F9の雑記帳 -27ページ目

「スカンジナビア・クラブにて」


 『文藝』2024年秋号の特集「世界文学は忘却に抵抗する」の中の4篇の小説を読みました。
 どの小説も目次にある「“戦争”テーマの書き下ろし短篇」に相応しい内容で興味深く読む事ができ、正直安心しました。
 以下、簡単に感想(めいたもの)を書いておきます。
 ・パク・ソルメ「スカンジナビア・クラブにて」(斎藤真理子訳):この小説には、ソウル中央市場の中にある動き研究会(不思議な名前…。)のワークショップで出会ったカンジュと、ソウル中央市場周辺を歩いていた際に見つけたあれこれが主に描かれているのですが、(主人公の父親が出てくる夢の描写もありますが)ごく自然に朝鮮戦争と在韓米軍に関する事柄が出てきて少し驚きましたが、全体的に読みやすかったです。極東工兵団…。
・柴崎友香「現在の地点から」:2022年8月に広島を訪れた際の行動を中心に書かれているエッセイで、それ以前の思い出も書かれているのですが、どれだけ読み進めてもピンと来なかったものの最後の部分はそのとおりだと感じました。
・ラシャムジャ「傷痕」(星泉訳):山で放牧を手伝わされている主人公の少年の父親が、主人公を偶然の出来事で傷つけたその日の夜に父親自身が住んでいた村が馬家軍に襲われた際の出来事を話すという展開で、読んでいて父親の辛い記憶が理解できると同時に心が静まるのを感じました。ああ、良い小説を読んだなあ…。
・チダーナン・ルアンピアンサムット「群猿の高慢」(福冨渉訳):この小説は、三尖聖塔・黒神祠・商業地区という三つの猿の群れの争いの様子が描かれているのですが、凄惨な戦争を終わらせるのが猿達ではないというのが面白かったものの意外で虚しさを覚えました。

「熊はどこにいるの」




 木村紅美「熊はどこにいるの」(『文藝』2024年秋号所収)を読みました。
 この小説では、あるショッピングモールで保護された男児(ユキ、クマオ)の存在が、熊も出没する丘の上にあるぬいぐるみ工房でほぼ自給自足生活をするリツとアイ、ビジネスホテルに住み込みで働くヒロと元美容師のサキの4人の距離や関係を変化させていくのですが、東日本大震災の津波が大きく影響しているとはいえ、ヒロとサキの最初の状況からの変化が余りに大きく、読んでいて衝撃的でした。
 一人ひとりについて、ほぼ順番に書いていくスタイルなので、余計にそう感じたのかもしれません。
 そして、ユキの成長していく様子や、ぬいぐるみ工房での生活の描写も個人的には読んでいて興味深かったです。
 リツとアイの目指す方向が違うため、ユキの見た目が女の子みたいな感じだったのが、途中から男の子の服を着るようになったり、狩に出て鹿を仕留め肉と内臓を分けたり、季節ごとに必要な作業があったり…、実際に住んでいざやるとなるとしんどいのでしょうが。
 あと、タイトルもひと目見ただけでは分からない分、魅力的で素敵だなと思いました。

「うつせみ」




 紗倉まな「うつせみ」(『群像』2024年8月号所収)を読みました。
 グラビアアイドルを職業とする主人公辰子の過去と日常、辰子と70歳を過ぎても美容整形の手術を受ける祖母(”ばあちゃん“)との思い出がほぼ交互に描かれていて、最近読んでいた幾つかの小説よりも読みやすく、面白かったです。
 そして、読み終えた後に(結論は出ませんでしたが)「人は何故綺麗になりたいか」「人の印象に残るにはどうすればいいか」…、そんな事をあれこれ思ったり考えたりしました。
 しかし、僕個人としては、主人公辰子の自分自身に対する理解の程に驚きました。
 特に同じ事務所に所属し、深夜のバラエティー番組に出始めたりしていた“みぞれちゃん”と自身とを比較した際の描写は、読んでいて少し泣けてきました。