アインシュタインのお薦め本(ある会話から) | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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Aくん「(講義後に)あのう、アインシュタインって、結局、どこがすごいんでしょうか。やっぱり、数学ですか?」

ぼく「アインシュタインの数学能力は、それほどでもなかったらしいね。大学のときアインシュタインを教えた数学の先生(*1)がそんなことをいっていたよ。アインシュタインの特殊相対性理論を4元ベクトルとテンソルで示したり、一般相対性理論を同じ形式で表したりするのは、その先生が協力しているしね(*2)」

Aくん「じゃあ、アインシュタインのすごさって、どこにあるんですかね」

ぼく「物理的な直感というか、宇宙を物理学的に捉える能力かな。たとえば、相対性理論でつかうローレンツ変換は、アインシュタインより先にローレンツという人が作っているんだけど、数式的にはまったく同じでも、その意味をどう捉えるかで、まるっきり違うんだ。物理を理解するには高度な数学も必要だけど、数学と物理はそもそも、まるっきり違う学問だからねえ」

 

Aくん「それはどういうことですか」

ぼく「光速に近い速度で進むとき、例えば物体の長さは運動方向に縮むんだけど、ローレンツは空間はそのままで、物体の長さが縮むと考えた。でも、アインシュタインは空間そのものが縮むので、その結果物体の長さも縮むと考えたんだ。時間もそう。他の人たちは、どんな運動をする人にも、共通の時間が流れていると考えた。これはニュートン以来、誰もが疑わなかった考え方なんだけど。でも、アインシュタインはそこから疑ってかかっているからね」

Aくん「ええと、動いていると時間の進みが遅くなるというやつですか」

ぼく「うん。もともと、アインシュタインは運動する人から見た時間や空間がどう変わるかを調べるために相対性理論を作ったわけじゃない。ガリレオの相対性原理をさらに推し進めて、誰から見ても物理法則はおなじになっているはずだという信念から、物理現象を見直した結果、相対性理論にたどり着いているんだ」

 

(*1)ミンコフスキー教授。アインシュタインが大学生(チューリヒ工科大学)の時の数学の先生で、アインシュタインを「怠け者」と呼んだ。

(*2)で、アインシュタインの特殊相対性理論の数学的な特性をまとめて、時空を4元ベクトルで表すことで、相対性理論を数学的にすっきりさせた。ローレンツ変換がこの4次元空間での回転に当たるということも、ミンコフスキーの発見。4次元で表すことで、どの現象がローレンツ変換を行っても不変かを、個別にいちいち計算しなくてもわかるようにした。

 オマケですが、ガンダムに出てくる「ミノコフスキー粒子」なる謎のガジェットは、おそらくこのミンコフスキーの名前からヒントを得ているのではないでしょうか。

 

Aくん「それは、どんなことですか」

ぼく「アインシュタインが自分で書いた自伝みたいな本(アインシュタイン回顧録)があるんだ。普通の人なら、いついつ誰々にあってこんなことがあったとかって、まあ自分の人生を振り返る本だけど、アインシュタインの回顧録はどうやって物理の理論について考えてきたかという内容なんだ。それを読むと、そもそもが子供の頃(*3)の光についての疑問が最初にあったんだって。ガリレオの相対性との関係で考えると結論が出なくて、そのときは解決しなかった。それをのちに解決した論文が、相対性理論なんだよ」

Aくん「具体的にはどういうことですか」

ぼく「電磁誘導という現象がある。コイルのそばで磁石を動かすと起電力が生じて電流が流れるという現象で、ファラデーが発見した。この現象、コイルを止めておいて磁石を動かしても、磁石を止めておいてコイルの方を動かしても、結果的には同じように起電力が生じて電流が流れるんだけど、当時の物理理論では、この2種類の現象はそれぞれ違う仕組みで起きていると説明されていた。でも、アインシュタインは、ガリレオの相対性原理から、コイルと磁石の相対的な運動によって起こる電磁誘導現象は、コイルから見ても磁石から見ても同じ仕組み(法則)として説明できないといけないはずだと考えたんだよね。相対性理論によって、<ここまでは電気現象、ここからは磁気現象>というような区別をする必要がなくなったんだ」

 

Aくん「そういうことですか」

ぼく「だから、アインシュタインの最初の相対性理論の論文のタイトルは、<相対性理論>じゃなくて、<動く物体の電気力学>なんだよ。時間や空間が運動する人によって異なるというのは、誰から見ても物理法則が同じになるという、ガリレオの相対性原理を拡張するときに、必然的に生まれた考え方だったんだ。だから、アインシュタインの相対性理論の式とローレンツの式は数学的には同じでも、その物理学的な捉え方がまるっきり違うから、相対性理論の発見者は当然アインシュタインということになる」

Aくん「ああ、数学的にすごいんじゃなくて、物理的な直感がすごいというのは、そういうことだったんですか。その回顧録、ぼくらでも読めますか?」

 

(*3)16歳のとき、光と同じ速さで進みながら光を見たら、止まって見えるのか、それともやはり光速で進むのが見えるのかを、ガリレオの相対性原理をもとに考え、疑問に思ったという逸話。都市伝説のような話だが、アインシュタイン自身が回顧録でそう書いているので、本当のことだろう。

 

ぼく「<アインシュタイン回顧録>(*4)は相対性理論の解説書じゃなくて、どうやって相対性理論という発想に至ったかという、アインシュタインの考え方の変遷を書いた本だから、誰にでも読めるよ。それに、他のどの解説本より、本質的なことが書いてあるから、すごくわかりやすい。文庫本で手に入るし、お薦めだね」

Aくん「相対性理論の最初の論文というのは、難しそうですね」

ぼく「<相対性理論>(*5)というタイトルで、これも文庫で手に入る。うん、まあ数式も出てくるから、大学生になって電磁気、とくにマクスウェルの方程式を習ってからの方が読みやすいだろうね。でも、この本は、他の本と違って、相対性理論の専門家が訳しているから、そういう意味ではわけのわかんない文章が一つもなくて、安心して読める本だよ」

Aくん「わけのわかんない・・・ですか」

 

ぼく「じつはね、有名なアインシュタインの<相対性理論の意味>(*6)という本があり、これも翻訳が出ているんだけど、こちらはわけのわかんない文章がいっぱいでね」

Aくん「それは、専門家が訳したんじゃないんですか」

ぼく「それがね、こちらは有名な数学の先生で、プリンストン大学でアインシュタインのもとに1年くらいいたという先生の訳なんだけど・・・」

Aくん「わけわかんないですか」

ぼく「大学生のときにね、その本を読んだんだけど、最初の数ページを読んだだけで、もうわけがわかんなくなっちゃってね。何度読んでも理解できない文章があったんだ。まあ、学生の頃だから、自分の理解力の問題かと思ったんだけど、やっぱり、どうにも理解できなくて困っちゃってね。ふと、翻訳書じゃなくて、原書だったらどうかな、と、大学の理学部図書館を探してみた。そしたら、英語版があったんだ」

Aくん「へえ、英語で読んでみたんですか」

ぼく「うん。もちろん、困っていた最初の数ページ分だけだけどね。ところが、やっぱり、わけがわかんなかった。英語文を見ると、たしかに翻訳書の日本語はその英文を忠実に訳していることもわかった。でも、英語で読んでも、まったくわかんなかったよ」

Aくん「それはつらいですね」

ぼく「でね、ふと、アインシュタインは亡命アメリカ人だって、思い出したんだ。ヒットラーのユダヤ人迫害で、アインシュタインは賞金首みたいに追われる立場だったからね。だから、ドイツ人であるアインシュタインは、論文や本はドイツ語で書いている。それで、ひょっとしてドイツ語版はないかなと、さらに図書館を探してみたんだ」

 

Aくん「執念ですね」

ぼく「どうしても気になったからね。そしたら、奇跡的に、その本のドイツ語版があったんだ。これは、アインシュタイン自身が書いた本だよ。で、そのわけのわかんない文章の場所をドイツ語版で見てみたら・・・」

Aくん「どうでした?」

ぼく「空間に格子を張り巡らせて、その交点に時刻を合わせた時計をずらりと並べるとこうなる云々・・・とすごくわかりやすい書き方がしてあった。それを読んでから英語版と日本語版を見直してみたら、たしかに同じ内容なんだけど、アインシュタインの書いたその部分の文をわかりやすくしようとして、簡潔に書いて逆に分かりにくくなってしまったんだとわかった。日本語版は、その意訳した英語版を忠実に訳しているから、やっぱりわけがわからない、という、笑い話みたいなことだったんだよ。まあ、そういう本なので、細かい文章表現は無視して読めば、読める本だよ。でも、初めて相対性理論を学ぶ人が読むには厳しいかな」

Aくん「そんな偉い数学の先生が訳しているのに、ですか」

ぼく「数学と物理は違うんだよなあって、そのとき思ったよ。この翻訳者の数学の先生はプリンストン大学でアインシュタインといっしょに過ごした人だし、アインシュタインのいわゆる伝記(アインシュタインではなく別の伝記作家が書いたもの)も翻訳しているし、自分でもそれを下敷きにした伝記を本にしているんだけどねえ」

 

Aくん「最初にいっていた、数学と物理は違うっていうやつですね」

ぼく「だから、はじめて相対性理論がらみの本を読む人は、へんな解説本や、物理学者でない人の訳した本は避けた方がいい。その点、第一論文を翻訳した<相対性理論>は、物理の、それも相対性理論の専門家が訳しているから、物理的な意味がよくわかって、お薦めだよ。だいたい、この文庫本、全体の3分の1くらいが原論文の翻訳で、残りの3分の2が翻訳者が書いた訳者補注とおまけの相対性理論の解説や用語解説になっているんだ。こちらもわかりやすい」

Aくん「ぼくにも、読めますかね」

ぼく「数式のところはわかんないだろうけど、論文の大事なところは数式じゃなくて考え方を述べたところだから、数式はそんなもんかなと斜め読みにしれもいい。完全な理解はできなくても、もっとも大事な物理的な意味を知ることはできるよ」

 

(*4)『アインシュタイン回顧録』アルバート・アインシュタイン著、渡辺正訳(ちくま学芸文庫)

(*5)『相対性理論』アインシュタイン著、内山達雄訳(岩波文庫)

(*6)『相対性理論の意味』アインシュタイン著、矢野健太郎訳(岩波書店)

 

 

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