次のような設例を考えてみましょう。

 

【設例】

札幌市在住のAは、大阪市内にある実家の不動産を売却するため、大阪市内の宅建業者Bに対し、2020年2月21日午前9時10分、媒介依頼の電子メールを送信したところ、Bより、同日午前9時13分に「お受けします。」との返信メールを受け取った。

 

民法では、申込に対しする承諾の意思表示が、申込者に到達したときに契約が成立すると定めています。これを「到達主義」といいます。改正前の民法でも、到達主義を原則とし、例外として、隔地者間(遠く離れている者同士)の場合には、申込を受けた人が承諾の通知を発したときに契約が成立すると定められていました(改正前民法526条1項)。

民法が制定された明治時代は、隔地者間の意思表示のやりとりを郵便によって行っていましたので、意思表示が到達するのに日数を要することが想定されていました。しかし、現代は、遠距離であっても、さほど意思表示を到達させるのに時間がかかりません。そこで、改正民法により、現行法にあった到達主義の例外規定(発信主義の規定)が削除され、到達主義が徹底されることになりました。

改正法で発信主義が削除された理由は、上記の設例に現れています。

現行法ですと、Bがメールの送信ボタンを押したとき、すなわち、午前9時10分から13分の間のいずれかの時刻が契約の成立時となり、改正法ですと、午前9時13分が契約の成立時となります。

設例の場合、発信主義でも到達主義でも契約の成立時がほとんど変わらないことがよく分かります。