本作品においては、登場人物の言動に、「共依存」的な要素がしばしば見受けられます。このことが本作品に『闇』的な要素を与え、そして奥深さを醸し出す一つの要素なのかなと考えます。


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今回は「特別編その5」の第2回目として、「共依存」とは何ぞや?ってことについてざっくりとお示しした上で、梅澤真輝奈の共依存的な言動について説明したいと思います。

あと、今回の投稿は心理学的な話になってしまいますが、私は精神科医でも臨床心理士とかでもありません。仕事の都合でこの手のことについて学ばざるを得ない機会があったため、若干の知識はありますが、素人の範疇を出るものではありません。あくまで参考程度の話ということでご承知おき下さいm(_ _)m


正直、今回の投稿はあまりにアレなので、あんまり面白くないと思います(いつももそうじゃん?と言われればその通りなんですが)。来てくれたのにごめんなさい🙏


「共依存」とは?

誤解を恐れずザックリと言ってしまうと、自分の心の安定のために他人を必要としなきゃいけない状態のことです。

少し横文字的なことを並べてしまいますが、アメリカの心理学者マズローによると、人間の欲求の段階は、以下の5つに分けられるそうです。

その1:生理的欲求

ご飯食べたいとか、物理的に快適に暮らしたいって欲求です。

その2:安全の欲求

物理的な危険から逃れたり、心理的な悩みから解放されたいって欲求です。

その3:社会的欲求

人との関係で満たされたいって欲求です。愛されたいとか受け入れて欲しいとか親密さが欲しいとかってものです。

その4:尊敬、評価の欲求

自尊心をちゃんと持ちたいとか、自分自身に価値を感じたいとかって欲求です。

その5:自己実現の欲求

創造性を発揮して人生を豊かにしていきたいって欲求です。

(マズローの三角形的なやつ)

人が育っていく過程で、その1~その4がちゃんと満たされていたら、自立した感じの大人になって、自分の好きなこと、やり甲斐のあることを見つけていい感じに人生を送れるんですが、それらが十分に満たされていないと、これを何とかして満たさなきゃって衝動を心の中に抱え込んでしまいます。大なり小なり、そんな気持ちは誰しも持っているとは思いますが、その気持ちが対人関係や日常生活に支障を来しちゃうひとつの表れ方が「共依存」なのかなと思います。人との関係の中で過度にお世話したりお世話されてみたり、力ずくで人間関係をコントロールしようとしたりあるいはそれを受け入れたりと、不自然で側から見ると居心地悪そうな人間関係になってしまってるのが「共依存」のかたちでもあるのかなと思います。


「共依存」って具体的にどんな感じ?

「共依存」の具体例としてよく取り上げられるのがアルコール依存症の家庭の話です。

以下、例え話です。

登場人物について

登場人物①:男性

お父さんが家庭内暴力しちゃう家庭で育っちゃいました。お母さんはお父さんのことで気持ちがいっぱいいっぱいで男性にはあんまり構ってあげられませんでした。なので、男性はお母さんに十分に甘えられず、「社会的欲求」が満たされないまま大人になっちゃいました。大人になんで、お母さんに甘え足りなかったなんて自分で認められません。でも寂しくてたまりません。結果、お酒をガブ飲みして寂しさから逃れようとするようになっちゃいました。

登場人物②:女性

兄弟姉妹の多い家庭で末っ子として育ちました。ぶっちゃけ予定外の子だったので、親からはあんまり優しくされませんでした。家庭の中で必要だと思われたり、役立つことを求められることがありませんでした。なので、自尊心が欠けたまま大人になってしまいました。子供の頃の思い出は嫌なので記憶の奥底にしまい込んでしまったけど、誰かの役に立って自尊心を満たしたいって気持ちは強いので、何かとお節介な人になってしまいました。

例え話

男性と女性は出会い、いい感じになって結婚しました。最初のうちは男性もあんまりお酒飲まなかったけど、月日が経つにつれ、またお酒をいっぱい飲むようになってしまいました。夜も遅くまで外で飲んで帰って来ます。休みの日は朝から家でお酒飲んだりもします。女性は最初のうちは困ってましたが、そのうち甲斐甲斐しくお世話をするようになります。酔って帰ってきた男性に水飲ませたり着替えさせたり寝床までおんぶしたりします。男性が問題ばかり起こすので、迷惑をかけた相手に謝りに行ったりお酒止めようよと男性に言ったり、家のお酒の瓶を隠したりして何かとお世話を焼きます。でも男性はお酒を止めることなく、下手すると更にハードな問題起こします。場合によっては警察にご厄介になっちゃったりします。その度に女性は男性を迎えに行ったり色んなところに男性の代わりに謝ったりします。また、知り合いに「うちの男性ってお酒飲んでばっかり。私はお世話ばかりしなくちゃいけないからもう大変!」って愚痴をこぼしたりします。

何が問題なの?

最大の問題は、男性も女性もそれぞれが抱えている内心の問題が何一つ解決しないことにあります。そして、状況は全く良くならず、男性はそのうち避け飲み過ぎで体を壊しちゃったりします。

男性はお酒飲んで問題を起こし女性から色々お世話を焼いてもらうことで一時的に満足しちゃうし、女性は男性を甲斐甲斐しくお世話することで、「あぁ、私って人の役に立っているんだ。」と一時的に自尊心が満たさ満足しちゃいます。なもんで、2人とも延々とこれを続けちゃうのです。ホントは男性は自分がお母さんに大切にされなかったことに向き合って自分の心を満たすようにしなきゃいけないし、女性も男性のお世話なんかしてないで、育った家庭の中で相手にされなかった自分を見つめ直さなければなりません。でも、そういうのはとても辛いし大変な作業です。だから、男性も女性も根本的な問題に向き合うことなく、男性はお酒を飲んでは女性にお世話されて虚ろな満足感を味わい、女性はお酒ばっか飲んでる男性のお世話をして束の間の自尊心を味わうのです。男性にとって女性には自尊心の欠けたままであって欲しいし、女性にとっては男性にお酒ばかり飲んで問題を起こしてもらうことが必要なのです。それが2人の虚ろで何も生み出さない幸せなのです。

共依存とは、目先の安逸さ、目先の人間関係の安定のために、お互いの成長を互いに妨げてしまっているような関係とも言えるのかもしれません。一緒にいても成長しない人間関係って言い方もできるのでしょう。


梅澤真輝奈の共依存的な言動について

作中における梅澤真輝奈の言動を見ていると、共依存的な傾向が見受けられます。まず、梅澤真輝奈の性格の特徴を述べた上で、「共依存」という観点から彼女の言動について考察してみたいと思います。

梅澤真輝奈の性格の特徴について

①劣等感が強い

梅澤真輝奈の性格の特徴としてまず挙げられるのは、劣等感の強さではないでしょうか。劣等感の強さ故に、それを刺激されない自分より劣っていると思われる相手を求めるのかと思われます。

②承認欲求が満たされていない

梅澤真輝奈は、いわゆる承認欲求が満たされていないのではないかと思われます。承認欲求とは何ぞやとザックリ言うと、要は他人から受け入れられたいとか、集団の中で尊重されたいとかって気持ちです。

梅澤真輝奈の言動、特に強迫的に賞賛を求める態度を見ていると、褒められる経験、十分に愛される経験、ありのままの自分として受け入れられる経験に飢えているのかな?って気がします。

(褒められないと気が済まない)

③「①」及び「②」の反動として、自意識過剰であり、他者からの注目や承認に固執する

梅澤真輝奈はとにかく目立ちたがり屋であり、また、自分が他者から注目されるべき存在であるという思いが強いように思われます。それはおそらく劣等感が強く、そして承認欲求が満たされていないことの反動だと思われます。

(チヤホヤされることを求める)

④成功体験等に拘る

梅澤真輝奈は基本的に自己承認ができません。基本、自分に自信がありません。だからこそ他者から常にそれを供給してもらわなければなりません。しかしながら、ありのままの自分ではそれを受け取れない、といった思いも抱いているのかなと思います。なので、自分がそれを受け取るための理由付けも必要なのでしょう。「私はこういった理由があるから他者は自分を褒めるべきだ」、「私はこういった素晴らしい人間だから、他者は私に注目すべきだ」みたいな理由付けが常に必要なんだろうなと思います。

(可愛い私には惚れるべき、みたいな?)

⑤自我が弱く、挫折に弱い

自分が本当に何がしたいのか、などといった目的意識などが希薄だと思われます。そのため、自我が弱く、自分の力で挫折から立ち直ることは困難と思われます。

梅澤真輝奈は現在、部活で思うような成果が出せずに派手な格好をするとか、バイトや渡直人へのちょっかいなど現実逃避とも取れる行動に走っていますが、それらも自分が置かれた不都合な現実に向き合えない、自我の弱さの表れであるように感じられます。

(現実逃避)

⑥「③」のため、他者との協調性が低い

承認欲求に飢えており、他者と関わる際においても、その飢餓感を満たそうという衝動が強く、周りの反応等に対する配慮が欠けるきらいがあり、ともすれば自己中心的に振舞ってしまう傾向があるため、どうしても協調性を欠いてしまいます。

5巻第2話のバイト初日にキッチンの制服が可愛くないと文句を言い出したのも、周囲が自分に注目すべきだ、自分のワガママを受け入れるべきだ、といった、欲求承認に飢えているが故の反応としての言動なのではないでしょうか。

(ワガママ)

⑦本当は内気で気弱

可愛らしく明るく活動的、自信過剰で自己主張が強く、ともすれば強引、そしてワガママってのが梅澤真輝奈の最初の印象なのかなと思います。特に5巻第1話ではその印象が強いのではないでしょうか。

しかしながら、それらは言うなれば、「虚勢」としての部分も大きいのかな?とも思います。5巻第4話で彼氏役の徳井から逃げ出した後の動揺し震えながら本音を思わず吐露しているシーンでは、内気で気弱な彼女の本質が垣間見えますし、渡直人に想いを抱きつつあるシーン、特に花火で彼女の言葉がかき消されてしまうシーンでは、最後まで言えずに終わってしまうなど、普段の彼女とはまるで違う気弱な態度を見せたりもしています。

本来は気弱で内気だけれども、承認欲求に飢えているが故に、ある意味強迫的にそれを求めざるを得ず、結果強気に振る舞うことになってしまってるのかな?とも思います。

(気弱な本性)

「共依存」の観点からの人間関係の考察

梅澤真輝奈の言動において、「共依存」の傾向が色濃く現れているのは、5巻第1話から第2話、そして第4話における渡直人との関係だと思われます。

梅澤真輝奈は基本的に渡直人をバカにし、そして見下しています。しかしながら、彼との関係に固執します。やむを得ない事情がない限り、自分が軽蔑してしまうような相手とは距離を置こうと考えるのが大多数の人の判断なのかな?と思うんですが、梅澤真輝奈はそうではありません。その理由として、以下のことが考えられます。

①劣等感を補うため

性格の項で述べたように、梅澤真輝奈は基本的に劣等感が強いと思われます。そのため、自分の劣等感を刺激してしまうような相手と一緒にいることは苦手です。その好例が5巻第4話の花火大会において、彼氏役の徳井から逃げた場面でしょう。徳井はコミュニケーション能力に長けている「普通」の男子です。梅澤真輝奈の浴衣も自然に褒めました。そんな「普通」の人と一緒だと彼女の劣等感が刺激され居心地が悪いのでしょう。だからこそ徳井から逃げ、気が利かず、そして劣等感を刺激されることのない渡直人に彼氏役をしてくれと頼んだのでしょう。

(安心できるのは見下せる相手)

また、「見下せる」ということも重要なのでしょう。自分より劣り、見下せる相手ならば優越感を味わえるのでしょう。相手を見下している限りは、劣等感を心の奥底に封じ込めることができます。心の安定のためには、見下せる相手が必要なのでしょう。

②承認欲求を満たすため

梅澤真輝奈は承認欲求に飢えているものも思われます。飢えているが故に、それを求めるのは脅迫的になってしまう傾向があります。

5巻第1巻における学食でのシーンでは、渡直人のクラスメイトからチヤホヤされ、それがさも当然であるかのような態度を示していました。

梅澤真輝奈は、渡直人を「冴えない」と認識しています。そして、「冴えない」渡直人は、「可愛くて陸上の女王と呼ばれ、推薦で名門校に入学した」素晴らしい梅澤真輝奈に対し、常に注目し、そして好意を抱いて当然といった考えを持っているのでしょう。

5巻第1話では、渡直人に対して自分と付き合いたいんですか?と、さもそれが当然であるかのような質問をしますし、第2話ではバイト中にも関わらず、自分に興味を示さない渡直人にイライラもします。バイト後に遊びに行こうとの誘いを断ったら激怒もします。「冴えない」渡直人は自分に興味を示して当然であり、自分の誘いには喜んで応ずるべいなと考えている、また、自分の承認欲求を満たして然るべきだといった考えを抱いている故なのだと思われます。

(「アタシからの誘いを断った」から激怒)

③自分と同じような「不幸」な相手を欲する

5巻において梅澤真輝奈は、推薦で高校に入学したはずなのに、陸上競技の成績は振るわずに熱意を失ってしまっており、そして部活の中の人間関係でも孤立してしまっています。相当に進退窮まった状況でありますが、状況の打開のために有効な行動も起こせずにいます。逆に派手な格好をしたり、夏合宿があるにも関わらずバイトを始めてしまうなど、現実逃避の傾向が強くなっています。「性格の特徴」の項で述べた、「自我が弱く、挫折に弱い」、そして、「他者との協調性が低い」ことが、この要因なのかなと思われます。おそらく、心中では自分自身の状況を「不幸」などと認識しているのでしょう。なので、自分と同じような「不幸」な境遇の相手を求めてしまうのだと思われます。「幸福」な相手、自分の状況に満足している相手だと、自分の境遇を直視せざるを得ず、そして境遇に対する自分の無力さを認識せざるを得ません。なので、両親を失い、親戚の家をたらい回しにされ、「不幸」な境遇の渡直人なら、ある意味安心して関わることができるのでしょう。自分の境遇は不幸だけれども、渡直人はもっと不幸だと変な意味で彼女の心の支えになってしまっているのかも知れません。

(求めていたのは自分と「同じ」であること)

梅澤真輝奈が渡直人との関係で求めたもの

5巻において、梅澤真輝奈が渡直人に求めていたことは、「冴えない」存在であって彼女の劣等感を刺激せず、そして見下せる存在であること、格下の存在として彼女を賛美し彼女を求めることにより承認欲求を満足させること、そして、「不幸」な存在であって彼女と傷の舐め合いをする、あるいは彼女よりも不幸な存在として彼女の現実逃避を肯定する、といったところなのかな?と思えてしまいます。

その関係において、お互いの成長は求められていません。渡直人は冴えない存在でなくてはならず、見下せる存在でなくてはならず、そして「不幸」な存在でなくてはなりません。

互いの成長を求めず、目の前の心の安定、そして、現実逃避の肯定を目的とした関係は、まさに「共依存」的な関係と言えるのではないでしょうか。

しかしながら、梅澤真輝奈のその目論見、共依存的な関係の相手として渡直人を見なそうという考えは、5巻第4話において破綻してしまったのでしょう。

石原紫と交際している渡直人は幸せそうであり、自分と「同じ」ではなかったことを梅澤真輝奈は知ってしまいました。

(冴えなくもない、見下す対象でもない相手)

そして何よりも、渡直人の「本当にもう逃げようがない状況で、大事な人が傷つけられそうになったら、その時は命懸けで守るよ、どんなことをしてでも」といった言葉、そしてその時の態度に心惹かれてしまいました。つまり、渡直人を冴えなくもなく、見下す相手でもない、その対極とも言える、いわば頼り甲斐のある男性として認識してしまいました。

(成長の痛み、かも?)

彼女の浮かべた涙、それは成長の痛みでもあるのかもしれません。


以上、梅澤真輝奈の共依存的な言動に関する考察でした。

ともすれば、梅澤真輝奈に対して酷い言い振りになってしまっているかもしれません。お気を悪くされた方がおられましたらお詫び申し上げます。しかしながら、ここまで深く、ここまでリアルに登場人物の内面を、そして成長の過程を克明に描いていることは本作の大きな魅力であると考え、申し訳ない気持ちを抱きつつも敢えて考察させて頂いている次第です。すんません。


最後まで読んで頂きありがとうございました。