Distance~時を超え距離を超えた二人の物語 -21ページ目

第21話〜決意

新しい年がやってきた。

この年の冬は例年になく雪が多く寒い冬だった。
ふたりで行った雪祭りの夜も寒くて、
体を寄せ合いながら歩いたものだった。

冬も終わりのある夜、みきはひろに真剣な話を切り出した。

「ねえ、ひろ。わたし、アメリカに行こうと思っているんだけど」
『えっ?アメリカに?』

ひろは、みきの言っていることが、なにがなんだか分からなかった。

「アメリカって、あのアメリカ合衆国か?」
『うん』
「どうして?なにをしに?」
『歌やダンスの勉強をしてみたいの』

ひろは床を見つめ、少しの間無言だった。
急に寂しくなったけれど、こみ上げてくるものがあったけれど、
みきにそんな格好の悪い自分を見せたくなかった。

「ねえ、どう思う?」
『みきがそうしたいのなら、そうすればいいよ』
「うん」
『でもさ、行く以上はしっかりやって来いよ』
「うん、ありがとう」

みきはもし、ひろが反対しても行くつもりだった。
ひろはそんなつもりはなかったけれど、
引き止めるものを何一つ持っていない自分を、少し悔やんだ。

「ひろ、わたし、半年したら帰ってくるから」
『半年だなんていうなよ。納得するまでやってみるといいよ」
「うん、ありがとう。でもきっとひろのところへ帰ってくるから」
『うん‥‥』

渡米は4月の上旬を予定していた。

ひろはだんだんと、みきが急に遠い存在になって行くような気がした。
自分の手の届かない異国の地。行ったことのない未知の地‥‥

それからひろは、あまりみきの部屋には行かないようになった。
なぜなら、離れるのが寂しかったし、辛かったからだった。
そして、

「やっぱり行くのは止せよ」などと

弱々しく言ってしまう自分がいそうな気がして、
でもそれは、男らしくないと思う自分がいたからだった。

でも本音は行かないで欲しかった。
だんだんと離れる日が近づいていった‥‥


第20話〜素敵な夜

ひろは大きな花束をみきに見つからないように廊下に立てた。

「ただいま」
『おかえり。遅かったじゃない』
「ゴメンゴメン。渋滞で遅くなっちゃった」
『お疲れさま!』

みきはひろにキスをした。
そしてテーブルの上のたくさんの料理を得意そうに見せた。

テーブルでふたりは向き合った。

「すげー料理だな!美味そう!」
『でしょう?頑張って作ったんだ』
「う~、腹減った」
『その前に‥‥電気を消して‥‥」

ケーキのロウソクに火を灯し、部屋の明かりを消した。

ふたりはしばらく小さな炎を見つめていた。
そして、シャンパンを開け乾杯をした。
幸せに包まれていた。

「さっ、プレゼントの交換をしようか」
『うんうん』
「はい、これ、オレからみきに‥‥」
『それじゃ、わたしから、ひろへ‥‥」


みきはひろが買ってきた腕時計を喜んだ。
イメージ通りのものだった。
ひろはみきが買って来たシューズを履いてみた。
サイズがぴったりだった。

ひろはみきの手料理を「美味い美味い」と食べた。
みきはそんなひろの言葉が嬉しくてたまらなかった。

「あっ、みき、ちょっと待ってて」
『どうしたの?』

ひろは玄関のドアを開け、
みきに向かって大きな花束を差し出した。

「はい、これ、みきへ」
『えっ!うわ~ありがとう!』
「また来年もこうやって一緒に過ごそう」
『うん!』

最高に幸せなクリスマスイブの夜だった。
ふたりはまた、いつものように抱き合って眠った。

いつまでもこうしていられたら‥‥
いつもクリスマスには、こうしていられたら‥‥

しかし、
次にクリスマスをふたりで過ごすのはこの24年後になるのだった‥‥

1983 X'Mas


第19話〜クリスマス

寒い冬がやってきた。
クリスマスが近くなったある日、ひろはみきに聞いた

「みき、クリスマスイブの夜は仕事か?」
『ううん。日曜日だから休みよ』
「それじゃあ、ふたりで過ごせるんだ」
『うんうん』
「みき、オマエに何かプレゼントしたい」
『えっ?』

お互いにプレゼントは何が欲しいか聞いた。
みきは腕時計が欲しいと答えた。
ひろはコンバースのシューズが欲しいと言った。

イブの日、ひろは仕事だった。
みきはふたりで食べる料理を作りひろの帰りを待った。
みぞれが降り続ける夜になった。

ひろはみきが欲しいと言っていた時計を探した。
イメージしているものがなかなか見つからなかった。何件もの時計屋を巡り探しまくった。
だんだんと帰る時間は遅くなり、焦るばかりだった。

やっとのことで、イメージにぴったりの時計を見つけることができた。
探しはじめて3時間以上が経っていた。

信号待ちで、花束を抱えている紳士の姿が目に入った。

ひろはみきを驚かせようと、途中の花屋に入り大きな花束を注文した。
花束はどう渡そうか‥‥
なんて言って渡したらいいか‥‥

そんなことを考えながら、みきの待つ部屋にクルマを飛ばした。
コーヒーのいい香りが漂う通路を通り抜け、
ワクワクしながらドアをノックした。





第18話〜都会へ

ふたりで過ごす季節は春から夏に変わっていた。
変わらない日々は、いまとなっては懐かしい時間だった。

秋になり、みきの仕事が都会でのものに変わることになった。
そして、会社で用意されている部屋に移り住むことになった。

1階が喫茶店で、その上は事務所が入った階がいくつかあって、
最上階の奥にみきの住む部屋が用意されていた。
窓からは少しだけ都会のネオンが見えた。

会社の部屋ということもあって、
他人が入ることはあまり好ましい様子ではなかった。

それでも、ひろは周囲に気がつかれないようにみきの部屋を訪ねた。
そして会社の帰りによく行くようになった。

みきにとってこの部屋は会社のものでありみきのものだった。
ひろにとってはそれが少しだけさみしく思っていたが、
でもふたりだけでいられる空間があることを嬉しく思っていた。

そして当然のようにいつしかひろは泊まるようになって行った。

みきが仕事で遅い夜はクルマで迎えに行った。
会社の人たちに見つからないように、
少しだけ離れた場所にクルマを置いて待ったりしていた。

後で聞いた話だが、
みきの部屋に誰か男が出入りしているということで、
色々と聞かれたようだったが、みきは上手く誤摩化したようだった。

そんな日々が続き、冬がやってきた。







第17話〜白いクーペ

やがて春になり、
ボクたちは変わることなくいつも一緒にいた。
もしかしたら以前より、交わす言葉も少なくなっていたかもしれない。

それでも気持ちは変わることがなかった。
むしろ、もっともっとお互いに必要としていたと思う。

ひろはみきに相談することがなく、
欲しくてたまらなかった大きな白いクーペを買った。
まず最初は絶対にみきを乗せようと思っていた。
そして驚かせようと思った。

納車の翌日にひろはみきを職場までいつものように迎えに行った。

時間になってみきが出て来た。
でも、クルマが変わったことの知らないみきは、
待ち合わせ場所にずっと待っていた。

いたずらにひろはそんなみきを運転席から見ていた。
そして助手席の窓を開け、こう言った。

「彼女、お茶でも飲みに行きませんか?」
『はい?』
「オレだよ!みき」
『ええっ?どうしたの?このクルマ』
「えへへ、買っちゃった」

内緒で買ったことをみきは責めるわけでもなかった。
むしろ、今となっては思い出に残るクルマとなった。
二人でまた小旅行の足にもなったクルマだった。

思い出のクルマのミニカーは
今もなお、ひろの部屋に飾ってある。