宇宙創生・ドゴンの神話とビッグバン理論 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 けっこう前に「水の神/ドゴン族の神話的世界」(マルセル・グリオール著、坂井信三・竹沢尚一郎訳、せりか書房)を、ブックオフで入手しました。(以前のブックオフは、古本自体の価値ではなく、別の価値観で値段をつけていたらしく、ときどき、こういう貴重な本が、安価で手に入りました。今はそうでもないようですが)

 

 ドゴン族という文字を見て、一も二もなく、買いました。

 

 

  昔、とある科学番組で、ビッグバンと同じ宇宙観の神話体系を持つ未開部族の話を見たことがあります。研究者がそこへ出向き、語り部から宇宙創生の話を聞くという内容でした。

 

 その部族名がドゴン族だったのです。

 

  テレビで見たドゴン族の語り部は「原初の宇宙は卵のようなもので、それがあるとき爆発して拡がり、東西南北や時間ができた」といっていました。

 

 インタビュアーの「それより前に何があったか」という問いかけに笑いながら、「それより前は時間がなかったのだから、それを聞くのは無意味だ」と答えていたのが印象深かったですね。

 

 まさに、現代宇宙論の時間に関する発想と同じだなあ・・・と。現代物理学では、時間と空間は、ビッグバンから宇宙が生まれたときに生まれた、という発想で組み立てられていますから。

 

 ビッグバンの最初、宇宙は点でした。時間も空間もありません。ビッグバン(大爆発と直訳できますが、じっさいには大膨張ですね)により、複数の粒子がある距離へだてることになり、そこに空間と呼べるものができたと考えられますし、それぞれの粒子が相互に起こす現象の順番が、時間と呼べるものになったと考えられます。したがって、ビッグバンによって空間と時間ができた、というのが、現代物理学の基本的な発想です。

 

 購入した本は、フランスの民族学者マルセル・グリオールの著書で、オゴテメリという語り部の話をまとめたものだということでした。1931年から25年にわたってドゴン研究を行っています。この本は、1948年に出版された本の邦訳で、1997年に発行されたものです。1946年に一ヶ月ほどかけて著者が取材し、語り部により語られた内容のようです。

 

 ぼくがブックオフでこの本を手に入れたのは、たぶん、2010年前後だったと思います。

 

 もちろん、テレビの取材より昔に研究されたものです。テレビ番組ははっきりした年は覚えていないのですが、1980年〜90年頃に放映されたものだったと思います。

 

 テレビの番組では「この部族に語り継がれてきた神話が現代物理学の最新学説に驚くほど一致している」といった類のコメントがありました。

 

 ぼくもそのコメントがすごく気になり、ドゴンの文化のこと、とくにその宇宙観のことを詳しく知りたいなあと思っていたのです。

 

 でも、この本を読んで見て、TV番組での取材とは、語り部の語る宇宙観が、ずいぶんちがうことがわかりました。

 

 この本には、宇宙の卵とその爆発に類する話は出てこないからです。

 

 この本の語り部オゴテメリの宇宙創生の話は、こんな感じです。以下の【  】は本からの抜粋です。

 

【はじめの頃、女たちが子供たちに星を取ってやっていたというのは本当だ。子供たちはそれにつむで穴をあけ、そうして作った火のこまをまわしながら、世界がどのように動いているかを知ろうとした(後略)】

 

【星は、唯一神アンマが虚空に向かってなげた土の玉から生じた。しかしそれより先に彼は、ずっと複雑な技術をもちいて太陽と月を作っていた。それは土器の技術であったが、人間が初めて発明したものではなく、神が最初にやってみせたものだった(後略)】

 

【神アンマは、腸詰状の粘土を取り上げると片手で握りしめ、星を作ったときのように投げつけた。粘土は平らに広がっていって、上の方つまり北に達し、下の方つまり南にも延びていった】

 

【大地は東西の方向にも広がりながら、子宮の中の胎児のように手足が分かれていく。それは1つの身体である。つまり、中央にかたまっていた手足が四方に広がっていったものである。そしてこの身体は、南北の方向にあおむけに横たわっている女なのである。(中略)アンマは1人でいたのでこの被造物と交わりたくて、彼女に近づいていく。<宇宙>の無秩序が初めてもたらされたのは、まさにこの時だった】

 

 二つめの【粘土】が後になって【宇宙の卵】に変化したのだと思われます。

 

  アインシュタインの特殊相対性理論が世に出たのは1905年で、宇宙論につながる一般相対性理論が発表されたのが1915年。

 

 アインシュタインの一般相対性理論の宇宙方程式を解いた、オランダのド・ジッターが「宇宙の膨張」を指摘したのが1917年。

 

 ベルギーのルメートルが「宇宙が凝縮された宇宙卵から始まり、それが爆発してその膨張が運動を引き起こした」と発表したのは1927年。

 

 それを詳しく検討して、ロシアのガモフがビッグバン宇宙論を展開したのは1948年。(ちなみに、ビッグバンという言葉は、イギリスのフレッド・ホイルがガモフの理論をちゃかして名づけたものです)

 

 ガモフが予言した宇宙の背景輻射を、アメリカのペンジアスとウィルソンが偶然発見したのが、1964年で、ビッグバン理論が一般にも知れ渡るようになったのは、これ以降のことになります。

 

 

 知的好奇心旺盛なフランスの民俗学者がドゴン族を調べたとき、当然文化や知識の交流があっただろうし、そのさい、ヨーロッパの科学上の発見が、やはり好奇心旺盛なドゴン族の語り部に吸収された可能性は捨てられません。

 

 これは、アフリカの他の地域でみられる「カーゴ神話」でも見られることです。空を飛ぶ飛行機を見て、未開の村では、それを神の使い「カーゴ」ととらえて、新しい神話が生まれました。

 

 ひょっとすると、オゴテメリ一とグリオールの交流を通じ、ヨーロッパからもたらされた最新の情報と、ドゴン部族の神話が、融合されていったのかもしれませんが、背景輻射の発見が1964年であることを考えると、グリオールより後の時代の研究者からこの話がドゴン族にもたらされたと推測できますね。

 

 神話と現代物理学の描く宇宙像との奇妙な一致は、それを裏付けているようにも見えます。 

 

 そのテレビ番組では、語り部にアインシュタインの写真を見せ「この人もあなたと同じことをいっている」と問いかけました。

 

 語り部が返した言葉が「この人はわれわれの村を訪れたことがあるんじゃないか。そのとき、われわれの神話を聞いたのだろう」でした。

 

 それは彼自身の体験の裏返しだったのではないかと思われます。

 

 調査する側がそれと気がつかぬうちに、調査対象者に「知識を吸い取られた」典型例かもしれません。

 

 

 

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