『川が流れるように』

シェリー・リード『川が流れるように』(桑原洋子訳、早川書房)を読みました。
この本の「プロローグ」の部分を読んだ時、以前読んだ『この村にとどまる』のような小説なのかと思いましたが、読み進めるうちに(小説の舞台が舞台だけにその雰囲気は一部にあるとはいえ)全く異なる内容で、“主人公のヴィクトリア・ナッシュが自動車事故で母親を亡くし、家事全般をさせられていた時、偶然出会った先住民ウィルソン・ムーンの自由さに惹かれ関係を持つが、彼が死んだ後に彼女はある事情から家を出る…”と言う前半の展開だけでも衝撃的なのに、主人公の家業(桃農家)の状況の変遷あるいは息子への心情や彼に関する行為の描写は読んでいると幾度となく胸が苦しくなるなどしたので、途中何度か本を読むのを止めたくなりました。
そして、「訳者あとがき」にある通り、この小説は「喪失の痛みを知る女性たちが運命に導かれて寄り添い、立ち上がる、女たちの再生物語ともいえる」(336頁)のは確かなのですが、それ以上に内容が盛り沢山でしたので、読み終えた後に充実感と同時に満腹感も覚えました。
「草雲雀日記抄」


青野暦「草雲雀日記抄」(『文學界』2024年5月号所収)を読みました。
この小説は美大卒の主人公の初之輔と(知り合った当時は同じ大学の大学院生だった)棗との関係、初之輔が読む亡き父の菜緒太が遺した日記、あるいは彼の家族やその周辺について等が断章の形式で重層的に書かれているのですが、想像力に乏しい僕でも幾度となく内容が映像として眼に浮かび、散文詩を読んでいるように感じる瞬間が何度もありました。
まあ、もしかすると、棗のものとはやや違う、初之輔の語り口が思い出を噛みしめるようなものだったからこそ、僕は先に書いた感想(めいたもの)を書いてしまったのかもしれませんが。
あと、最終盤になって父の菜緒太が遺した日記には書かれていたものの、それ程重要ではないと(個人的には)思っていた人物が登場して語る部分が出てくるとは思いませんでした…。
「ミスター・チームリーダー」


石田夏穂「ミスター・チームリーダー」(『新潮』2024年7月号所収)を読みました。
この小説の主人公である後藤は、株式会社レンタールの(各地の建設現場に必要なものを貸し出す部門である)「建設資機材課 第2」の係長に入社9年目で抜擢される一方、趣味でボディビルコンテスト団体のJBBC(Japan Body&Building Competition)に選手登録している男です。
そんな彼がJBBCの大会にエントリーしようと減量に奮闘している時期に、在籍している課の(多くが肥満で彼が思うところでは大多数が余り仕事ができないらしい)課員を多忙な業務の中で整理していく過程をこの小説は描いているのですが、主人公である後藤が職場での人を判断する様子が減量に絡めて描写されていて、機器を貸し出した先でのトラブルを解決したり、かなりの量の仕事をこなしたからか、やや傲慢になった主人公である後藤が招く事になった結末も含めて、読んでいて何だか劇画的だなと思いました。
あと、既視感が圧倒的なある擬音が、個人的に面白かったです。