F9の雑記帳 -26ページ目

「痼り」ほか



 『群像』2024年9月号所収の小説を2篇読みました。
 以下に感想(めいたもの)を書いておきます。


・グレゴリー・ケズナジャット「痼り」:この小説には、主人公エドワードの背中の痼りが病院の医師に手術で取られるまでが、(勤務先の翻訳会社での仕事も含めて)現在の状況や過去の思い出も交えて書かれているのですが、全体的に読みやすくて面白かったです。
 ですが、レナとのやり取りや歯医者での思い出、痼りを取る手術や主人公の感覚の描写等は良く理解できたものの、(最後の)痼りの中身を一瞬見た主人公の姿にあまり共感できませんでした。


・牧田真有子「水くぐりの夜」:この小説には、近しい者が死に1年ほど経つと一度だけ再会できる夜がやってきて、首筋に文様が出るのがその証、手順を踏んだ上で使者の耳に届くと、その夜のうちに墓地のある谷間で案内され、死者に対して挨拶を交わす事ができる“水くぐり”と言う風習が残る集落で、主人公のチカヤが経験した水くぐりの夜の様子が、当初行き倒れていたクスロとの思い出や想いも含めて書かれているのですが、主人公のクスロに対する思いが強いのは明白なのにもかかわらず、チカヤが水くぐりの”特権“(と書かせていただきます。)を行使したのはまさかの人物で、全体としては読んでいて面白かったものの、個人的には非常に驚きました。文様が表れたのとは別の人に会っても紋様は消えないと言うのに、果たして良かったのでしょうか…。まあ、主人公チカヤの気持ちと行動は分からなくもないですが…。

「島の成り立ち」ほか



 『群像』2024年9月号所収の作者が詩人の小説を2篇読みました。

 以下に感想(めいたもの)を書いておきます。


・井戸川射子「島の成り立ち」:序盤は(小説の舞台となる)島、大魚、島に流れ着いた猿等について書かれていたので期待して読み出したものの、結局は船上から海に物を落としてばかり少年の頃に無断で島に降り立ち測量士となった男性などが登場し、読んでいて面白かったものの、期待ハズレで少し落ち込みました。何だこれ。勿体ぶらないでほしいよ…。


・小野絵里華「夜のこども」:小学四年生の主人公の女児が、(まだ生まれていないが妹となるよていである)“あなた”に対して自己紹介がてら語りかける形で進んでいくのですが、主人公の好き嫌いや予知能力を語る一方で両親や周囲の人々に対する気持ちの吐露、そしてそれらの中に”あなた“に対する期待の大きさは読んでいて楽しく面白かったです。しかし、そんなにお姉さんになるのが楽しみなんだな…。

「残ること」ほか



 『群像』2024年8月号所収の3篇の小説を読みました。
 以下に感想(めいたもの)を書いておきます。


・くどうれいん「残ること」:“7年付き合った男性タケトと別れた主人公の女性が、料理中に熱々のラザニアを左足の甲に落としてしまって…”と言った内容の小説なのですが、読んでいて失恋した女性の気持ちが良く分かり、この小説の展開では主人公は今後もタケトのことを引きずるのだろうなと思いつつ、読み終えた後は(悲しい内容のはずなのに)少しスッキリした気持ちになりました。
 そんな風に感じたのは、もしかすると主人公とタケトとの思い出の描写の間に挿入される(小説上の現在である)せい皮フ科クリニックでの施術時に登場する元青果店に勤めていた女性の描写がいいアクセントになっていたからかもしれませんが…。


・張天翼「春の塩」(濱田麻矢訳・解説):この小説の主人公は男児を出産した中国人女性の儷儷、彼女の出産後の生活を中心に描いているのですが、日本とは違うなあと読んでいて何度となく思いました。いざ出産した途端に生活から何から変わらざるを得なくなる女性、それに対して生活リズムを変えなくても生きていける男性…。最後の場面で、儷儷の言葉と笑い声が聞こえた気がしました。あと、訳者解説は非常に面白かったです。


・長野まゆみ「晴、時々レモン雨」:この小説には、主人公チカ(天野千日)が兄のルカに助言を受けつつ、マドカから渡された”パウダー“を持って堺真帆のガラス工房を訪ねた際の様子が(登場人物の過去も含めて)描かれているのですが、全体的に幻想的で何度か物語の内容が分からなくなり、焦ってしまいました。
 別に難しく書いてあったりはしないのですが、ひょっとすると、最初の数行を読んだ時点で感じた違和感が最後まで拭えなかったから、先に書いたような感想(めいたもの)になってしまったのかもしれません。