以下のような設例を考えてみましょう。

【設例】

Aは、西隣に住むBの自宅を訪れ、玄関先で、Bに対し、「私の家を1000万円で買って貰えませんか。」と言ったところ、Bは、「1000万円かあ。どうしようかな。」と言って腕を組んで考え出した。その時、Aのスマートフォンに、東隣に住むCから「Aさんの家を1200万円で売って頂けませんか」とのメールが入った。それを見たAは、Bに対し、「やっぱり今の話はなかったことにして下さい。」と言ってその場を立ち去ろうとしたが、Bは、「1000万円で買います。」と言った。

 

上記事例で、AとBの間に売買契約は成立しているのでしょうか。

改正前民法では、承諾期間の定めのない申込み(「いついつまでに返事を下さい。」というように回答期限を設けない申込みのことをいいます。)について、隔地者間(離れている者同士)を前提とした規定はありましたが(改正前民法524条)、対話者間を前提とした申込に関する規定がありませんでした。

そこで、改正法では、「その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。」との規定が新設されました(改正民法525条2項)。

設例では、Bが「どうしようかな。」と言って腕を組んで考え出している中で、CからAにメールが入り、Aは、「なかったことにして下さい。」と言って申込みを撤回しています。

したがって、Aの撤回は、「対話が継続している間」の撤回ですので、有効であり、その後にBが「買います。」と言っても、契約は成立しないということになるのです。