Distance~時を超え距離を超えた二人の物語 -20ページ目

第26話〜遠ざかる距離

ひろはみきに逢えない寂しさから
だんだんと他の女の子に気持ちが向かうようになった。

偶然、カナに出会った。

彼女は長いこと付き合っていた大好きな彼氏と別れて
すっかり傷心し切っていた。
ひろよりも3歳年下の彼女はその可愛い顔とは裏腹に気が強かった。

二人はそれぞれに身の上話をしているうちに
すっかり意気投合していった。

ある日、坂道でひろの前に停まっているクルマが自然と下がってきて
ひろのクルマに軽く当たった。
どうしたんだろ?と思った瞬間、カナは勢いよく助手席を降り
前のクルマの窓を叩き、こう叫んだ。

「ちょっとアンタ!人のクルマに当たっておいて、謝りもしないの?!」

ひろは少しカナのそんなところを苦笑しつつ、
みきとは違う彼女の性格に惹かれていった。
カナはひろの性格が、別れた彼氏と正反対なところに惹かれていった。

その頃みきには、新しい恋が芽生えようとしていた。
ひろとはまた違う男性に惹かれていったのだった。

カナは突然、ひろの前から姿を消した。
いつものように部屋を訪ねるとすでにもぬけの殻だった。
ひろにとってそれはショックだった。

「オレってどうして、こう、ついてねえんだろ」

いつしかそれが、ひろの口癖になっていった。

打ち拉がれたひろと毎日が楽しいみき‥‥
このときすでに、お互いを思う気持ちはだんだんと薄れていった。
いや、ほとんど頭の中には無かったのかもしれない。

もう冬がそこまで来ている頃だった。









第25話〜国際電話

ひろは緊張し震える手でダイヤルした。

国際電話の受付の女の人に、
みきのいる場所の電話番号と自分の名前を伝えた。

「しばらくお待ち下さい」

果たして、みきはその場所にいてくれるだろうか
そして、オレの声が届くのだろうか‥‥

待っている時間が長く感じた。

「どうぞ、お話下さい」

心臓が止まりそうな瞬間だった。

「もしもし」
『みきか?』
「うん!ひろ?」
『元気か?』
「うん、元気よ」
『ひろは?元気?』
「元気にやってるよ」

懐かしい声だった。
電話の向こうは賑やかな音楽が流れていた。
少しだけうるさくて、みきの声が聞き取れなかったりした。

話すことが思いつかなかった。

もし、電話の向こうが静かだったらきっと、

「みき いつ帰ってくる?」
「オマエのことが好きだ」

そんなセリフも出たと思う。

数分間だったが、みきの声を聞くことができて嬉しかった。
けれど、それは切なさを増すだけとなった。
寂しくてしようがなくなっていった。

やがてひろはだんだんと、
寂しさからみき以外の女の子に惹かれていく‥‥

1984 Summer


第24話〜返事

ひろはみきに返事を書こうとした。
しかし、何を書いて良いのか浮かんでこなかった。

「元気そうでなによりだな。良かった。
 オレはオレで、こっちで元気にやっているよ」

そんなことくらいしか書けなかった。
そして、最近聴いている音楽を何本かのテープに録音して手紙と一緒に送った。

返事を期待していたけれど、手紙はその数ヶ月経ってからだった。

逢いたくてもすぐに逢いに行くことはもう、できない。
だったら、声だけでも聞きたい‥‥

ひろは思いきって、
手紙に書かれていた電話番号に電話をかけることにした。

第23話〜エアメール

みきが渡米して数日間、
ひろはみきがそばにいないことをあまり気にはしていなかった。
しかし、そうは長くは続かなかった。

みきに逢いたい、みきの声が聞きたいという思いは
日に日に増すばかりだった。
みきの存在が大きかったと気がついた。

みきは少しだけひろのことを思い出すことはあったが、
それよりも目の前に展開するすべてのものが新鮮で楽しい毎日だった。

ひろはみきのことを考える時間を少し紛らわしたいと思い
以前よりも仕事に打ち込んだ。

同僚が嫌がる仕事も残業も進んでやった。
結局、同期で入社した連中よりも早い出世となったくらいだった。
でも、それをあまり嬉しいとは思わなかった。

家に帰ると机に一通の見慣れない封筒が置かれていた。
それは初めて見るエアメールだった。

急いで封を切ると、
懐かしいみきの文字が見えた。

「ひろ 元気でやっていますか?
 わたしは今、ロスで友だちもできて楽しい毎日を送っています」

あまり長い文章ではなかったけれど、
日々の暮らしについてあれこれと書かれていた。

「そうかあ。元気で暮らしてるんだ」

ひろは何度も何度も手紙を読み返した。

ひろは無事にみきが向こうに渡り、元気にやっていることを嬉しく思った。
そして、みきがいなくなってしょげ返っている自分が小さく思えた。
読んでいるうちに文字が霞んで見えた。

みきに逢いたい
みきの声が聞きたい‥‥思いは大きくなるばかりだった。















第22話〜渡米

空港へはみきを送って行くことになっていた。
実家に戻っているみきを、ひろは複雑な気持ちで迎えに行った。

「今度、このクルマにみきを乗せるのはいつなんだろう‥‥」

しかし、そんな気持ちは顔に出さずにいつものように迎えに行った。
大きなバッグを持ったみきがクルマに乗った。

「いよいよだな」
『うん』
「元気でな、頑張って来いよ」
『うん、ありがとう』

空港までの道は1時間と少し。
長いような短いような気がした。
話す言葉もいつもより少なかった。

出発の手続きをして、少し時間があったからラウンジでコーヒーを飲んだ。

「半年経ったら帰ってくるから」
『うん』
「元気でね」
『うん、みきもな』
「うん、ありがと」

出発の時間が近づいてきた。

ひろは荷物でいっぱいのみきのバッグを手渡した。

「それじゃ、行くね」
『うん。気をつけてな』

ふたりは握手をした。

みきがゲートを通った。
ひろは少しの涙でみきの顔がかすんで良く見えなかった。

みきは歩きながら振り返り、大きく手を振った。
ひろは立ち止まったまま、それに応えるようにうなずきながら手を振った。
お互いに姿が見えなくなるまで、何度も繰り返した。

「もう、終わりかもな‥‥オレたち‥‥」

ひろは急に情けない、そんな気になった。

「ひろ、ありがとう!」

みきは希望に満ちあふれ、ロサンゼルスへ向かって飛び立った。

この日を境に別々の道を歩き始めるとは
ふたりともまだ気がつかないでいた。

1984 Apr,