144番 あなたの尺八と琵琶は
144番目の詩。天上の音楽を聞きながら。
あなたの尺八と琵琶は
何という天上の音楽なのだろう。
過去の悲しみも地獄も消え、
僕は聞きながら昇天してしまう。
あなたが奏でている調べは
何という恍惚なのだろう。
過去の苦痛も屈辱も忘れ、
あなたは自分の魂と化している。
あなたから輝き出るオーラは
何というイデアなのだろう。
過去のすべての罪が消え、
僕は男を忘れ人間を感じる。
あなたの尺八と琵琶は
何という狂気なのだろう。
あなたは激しく鎖を否定し、
愛を奏で、僕と溶け合う。
143番 近所の知り合いが
143番目の詩。ご近所が引っ越しされたと聞いて。
近所の知り合いが
急遽引っ越しして行ったそうだ。
そのご夫婦は同居の母親を
介護していたらしい。
僕も65を過ぎて、人ごとではない。
介護が現実となった。
若い時の恋愛が
かろうじて今を照らし てくれている。
僕もやがて赤ん坊のように
あなたの愛がなければ
生きていけなくなるのに、
あなたを慕うことしかできなくなる。
何もできず寝たきりでも
あなたの自由を奪わずにすむだろうか。
そうだ、いまから死と恋をして、
最後は、形振りかまわず死に結婚してもらおう。
142番 この空しさは何だろう
142番目の詩。面会に行って。
この空しさは何だろう。
透明なプラスチックのボードの向こうで
青年は、安心しました、と言った。
僕のこの空しさは一体何だろう。
作っては壊し、
また作っては壊す、
人生は積み木崩しの遊びなのだろうか。
僕は今まで必死に生きて来た。
父親がお膳立てをしてくれた人生も
母親が期待した人生も
どれも押し付けられた人生なのだろうか。
彼は、また親の顔に泥を塗った。
私は私自身でなければいけない、
アメリカの大思想家の金言がいつも浮ぶ。
僕自身の歌、とホイットマンが言う。
僕自身の歌を彼は刑務所で創造するのだろ うか。