「バリ山行」 | F9の雑記帳

「バリ山行」





 松永K三蔵「バリ山行」(『群像』2024年3月号所収)を読みました。
 群像新人文学賞優秀作受賞第一作。
 この小説に関して、主人公の波多の現在の勤務先の(建物の外装の修繕を専門とする)会社の問題あるいは最近の登山ブームを折りまぜながら展開する中盤までは個人的にそれ程面白くはありませんでしたが、会社内での所属の課は別でも六甲山を毎週色々なルート(バリエーションルート)で登っていると分かり、仕事を一緒にする事で以前より距離が縮まった妻鹿と一緒に「バリ山行」する場面から一気に面白さが増したように感じました。
 緊迫感のある登山の途中で波多が妻鹿に対して思いをぶつけたのに、その思いに応えずに(波多が病気で休んでいる間に)会社を退職してしまった妻鹿の姿をどうにか探そうとする…、そんな展開に心が軽くゆさぶられた気がして、読み終えた後(読書前に思った事とは裏腹に)「読んで良かった」と思いました。
 そして、(2021年の)第64回群像新人文学賞の優秀作となった「カメオ」(掲載は2021年7月号)でこの小説の作者の名前だけは知っていましたが、筆名に腰が引けてしまい読まずじまいで終えていた事が何だか恥ずかしくなりました。
 ああ、先日第171回芥川賞候補作となっているのを知ったから読むのではなく、あの時にこの作者の小説としっかり向き合っておけば…。