「うつほ物語」


古川日出男「うつほ物語」(『群像』2024年8月号所収)を読みました。
謀反の濡れ衣を着せられ須磨に流され、その住まいに『宇津保物語』の第一巻である「俊蔭」のみ持ち込み、七絃の琴の一族の歴史を絵に描きはじめる光る君と、現在の時点から様々な事柄を述べる(この小説の)作者であろう“僕”の二人が中心になって進んでいくこの小説は、僕が無知だからなのでしょうか、読んでいてる小説の中で披瀝される知識や見解に驚かされる事が多かったですが、個人的には内容や展開が掴みづらく、分かりにくい小説でした。
おそらく、多少なりとも『宇津保物語』を読んでいればこの惨状にはならなかったに違いありません。
ですが、終盤で“僕”が『南総里見八犬伝』の作者である曲亭馬琴や『千夜一夜物語』について言及しつつ、『宇津保物語』の舞台と現在を強引に繋げてしまおうとする結末には少し呆れてしまいました…。
「バリ山行」
群像新人文学賞優秀作受賞第一作。
この小説に関して、主人公の波多の現在の勤務先の(建物の外装の修繕を専門とする)会社の問題あるいは最近の登山ブームを折りまぜながら展開する中盤までは個人的にそれ程面白くはありませんでしたが、会社内での所属の課は別でも六甲山を毎週色々なルート(バリエーションルート)で登っていると分かり、仕事を一緒にする事で以前より距離が縮まった妻鹿と一緒に「バリ山行」する場面から一気に面白さが増したように感じました。
緊迫感のある登山の途中で波多が妻鹿に対して思いをぶつけたのに、その思いに応えずに(波多が病気で休んでいる間に)会社を退職してしまった妻鹿の姿をどうにか探そうとする…、そんな展開に心が軽くゆさぶられた気がして、読み終えた後(読書前に思った事とは裏腹に)「読んで良かった」と思いました。
そして、(2021年の)第64回群像新人文学賞の優秀作となった「カメオ」(掲載は2021年7月号)でこの小説の作者の名前だけは知っていましたが、筆名に腰が引けてしまい読まずじまいで終えていた事が何だか恥ずかしくなりました。
ああ、先日第171回芥川賞候補作となっているのを知ったから読むのではなく、あの時にこの作者の小説としっかり向き合っておけば…。
『エデュケーション』


タラ・ウェストーバー『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』(村井理子訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を読みました。
以前、書店で帯の文句に惹かれて購入したものの、(著者についてはほぼ無知な状態のまま)本の厚さに尻込みしてしまい、相当長い間積ん読状態にしてしまっていました。
ですが、最近になって漸く「このままではいけない」と思ったので読んだのですが、読んでいる間はその内容に圧倒されっぱなしでした。
まず、モルモン教徒・サバイバリストの両親のもと、学校にも病院にも通わなかった著者の育った環境に驚きました。
著者の両親は勿論の事、彼女の兄弟達も相当だなと感じ、読んでいる途中で幾度となく「自分とは住む環境が違いすぎる」と堪らない気持ちになりました。
次に、3部構成の第二部以降の著者が大学で勉学に励む事で自分自身が変化し、楽しみが増していくていく様子の描写は(教育を受ける事の大切さを含めて)興味深く読めた一方、読書中に幾度となく感じた違和感は結局最後まで解消されませんでした。
ああ、教育が大事というのは頭の中では分かっていると思っていたのですが、(自分の自己体験ではないにしろ)いざ手記を目の前にして、それを読んだとしてもなかなか受け入れられないものなんですね…。
あと、著者の母親が著者にとって大事な場面に良く登場しているように感じ、あるビジネスが成功して成長していく過程に対して何だか凄いなと思いました。

