債権法の改正により、「契約の締結及び内容の自由」の規定(521条)が新設されました。いわゆる「契約自由の原則」です。

契約自由の原則は、改正前民法の解釈においても採用されていた法理であり、当たり前すぎる原則として明文規定がありませんでした。

しかし、国民にわかりやすい民法を目指す観点から、今回の改正で新設されました。

契約自由の原則は、⑴契約を締結するかしないかの自由、⑵契約の相手方を選択する自由、⑶契約の内容決定の自由、⑷契約の方式の自由のことをいいます。

設例を見てみましょう。

(設例)

①建築業者Aは、Bの自宅建築工事を受注したが、Cからの自宅トイレのリフォーム工事の依頼については、「今忙しいので。」と言って断った。
②医師Aが開業する外科医院の目の前で交通事故があり、Bが負傷した。Bは、Aの医院に駆け込んでAに診療を申し込んだが、Aは、「今忙しいので。」と言ってBを診察しなかった。

 

(契約の締結及び内容の自由)
第五百二十一条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
 

建築業者の受注(設例①)については、契約自由の原則が適用されるので、Cからの注文を受ける義務はありません。他方、医師(設例②)はそういうわけにはいかず、医師法で応召義務がありますので(民法521条1項の「法令に特別の定めがある場合」にあたります。)、契約自由の原則を盾にBとの診療契約の締結を拒むことはできません。

なお、契約自由の原則を制限する法令には、医師法のほかにも、鉄道営業法、ガス事業法、水道法、電気事業法等があります。

鉄道やインフラは、費用を払う以上、サービスの提供を拒否できません(⑴、⑵の自由の制約)。

また、契約当事者が合意すれば法律の規定と異なる内容の契約を締結することもできます。例えば、不動産取引では、売買契約において所有権の移転時期を契約時ではなく決済時としたり、土地の賃貸借契約において建物買取請求権を排除したりすることが多くあります。

しかし、当事者が合意したからといってどんな内容でも契約できるものではありません。例えば、賃料増減額請求権は特約で排除することができませんし、愛人契約など公序良俗に反する契約も無効となります(⑶の自由の制約)。

さらに、契約の締結は、口頭、書面、メールなど方法を問わないのが原則ですが、保証契約は、口頭では成立せず、書面によらなければ有効となりません(⑷の自由の制約)。

このように、契約自由の原則に一定の制限を加えることで、国民生活と社会秩序が維持されているのだと言えます。

 

 

 

個人再生手続は、3年から5年の期間で債務の一部を遅れることなく弁済した暁に、残余の債務が免除されるという制度ですので、再生計画を実行する見込があることが大前提になります。

これを「履行可能性」といいます。

再生計画が認可されるためには、履行可能性がなければなりません。

履行可能性があるかどうかは、債務者の収入と支出の状況によって判断します。

例えば、住宅ローンを除く負債総額が1000万円、自由財産及び住宅ローン考慮後の資産総額が360万円とすると、清算価値保障原則により、弁済総額は360万円となりますが、これを、3年で弁済する場合、1か月あたりの弁済額は10万円となります。

そうすると、再生計画を実行するためには、毎月の収入から住宅ローンその他一切の家計費を差し引いて10万円の余剰を出さなければならないということになります。なお、収入と支出は債務者個人単位ではなく、世帯単位で見ますので、債務者の収入だけでは10万円の余剰を出せないが、配偶者や子どもの収入を合算すれば、10万円の余剰を出すことができる場合もあるでしょう。他方、支出も世帯単位で見ますので、子ども教育費なども支出として計上する必要があります。

このように、「履行可能性」は、個人再生手続を成功させる上で非常に重要な要素となります。

なお、裁判所には、直近2か月程度の家計を表にしたもの(家計収支表)と裏付け資料(給与明細やレシートのコピー等)を提出する必要があります。また、実際に余剰金(上記の例で言えば10万円)を積み立てることを求める裁判所もあります。

実は、この「積立」ができているかどうかが履行可能性の重要な判断要素となるのです。

 

 

 

2020年4月1日から改正民法(債権法)が施行されていることをご存知でしょうか。

民法は1000条を超える大部な法律ですが、国民生活に深くかかわる基本的な法律です。

特に今回の債権法改正は、契約に関わる部分が多く、日常生活に少なからず影響のあるところです。

改正の目的は、①現代化(民法制定以来の社会・経済の変化への対応)、②確立された判例法理の明文化、③国民一般に分かりやすく、という3点です。

当然のことですが、不動産取引においても、債権法の改正は様々な影響があると言えます。

このコラムでは、不動産取引から見た民法(債権法)の改正について、設例を交えながら、考えていきたいと思います。