本作品においては、登場人物の言動から、其々の抱える「共依存」的な性向が垣間見えることがあります。「共依存」に係るその描写は極めてリアリティに満ちており、この物語にえも言われぬ深みを与えていると言えるのではないでしょうか。
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本考察では、作中における登場人物其々の「共依存」的な描写について考察するとともに、そのパーソナリティについても考察するものとします。
「その4」においては渡直人の「共依存」的な性向について考察すると共に、「共依存」と並んで本作品のテーマである「家族」との関連性等についても考察します。
本考察の構成は以下の通りです。
1 作中における渡直人の「共依存」的な言動
2 渡直人の「共依存」性に関する考察
3「家族」というテーマと渡直人の「共依存」性との関連
4 渡直人のパーソナリティについて
正直、大変つまらない内容かと思いますし、また、実際に共依存等に関して造詣が深い方々からすると誤りばかりの浅薄な内容になるとは承知しております。何卒ご了承頂ければと存じます。
今回は「その1(前編)」として、作中(1巻及び2巻)における渡直人の「共依存」的な言動について述べさせて頂きたいと思います。
※タイトルが本当に訳が分からなくて済みません。
「共依存」シリーズはこれまで「その3」までやっております。其々は以下の通りです。宜しければご覧下さい。
・その1:渡鈴白編
・その2:梅澤真輝奈編
1 作中における渡直人の「共依存」的な言動
作中において、渡直人は時折「共依存」的な言動を見せます。それらの場面を抽出し、そして、如何なる意味合いで「共依存」的であるのかを説明します。
渡直人は渡鈴白とのやり取りにおいて、その「共依存」性を色濃く見せることがあります。特に、第1巻から第2巻にかけてはその傾向が顕著です。それらについて述べていきます。
①1巻第1話:渡鈴白が畑作りを所望する場面
(望むものは「畑」(1巻第1話))[作中の描写]
渡直人から誕生日のプレゼントとして欲しいものを決めておくよう言われた渡鈴白は、色々考えた挙句、「畑が欲しい」と彼に告げます。渡多摩代も交えたやり取りの末、渡直人は「とりあえず、やってみるか」と渡鈴白の要望を受け入れます。
しかしながら、畑仕事は多くの時間を割くものであり、渡直人は渡鈴白の世話と併せて、学校以外の時間の多くをそれに費やすこととなってしまいます。にも関わらず、「それで鈴が満足できるなら」と、唯々諾々とそれを受け入れています。
[考察]
この描写における渡直人の思考は、彼の価値観が渡鈴白との関係性に偏っていることの表れとも言えましょうし、そして1巻第1話冒頭の級友との会話と併せ、彼の抱くある種の歪な価値観、渡鈴白との関係性以外に関心を抱くことは無いといった、ある種の心の空虚さが最初に垣間見えるシーンであるとも言えましょう。
(関心事は妹との関係性(1巻第1話))②1巻第5話:渡鈴白が隠していたテストの回答を見てしまった後の場面
[作中の描写]
雨の日、遅い帰りを渡鈴白から怒られることを懸念した渡直人は館花紗月から傘を借り、急いで家に帰りますが、押し入れの中から渡鈴白が隠していた満点のテストの回答を発見してしまいます。
帰宅した渡鈴白との会話の後、何故か動揺した彼は逃げ出すかのように家を出、そして、渡鈴白との関係性に思いを馳せて愕然たる思いに囚われます。
(「必要とされることが必要」(1巻第5話))そして、「もし鈴が成長して、オレを必要としなくなったら?」との思いが渡直人の脳裏を過りますが、そこで彼はそれ以上考えることを止めてしまいます。
(愕然たる思い(1巻第5話))[考察]
渡直人の抱える「共依存」性が色濃く描かれたシーンであると言えましょう。
ここで明らかになる渡直人の「共依存」的な性向は、所謂「必要とされることを必要としている」という考え方なのだと考えます。
「渡鈴白が頼れるのは自分しか居ない、自分がいないと渡鈴白は駄目なままである。だから、自分の生活の中心は渡鈴白である。」
そういった関係性の構図となっているのは、渡鈴白がそれを求めているからだけでなく、それを渡直人も必要としている、欲しているが故である、ということに渡直人は思い至ったのでしょう。
極端な考えかもしれませんが、渡直人は渡鈴白にいつまでもダメなままで居て欲しいと無意識の内に願ってすらいたのかもしれません。
(「ダメ鈴」(1巻第5話))1巻第5話の冒頭における、渡直人と渡鈴白が連れ立って登校するシーンでの二人の会話は、前述のシーンと併せて、渡兄妹の共依存性を色濃く表してるいるものと言えるでしょう。
渡鈴白は兄の渡直人を束縛し続けたいがために成長を拒否し、自分以外の世界と関わることに拒否感を示す。渡直人は妹の渡鈴白に「必要とされることが必要」であるが故に、彼女の成長を望まない。そして、渡鈴白以外の人間関係に興味を示さない。それが二人の間の暗黙の了解事項であったのかもしれません。
(抗議(1巻第2話))やや脱線しますが、渡鈴白の観点から考えてみると、彼女が1巻第2話冒頭で示した渡直人への拒否的な態度は、単に渡直人が渡鈴白以外の他者に興味を示したことへの怒りのみならず、この「共依存」的な関係性、言うなれば一種の共犯的な関係性を壊しかねないことへの抗議であり、言うなれば1巻第5話での渡直人の愕然とした表情の対偶であるとも言えるのではないでしょうか。
1巻に見られる渡直人と渡鈴白との関係は、お互いの成長を望まない、まさに「共依存」的な関係性であると言えましょう。
参考考察:渡鈴白編
③ 2巻第1話:館花紗月のアパートにおける彼女との会話の場面
(見透かされた「本音」(2巻第1話))[作中の描写]
逃げ出すように家を出た渡直人は、彼に傘を貸したばかりに、その体を濡らしつつ帰る途中の館花紗月に出会います。雨に濡れそぼった館花紗月に自分の上着を着せ、彼女をアパートまで送る渡直人。
彼女のアパートに着いた後、あっさりと別れを告げる館花紗月に対し、渡直人は意表を突かれたように驚き、そして何か言いたげな表情をその顔に浮かべながら彼女の部屋の前から立ち去ろうとはせずにいます。
そんな渡直人に対し、館花紗月は訝しげな表情を浮かべながら「帰んないの?」と問いかけ、そして、彼の上着の袖を掴んで部屋の中に引き入れました。ここにいてもいい、と渡直人に語り掛ける館花紗月に対し、彼は渡鈴白を一人で残しておくわけにはいかないとその提案を断ろうとします。そんな渡直人に対し、館花紗月はこう語り掛けます。
「たまには直くんの気持ちを優先したっていいんじゃない?」
「それとも、直くんが鈴ちんのこと優先してないと不安なのかな?」
館花紗月のその言葉を耳にした渡直人は、虚を突かれたような表情を浮かべ、館花紗月に掴みかかります。そして、「わかったような事言うな!」と声を荒げます。
(荒げる声(2巻第1話))[考察]
館花紗月によって渡直人の本音が炙り出されているようなシーンと言えるでしょう。
館花紗月が渡直人に向けて語りかけた言葉、それはまさに彼の本音そのものだったのではないでしょうか。館花紗月のこの台詞は、1巻第5話において、渡直人が「やばい何か…ダメだこれ以上は」と、考えることを拒否した内容そのものだったのではないかと考えます。
(拒否しなければならない考え(1巻第5話))「もし鈴が成長して、オレを必要としなくなったら?」という渡直人の自問と、館花紗月が彼に向けて問いかけた「それとも、直くんが鈴ちんのこと優先してないと不安なのかな?」とは、表現は異なれども、その本質は同一のものなのでしょう。
この時点における渡直人の謂わば「存在意義」とは、渡鈴白の「世話を焼く兄」という役割だったのだと思われます。
渡直人の自問である『渡鈴白が成長して「世話を焼く兄」が不要になってしまう』ということと、館花紗月の問い掛けが意味する『渡直人が渡鈴白との関係性以外に何か関心を抱くなりして「世話を焼く兄」という役割を手放す』ことは、その過程が受動的であれ能動的であれ、「世話を焼く兄」という役割が終わることを意味するものです。
大袈裟な言い方になりますが、「世話を焼く兄」という役割は、言うなれば渡直人がこの世に立つ瀬であるので、その役割を手放すことは最早恐怖でもあり、そして、その恐怖は怒りを掻き立てるものでもあるのでしょう。それ故、渡直人は彼の本音を代弁した館花紗月に対し、激烈な反応を示してしまったのでしょう。
このシーンの後、渡直人は帰途の途中で渡鈴白との関係性について思いを巡らせます。
(お互いを「否定しない」関係性(1巻第5話))この場面において語られるのは、渡直人が渡鈴白と「共依存」的な関係性に陥った理由の一つと言えるのでしょう。両親の急逝後、二人を冷遇する親戚達の間をたらい回しにされるという、周囲の人達から存在を肯定してもらえない環境にあって、 渡鈴白との関係性とは自分の存在意義を肯定してくれるものでもあり、その関係性とは渡直人にとって、情緒的な面において死活的に重要なものでもあったのでしょう。
(冷遇される日々(1巻第4話))今回は以上で終わらさせて頂きます。
「その2」では、2巻以降に見られる渡直人の「共依存」性が描かれた場面について述べさせて頂く予定です。
最後まで読んで下さりありがとうございました。