#6
同時刻。
バイトが休みのときは、もっぱら自炊のサドは、スーパーで材料を買いこみ、自宅へ帰るところであった。
「今日は、豚しゃぶカレーにするか。やっぱりカレーは最高だな」
野菜がつまったビニール袋を、肩にかけ、ご機嫌の様子のサドだった。
「久しぶりだな。篠田」
突然、
夜の闇が切り取られたかのように見えた。
「誰だ?」
月が雲に隠れ、顔がよく見えない。
「四年ぶりだ」
雲間から、月明かりがもれ、照らしだされる姿。矢場久根高の制服。
「おまえ……阿部か…B中の」
「そうだ。だが、あの頃のわたしとは違う。いまは、矢場久根死天王と呼ばれている。あのときの決着をつけに来た」
矢場久根死天王のアルファだった。
「あのときのケンカのことか…たしかにあれは、後味の悪い終わり方だったな」
「あのせいで…兄は…兄は…」
「しかし、あれは、事故だった」
「うるさい!兄が、車椅子生活になったことに変わりはないんだよ!」
アルファは、とりつく島もなく、攻撃を仕掛けてきた。
瞬時に、サドの背後にまわり、手刀で、サドの首を打つ。
肩にかけていた、ビニール袋が、落ち、ジャガイモが転がり出た。
「ちっ!少しは速くなったようだな。阿部」
アルファの動きに驚きながらも、余裕を見せるサド。
「いまでは、柏木先輩以上だ!」
そして、再び、サドの視界から消えた。
サドは、拳を繰り出すも、当たらない。
しかし、アルファは死角から、鋭い攻撃を繰り返す。
サドは、勘だけをたよりに、アルファの手刀をよけていた。
「くそっ!しぶとい!」
アルファはスピードを上げた。
「ちっ!これじゃ埒があかねー!」
サドは、着ていたスタジャンを脱ぎ捨てた。
「っらあ!」
かけ声一番、サドは背後に向け、回し蹴りを放った。
両手でブロックするアルファ。
「さすがだな、篠田」
そのときー
「僕の永遠の魂よ 希望は守りつづけよ 空しい夜と烈火の昼が たとい辛くとも」
どこからともなく、詩を詠む声が。
「死の宣告…?まさか…」
アルファが振り返る。暗闇から、ブラックこと柏木ユキが、姿を見せた。
「熱き血潮の柔肌よ 明日は もう ない」
バイトが休みのときは、もっぱら自炊のサドは、スーパーで材料を買いこみ、自宅へ帰るところであった。
「今日は、豚しゃぶカレーにするか。やっぱりカレーは最高だな」
野菜がつまったビニール袋を、肩にかけ、ご機嫌の様子のサドだった。
「久しぶりだな。篠田」
突然、
夜の闇が切り取られたかのように見えた。
「誰だ?」
月が雲に隠れ、顔がよく見えない。
「四年ぶりだ」
雲間から、月明かりがもれ、照らしだされる姿。矢場久根高の制服。
「おまえ……阿部か…B中の」
「そうだ。だが、あの頃のわたしとは違う。いまは、矢場久根死天王と呼ばれている。あのときの決着をつけに来た」
矢場久根死天王のアルファだった。
「あのときのケンカのことか…たしかにあれは、後味の悪い終わり方だったな」
「あのせいで…兄は…兄は…」
「しかし、あれは、事故だった」
「うるさい!兄が、車椅子生活になったことに変わりはないんだよ!」
アルファは、とりつく島もなく、攻撃を仕掛けてきた。
瞬時に、サドの背後にまわり、手刀で、サドの首を打つ。
肩にかけていた、ビニール袋が、落ち、ジャガイモが転がり出た。
「ちっ!少しは速くなったようだな。阿部」
アルファの動きに驚きながらも、余裕を見せるサド。
「いまでは、柏木先輩以上だ!」
そして、再び、サドの視界から消えた。
サドは、拳を繰り出すも、当たらない。
しかし、アルファは死角から、鋭い攻撃を繰り返す。
サドは、勘だけをたよりに、アルファの手刀をよけていた。
「くそっ!しぶとい!」
アルファはスピードを上げた。
「ちっ!これじゃ埒があかねー!」
サドは、着ていたスタジャンを脱ぎ捨てた。
「っらあ!」
かけ声一番、サドは背後に向け、回し蹴りを放った。
両手でブロックするアルファ。
「さすがだな、篠田」
そのときー
「僕の永遠の魂よ 希望は守りつづけよ 空しい夜と烈火の昼が たとい辛くとも」
どこからともなく、詩を詠む声が。
「死の宣告…?まさか…」
アルファが振り返る。暗闇から、ブラックこと柏木ユキが、姿を見せた。
「熱き血潮の柔肌よ 明日は もう ない」
#6
前田は、制服に着替え、新宿にあるアンダーガールズ総本部の前までやってきた。だれにも告げることなく。
本部ビルは十数階建てであった。
入り口から、黒の特攻服に身を包んだ少女が微笑みをたたえて、あらわれた。
どこかで見たような、と前田は思った。
「やっほー!久しぶりー」
先日、マジ女に侵入し、チームホルモンを一瞬で倒していった少女だと、前田は気づいた。
生徒会長を攫っていった、張本人、須田アカリであった。
「生徒会長をかえしてください!」
「まあまあ、あわてない、あわてない。ルール説明するから。」
「ルール?」
「このビルは、私たち組織のビルでね、普段は上のほうのフロアしか使ってないんだー。でもね、ゲームになると、一階から、それぞれのフロアが、親衛隊十人衆それぞれのテリトリーになって、侵入者を待ち受けるってわけ。どこかの階に生徒会長はいるよ。その上に隊長の高柳アカネさんと総参謀の大矢マサナさんがいて…」
「要するに、親衛隊を倒していけばいいってことですね」
「そういうこと。でも、親衛隊は強いよー。特殊訓練を受けてるし、変なちから持ってるやつ多いし。化け物もいるし。あ、私も十人衆のひとりだけどね、パフ」
「最初の相手はあなたですか?」
くだらない口上につきあっている余裕はなかった。一刻も早く、生徒会長を救い出したい前田であった。
「残念ながら、一階は私じゃないんだよねー。上で待ってるよ。前田」
そう言って、アカリはビルの中に消えていった。
前田も、続いて、ビルのなかに駆け込んだ。
「おもしろいことになってきたっすねー」
ビルの影には、ネズミの姿があった。
本部ビルは十数階建てであった。
入り口から、黒の特攻服に身を包んだ少女が微笑みをたたえて、あらわれた。
どこかで見たような、と前田は思った。
「やっほー!久しぶりー」
先日、マジ女に侵入し、チームホルモンを一瞬で倒していった少女だと、前田は気づいた。
生徒会長を攫っていった、張本人、須田アカリであった。
「生徒会長をかえしてください!」
「まあまあ、あわてない、あわてない。ルール説明するから。」
「ルール?」
「このビルは、私たち組織のビルでね、普段は上のほうのフロアしか使ってないんだー。でもね、ゲームになると、一階から、それぞれのフロアが、親衛隊十人衆それぞれのテリトリーになって、侵入者を待ち受けるってわけ。どこかの階に生徒会長はいるよ。その上に隊長の高柳アカネさんと総参謀の大矢マサナさんがいて…」
「要するに、親衛隊を倒していけばいいってことですね」
「そういうこと。でも、親衛隊は強いよー。特殊訓練を受けてるし、変なちから持ってるやつ多いし。化け物もいるし。あ、私も十人衆のひとりだけどね、パフ」
「最初の相手はあなたですか?」
くだらない口上につきあっている余裕はなかった。一刻も早く、生徒会長を救い出したい前田であった。
「残念ながら、一階は私じゃないんだよねー。上で待ってるよ。前田」
そう言って、アカリはビルの中に消えていった。
前田も、続いて、ビルのなかに駆け込んだ。
「おもしろいことになってきたっすねー」
ビルの影には、ネズミの姿があった。
#6
「ったく、お前は、勝手にひとの名前使って、メール送ってんじゃねーよ!」
アンダーガールズ親衛隊長の高柳アカネが、総参謀の大矢マサナに、新宿総本部最上階総司令部で、詰め寄っていた。どうやら、勝手に、前田に送られたメールに立腹しているらしい。
「何がゲームだよ!オレの手で、前田をぶっ飛ばしたかったのによー!」
苛立ちを露わにするアカネ。冷静に受け流すマサナ。
「事態は、そう単純な話ではないのです。おそらく、あなたなら、簡単に前田を倒せるでしょう。ただ、それだと、あまりにも面白味にかけるというもの」
「また、どうせ、政財界のお偉いさんの退屈しのぎなんだろ?」
「そういう方々のご機嫌も、取っておかないと、このご時世、組織は運営できませんからね。先日は派手にやりすぎました。当事者たちは、もとより、我々も検挙されてもおかしくはない騒ぎでした」
先日のファミレス事件のことだ。
細かいことはよくわかんねー、とアカネは、ぼやきながら、ソファから立ち上がり、壁にずらりと並んだ十数台のモニターを眺める。モニターには、監視カメラの映像がビル内のそれぞれのフロアを映し出していた。
「要するに、前田がそれぞれのフロアにいる十人衆を倒して、ここまでたどり着けばゲームクリアってことだろ」
「さて、何階まで辿り着きますかね」
「それが、賭けの対象なんだろ?十人衆相手だぜ。一階で終わりだろうよ。つまんねーな」
「会員様方には、過去のデータ、パーソナルコンディション、あらゆる情報を熟知されたうえで、BETしていただいております。その結果、やはり、一階が一番人気となっています」
つまり、前田が一階で敗れるという予想が一番多いようだ。会員には、インターネットを介し、リアルタイムで映像が送られていた。
「十人衆は、全員、不死身だからな」
アカネは、自信に満ちた表情でつぶやいた。
アンダーガールズ親衛隊長の高柳アカネが、総参謀の大矢マサナに、新宿総本部最上階総司令部で、詰め寄っていた。どうやら、勝手に、前田に送られたメールに立腹しているらしい。
「何がゲームだよ!オレの手で、前田をぶっ飛ばしたかったのによー!」
苛立ちを露わにするアカネ。冷静に受け流すマサナ。
「事態は、そう単純な話ではないのです。おそらく、あなたなら、簡単に前田を倒せるでしょう。ただ、それだと、あまりにも面白味にかけるというもの」
「また、どうせ、政財界のお偉いさんの退屈しのぎなんだろ?」
「そういう方々のご機嫌も、取っておかないと、このご時世、組織は運営できませんからね。先日は派手にやりすぎました。当事者たちは、もとより、我々も検挙されてもおかしくはない騒ぎでした」
先日のファミレス事件のことだ。
細かいことはよくわかんねー、とアカネは、ぼやきながら、ソファから立ち上がり、壁にずらりと並んだ十数台のモニターを眺める。モニターには、監視カメラの映像がビル内のそれぞれのフロアを映し出していた。
「要するに、前田がそれぞれのフロアにいる十人衆を倒して、ここまでたどり着けばゲームクリアってことだろ」
「さて、何階まで辿り着きますかね」
「それが、賭けの対象なんだろ?十人衆相手だぜ。一階で終わりだろうよ。つまんねーな」
「会員様方には、過去のデータ、パーソナルコンディション、あらゆる情報を熟知されたうえで、BETしていただいております。その結果、やはり、一階が一番人気となっています」
つまり、前田が一階で敗れるという予想が一番多いようだ。会員には、インターネットを介し、リアルタイムで映像が送られていた。
「十人衆は、全員、不死身だからな」
アカネは、自信に満ちた表情でつぶやいた。