本作品においては、登場人物の言動から、其々の抱える「共依存」的な性向が垣間見えることがあります。その描写は極めてリアリティに満ちており、この物語にえも言われぬ深みを与えていると言えるのではないでしょうか。

(予定外)



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本考察では、作中における登場人物其々の「共依存」的な描写について考察するとともに、そのパーソナリティに関しても考察するものとします。

「その4」においては渡直人の「共依存」的な性向について考察すると共に、「共依存」と並んで本作品のテーマである「家族」との関連性等についても考察します。


本考察の構成は以下の通りです。


1 作中における渡直人の「共依存」的な言動

2 渡直人の「共依存」性に関する考察

3「家族」というテーマと渡直人の「共依存」性との関連

4 渡直人のパーソナリティについて


正直、大変つまらない内容かと思いますし、また、実際に共依存等に関して造詣が深い方々からすると誤りばかりの内容になるとは承知しております。何卒ご了承頂ければと存じます。

今回は「その1(後編)」として、作中(7巻)における渡直人の「共依存」的な言動について述べさせて頂きたいと思います。


タイトルが本当に訳が分からなくて済みません。

「共依存」シリーズはこれまで「その3」までやっております。其々は以下の通りです。宜しければご覧下さい。

・その1:渡鈴白編

・その2:梅澤真輝奈編

・その3:石原紫編 前編後編


1 作中における渡直人の「共依存」的な言動

作中において、渡直人は時折「共依存」的な言動を見せます。それらの場面を抽出、如何なる意味合いで「共依存」的であるのかを説明します。

前回は1巻及び2巻での渡直人の「共依存」的な性向が描かれた場面について述べさせて頂きました。

共依存編・渡直人・その1



今回は、ストーリーの流れとしては前回からだいぶ飛びますが、第7巻での描写について考察させて頂きます。


第7巻における渡直人の「共依存」に係る描写について

第7巻は、渡直人と館花紗月との謂わば「家族」としての関係性が、密やかに、それは宛ら深層底流の如く描かれている巻とも言えましょう。

第7巻考察まとめ

第7巻テーマ考察


そして、その中において、渡直人の抱える根深い「共依存」的な性向が、彼の抱える謂わば「空虚さ」と共に、恰も水底から浮かび上がるかの如く描かれているようにも思われます。

以後、第7巻における渡直人の「共依存」的な性向に係る描写について述べさせて頂きます。


①渡多摩代との会話の場面(7巻第2話)

[作中の描写]

夏休みのある日のこと。バイトに出かける前に家事を済ませた渡直人は心中で満足げに「よし」と呟く。

そんな彼のその瞳の色はどこか虚だった。

そんな渡直人に対し、渡多摩代が「おい」と呼び掛け、そして夏休みの補講について尋ねるが、彼は補講に行くのは止めたと答える。それを聞いた渡多摩代は驚いたかのように「お前、本当は大学進学したいとかじゃないのか?」と問い掛ける。狼狽したかのような気を見せる渡多摩代に対し、渡直人は「オレ、そんな身分じゃないし」と答え、そして続けて「高校卒業と同時に出て行く予定なんで」と言葉を続ける。

(未来(7巻第2話))

[考察]

第7巻においては渡直人の抱く「空虚さ」、或いは「自己無価値観」が次第次第に露わになっていきますが、この場面は謂わばその端緒とも言えるものでしょう。

この場面における渡直人の発言から伺える彼の考え(或いは価値観)は、大きく以下の二つであろうかと考えます。

考えその1:渡直人自身の明確な願望は希薄である。

考えその2:渡直人は彼自身が他者にとって価値が低いものと考えている。

以下、其々について述べさせて頂きます。


考えその1:「渡直人自身の明確な願望は希薄である」について

渡直人の価値観、それは渡鈴白との関係が最も重要だというものであり、彼女との関係を良好に保ち、そして彼女の良き庇護者として振舞う、というものなのでしょう。

物語の進展に伴い、渡鈴白との関係性の重みは相対的に些かは減じ、また「共依存」的な関係性も薄れつつはあるものの、渡直人にとって渡鈴白との関係性が最も重要であるというスタンス自体が変わることはありません。

(日常生活の中心(1巻第1話))

そして、渡直人のその考え方或いは価値観の裏側には、彼自身の願望が希薄である、ということもまたあるのでしょう。

作中において、渡直人は時折、優柔不断な面を垣間見せます。例えば、4巻第4話では館花紗月に対し、石原紫に告白されたものの答えを出すのが怖いと述懐しています。

(「優柔不断」(4巻第4話))

渡直人のこの怯えとも取れるような述懐は、彼自身が男女交際ということについて特に考えを持っていなかったことに因るものだと考えます。

そして、異性と関係を進展させることへの興味が希薄であることは、思春期の男子の考え方にしては違和感を抱かざるを得ないものなのでしょう(渡直人が異性との関係を深めることを躊躇うのには、館花紗月との関係における、ある種の「トラウマ」の存在もあるとは思いますが、彼の願望の希薄さを述べる上では最も顕著な例ですので敢えて挙げさせて頂きました)。

やや脱線はしましたが、渡直人が大学進学を望まない、それが彼の将来の選択肢として全く俎上に上がる気配が無いのは、彼の価値観は基本的に空虚であり、そしてその「空虚」を渡鈴白との関係性が埋めているといった構図になっているためなのではないかと考えます。


考えその2:渡直人は彼自身が他者にとって価値が低いものと考えている。

7巻第2話における渡多摩代との会話において、「オレ、そんな身分じゃないし」という、自虐めいた渡直人の台詞は、ある意味で一際異彩を放つものと言えるでしょう。

(「身分」(7巻第2話))

身分」という言葉を渡直人は口にし、その言葉を耳にした渡多摩代は狼狽え、そして呆気に取られたような感じで「身分て」と呟きます。

この台詞から伺える渡直人の考え、それは自分は他者にとって価値が低い存在である、といったものでなかろうかと思われます。

渡直人の自己評価の低さに係る描写は、渡多摩代との関係性のみならず、石原紫との関係性においても散見されます。例えば、6巻第5話にて、渡直人が石原家にお邪魔し、石原家の家族写真を見ている場面にて、石原紫が家族から愛されて育った様を見、「ホントにオレなんかが彼氏でいいんだろうか?」などと心中で述べています。

(「オレなんかが(6巻第5話))

勿論、この「引け目」の要因には、高校随一の美少女である石原紫に対し、見た目等が平凡である自分自身が果たして釣り合うのか?といった考えもあるとは思われますが、それのみならず彼自身の謂わば社会的な立場、あるいは出自に対しての、言うなれば劣位感が、この「引け目」の要因としてあるのではないかと考えます。

渡多摩代との会話にて口にした「身分」、そんな言葉を口にする自己認識の理由には、両親の急逝後、冷遇を受けながら親族間をたらい回しにされ、そして渡多摩代もこれまでの親戚達と同様に自分達を好意的には受け入れていないと考えてしまうという、昨今の境遇に由来するものもあるとは思いますが、石原紫との関係性においてもそれと似通った自己認識が見え隠れすることから、それとはまた異なる理由もあるのではと考えます。

(冷遇(1巻第4話))



②石原美桜との会話の場面(7巻第6話)

[作中の描写]

渡直人は石原美桜と立川駅前のドーナツ屋さんにて、石原紫との交際に関して話し合いをする。意を決し、石原美桜が二人の交際に反対する理由は「セックス」への懸念にあると問うた渡直人は、自分が産まれた経緯について彼女に語る。両親は高校生の時に渡直人を産み、大変に苦労して彼を育てたことを述べた後、彼はこう石原美桜に述懐する。

「両親にとって、オレは予定外だったけど、鈴(いもうと)は違うから。オレら家族にとって鈴が一番大事だから。だから、だからオレは鈴を悲しませるようなことは絶対にできないんです。」

(「予定外」の子供(7巻第6話))

[考察]

渡直人の「共依存」的な性向の根とでも言うべき、彼の哀しいまでの自己認識が明かされる描写なのでしょう。

渡直人の出生の経緯については、6巻第6話における渡直人の夢の中にて、夢の中に現れた館花紗月の口から語られるという形でも述べられています。

(「罪」(6巻第6話))

7巻第6話のこの場面において、まず印象的なのは「予定外」という渡直人の台詞でしょう。

渡直人を「予定外」に授かってしまったが故、両親は駆け落ちをし、そのため元々の渡家は崩壊してしまった。そして、産み育てるために両親は大変な苦労をしてしまった渡直人、そんな彼に対し、謂わば「予定」に則って「望まれて」産まれた渡鈴白。

渡直人は、己の産まれに原罪とも言うべき後ろめたさを感じ、そして、「望まれて」産まれた渡鈴白への謂わば劣位感といったものを抱いているのかもしれません。

また、両親を喪ってしまった現時点において、「望まれて」産まれてきた、両親の忘れ形見とも言える渡鈴白を支えることが、「予定外」に産まれ、両親に多大な苦労をかけてしまった自分の責務であると考えてしまっているのだろうとも想像されます。


両親が高校生であるのに授かってしまい、そのために両親は駆け落ちをし、元々の渡家は崩壊、産まれた渡直人を育てるために大変な苦労を掛けてしまった。そのことが渡直人に謂わば「原罪」とでも言える意識を植え付けてしまっていたのでしょう。

(自らに突き付ける「原罪」の意識(6巻第6話))

そのことが、渡直人の自己肯定感の低さの大きな要因となり、そして、「共依存」的な性向の根本となっているのかと考えます。


今回は以上で終わらさせて頂きます。

最後まで読んで下さりありがとうございました。