の猥褻行為」(110頁)がかつてはこのような結果を招きかねないという事が分かり、個人的にはかなり衝撃を受けました。
・「永遠なる瞬間」:読んでいて、主人公の小説家の女性には腹が立った一方、軍人の大佐には同情したくなりました…。
・「アンドリューズ氏」:僕はあまり想像した事はありませんが、この小説にあるように、神々はどこか奇妙で、天国は凄く詰まらない場所かもしれないですね…。
・「ホテル・エンペドクレス」:この小説のハロルドの様に現在と過去が地続きになれば周囲はしんどいと思いますが、それでも愛する語り手はなかなかですね…。
・「機械は止まる」:3部構成。第一部を読み終えた時点は「読者を舐めすぎていないか」と思いましたが、第二部、第三部と読み進めるにつれ機械への依存が齎しかねない危機が書かれていて安心しました(?)。
『惑う星』

リチャード・パワーズ『惑う星』(木原善彦訳、新潮社)を読みました。
以前読んだリチャード・パワーズの小説に比べたら圧倒的にシンプルで読みやすかったので、「パワーズ作品の中で最もストレートで、それゆえに深く感動的な小説」(386頁)と言う「訳者あとがき」の作品評は僕は的確だなと感じました。
前半のロビンの学校関係に関する描写を読むのは胸が苦しかったですが、主人公シーオの息子の(心に病を抱えている)ロビンがコード解読神経フィードバック訓練法(デフネフ)を受け変化していく様を読むのは(事件を引き起こしたりしつつも)ある意味痛快でしたが、後半になってある事情によりデフネフが受けられなくなり変化していく様は(物語の前半にあったような)若干の緊張感に包まれているせいか、少し読むのが嫌になりました。
とは言え、自然描写や父と子およびは勿論、主人公シーオの仕事に関連して太陽系以外の惑星の光景についての記述は、ジーオとロビン双方の視線に興味と愛があって面白かったです。
もしかすると。この惑星の光景についての記述を読むだけで満足する人もいるのかもしれないですね。
あと、「訳者あとがき」に書かれてもいますが、“BEWILDERMENT”と言う原題に対して、「惑う星」と言う邦題がつけられているのも素敵だと思いました。
主人公シーオが何度となく(“BEWILDERMENT”の訳語である)“当惑”する場面は何度も出てきますが、成程そういう事だったのですね…。

