コミック・オペラを中心に主にドイツで成功したイタリアの作曲家、エルマンノ・ヴォルフ=フェラーリ(1876~1948)の作品を紹介する。『聖母の宝石』『スザンナの秘密』等のオペラを中心に作品を残しているヴォルフ=フェラーリの数少ないオーケストラ作品のひとつ、『弦楽セレナーデ』だ。
ミュンヘン音楽アカデミーに入学し、一年生の学期末の提出作品として書かれたのが、ここで紹介する『弦楽セレナーデ』である。まさに、彼の処女作といってもいいだろう。17歳の学生が、学校の課題として書いた作品ではあるが、作品の随所に彼の好奇心と探究心が垣間見える作品だ。特に、第2楽章の中間部では、3拍子と2拍子を交互に登場させ、音楽に起伏をもたらしている。優しさに満ち溢れた曲調であり、拍子の変化が感情の変化を表現しているかのような効果をもたらしており、後に開花するオペラ作曲家としての片鱗を見た気がする。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ハインツ・レーグナー/ベルリン室内管弦楽団[1975年or1976年録音]
【BERLIN Classics:0091772BC(輸)】
リヒャルト・シュトラウスが残した幾つかの無伴奏合唱曲は管弦楽曲で聞かせる壮大さ、絢爛さとは裏腹に、静謐で甘美な作品が多く、実に美しい。

ここで紹介する『2つの歌』もまた、それらに際立っている作品だ。第1曲が『夕べ』、第2曲が『讃歌』と題されており、16声部から成る無伴奏合唱曲である。とりわけ、第1曲が美しい。タイトルの通り夕闇に包まれた風景を描写している。極上のハーモニーを堪能することができる作品であり、仄かに神秘的でもある。ピアニッシモで表現される深遠な響きは秀逸であり、ここで紹介するパルクマンの演奏はその醍醐味を極めているといえる。合唱のメッカである北欧の合唱団ならではの表現力であり、無駄の一切を排除した清澄な音楽は流石である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ステファン・パルクマン/デンマーク国立放送合唱団[1993年5月録音]
【CHANDOS:CHAN 9223(輸)】
《ボエーム》や《トスカ》《蝶々夫人》といった、数多くのオペラを世に送り出したイタリアの作曲家、ジャコモ・プッチーニが描いた室内楽の佳品、《菊》を紹介する。

プッチーニが32歳の時、親交のあった公爵が亡くなり、その死を悼み作曲されたといわれている。曲は、まさに悲しみにあふれる美しい旋律に溢れたエレジーであり、今日ではその旋律の美しさから、演奏される機会に恵まれている。《マノン・レスコー》の終幕にも、この作品の主題は登場しており、耳に馴染んでいる方も多いはずだ。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ハーゲン弦楽四重奏団[1993年12月録音]
【DG:UCCG-3205】
ハンガリーの作曲家、カール・ゴルトマルクが作曲した交響曲『田舎の婚礼』を紹介する。経済的な理由で専門的な音楽教育をあまり受けられず、ほぼ独学で学んだ彼の代表的な作品である。この作品を作曲した当時、ゴルトマルクはウィーンで上演したオペラが好評を博し、ウィーンでの地歩を強固なものにしつつある正に、順風満帆な頃に書き上げた作品だ。
この『田舎の婚礼』は、各楽章に標題が付され、交響曲というよりも交響詩に分類されることもある。「結婚行進曲」「花嫁の歌」「セレナード」「庭にて」「ダンス」とそれぞれ題され、ノスタルジックな雰囲気を持ったその名のとおりの『田舎の婚礼』を想起させるに難くない「いい意味で平易な」音楽となっている。トスカニーニやバーンスタインも取り上げたことのある作品なだけに、聴いたことがない方は是非一度、聞いてもらいたい。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ヘスス・ロペス=コボス/ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団[1980年3月録音]
【DECCA:448 991-2(輸)】
デンマークの作曲家、ハンス・クリスチャン・ロンビ(1810~1874)の作品を紹介しようと思う。「北国のシュトラウス」の異名を持つロンビは数多くのワルツやギャロップ、ポルカを作曲している。彼の代表作である「シャンパン・ポルカ」やここで紹介する「蒸気機関車のギャロップ」など、描写的な表現に優れた作品が多いのが特徴といえる。
「コペンハーゲン蒸気鉄道ギャロップ」は列車が動き出し、次の駅で止まるまでを忠実に音楽で表現している面白い作品だ。ゆったりとしたチェロとオーボエの響きから始まり発車合図が鳴る。徐々に速度を上げて蒸気を吹き上げながら曲は快調に次の駅を目指すのだ。そして駅が近付きスピードを落としながら、車掌(?)の掛け声の後に無事に駅に到着。といった感じの曲。実に滑稽で愉快な作品だ。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/デンマーク国立放送交響楽団[1993年2月録音]
【CHANDOS:CHAN92009(輸)】
17歳のワーグナーが、ベートーヴェンの交響曲第9番のスコアが高価だったため、図書館に通いつめて譜面に書き綴ってできたという逸話を持つのが、このピアノ伴奏版の第九。ピアノについて疎かったワーグナーらしい、ピアニストにはかなり困難を極める編曲が施されているが、リストの編曲版とは一風代わったこのワーグナー版は一度聴いていただきたい珍品といえる。

この音盤では、ベートーヴェンの作品をバッハ・コレギウム・ジャパンが歌っている。もちろん指揮は鈴木雅明だ。バッロク音楽で聞かせる彼らの洗練された演奏の面影を残しつつ、ベートーヴェンの傑作に小編成ながらも劇的に立ち向かっている。合唱団が小編成が故、合唱の各パートが明晰に耳に飛び込んでくる。この合唱が意外と耳に心地よくなってくるのが、この録音の魅力と勝手に感じる自分だ。小川典子が奏でるオーケストラの響きもまた、いつもの彼女らしくダイナミックにかつ、繊細なタッチでまとめられており、感服である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
鈴木雅明/小川典子(Pf)/緋田芳江(S)/穴澤ゆう子(A)/櫻田亮(T)/浦野智行(B)/バッハ・コレギウム・ジャパン合唱団[1998年5月録音]
【BIS:CD-950(輸)】
ビゼーといえば『カルメン』や『アルルの女』といった代表作で知られる、19世紀フランスを代表する作曲家である。彼の作り出す旋律は老若男女、誰もが心から楽しめるものばかりで、ここで紹介する作品も同様といえる。

この作品は、そもそもピアノ連弾用に作曲された12の小品からなる組曲で、ビゼー自らがその中からチョイスし、オーケストラ用に編曲したものがこれである。「行進曲(トランペットと小太鼓)」「子守歌(お人形)」「即興曲(こま)」「二重奏(小さな旦那さま、小さな奥さま)」「ギャロップ(舞踏会)」の5曲からなり、快活でかつ明朗な音楽に、子供の遊ぶ姿を見る事ができるであろう佳作といえる。

【推奨盤】
チョン・ミュンフン/パリ・バスティーユ管弦楽団[1991年3月録音]
ドイツの作曲家レオン・イェッセル(1871~1942)の名は、この作品のみで現在は目にすることはない。オペレッタ作曲家として活躍し、『シュヴァルツヴァルトの乙女』が大当たりしたものの、今となってはこの『おもちゃの兵隊の観兵式』のみが演奏される機会に恵まれている。人々が寝静まった夜中の子供部屋で、おもちゃ箱から飛び出した兵隊たちが整然と行進。先頭を行く兵隊が何かに躓き、それに重なりあうかのように次々と積み重なる。そして、朝の光が差し込み、慌てておもちゃ箱に一目散。といった内容の行進曲である。「キューピー3分クッキング」の曲といえば、誰もが思いだすこの作品は、いつ聞いても心踊らされる麻薬のような効果を持っている作品だ。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


チャールズ・グローヴズ/フィルハーモニア管弦楽団[1988年録音]

【DENON:COCO-70610】
稀代の名指揮者としてカリスマ的な存在だったフルトヴェングラーは作曲家としても活躍していた。ここで紹介する交響曲第2番はそんな彼の代表的な作品といえるだろう。彼が残した数多くの作品は演奏時間はどれも60分を越す長大なものだが、その中でもこの第2番は80分を要する正に、大曲である。

曲は、ブルックナー的と一般的には形容されることが多いが、個人的には「ブルックナーの要素にシューマンとマーラー香りもほのかにする」音楽のようにも感じる。とりわけ、終楽章で放たれるエネルギーは、さながらブルックナーの交響曲とダブってしまうくらいにスケールが大きい。とにかく「デカイ」。この終楽章は聞けば聞くほど「味」が出てくる気がする。一度聞いただけでは、消化不良に陥ってしまうかもしれないが、何度か聞いているうちにその微かに光る魅力に気付かされ、いつの間にかその光が大きくなってくるのである。そんな魅力を持った作品だ。

ちなみにフルトヴェングラーの自作自演盤も良いが、今日はワイマール・シュターツカペレの力演を紹介する。廉価盤だが、内容はかなり充実している。フルトヴェングラー・ファンならずとも、不当に忘れ去られてしまった彼の作品を一度は聞いていただきたい。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ゲオルゲ・アレクサンダー・アルブレヒト/ワイマール・シュターツカペレ[2003年11月録音]
【ARTE NOVA:BVCE-38083-84】
ルロイ・アンダーソン(1908~1975)といえばアメリカを代表する作曲家であり、「トランペット吹きの休日」や「「ワルツィング・キャット」、「タイプライター」等、その名曲の数は実に豊富だ。そんな彼のクリスマスに因んだ曲といえば誰もが「そり滑り」を挙げるだろう。そんな彼が残した秘曲、『クリスマス・フェスティバル』を今日は紹介する。

クリスマスといえば「そり滑り」が彼の定番だが、この「クリスマス・フェスティバル」も楽しいアンダーソンらしい作品で、アーサー・フィードラーの依頼によりポストン・ポップス・オーケストラのために作曲(編曲)されたものである。何故だか演奏会で取り上げられる機会が極めて少なく残念でならない。

曲は、「もろ人こぞりて」のメロディからスタートし、様々なクリスマス・ソングが華麗なオーケストラの響きでメドレーで登場する。「きよしこの夜」「ジングルベル」…聴いていて「なんでもあり」みたいな気持ちになってくるが、心躍らされている自分がいるのだ。そして最後はオルガンも加わり(本来は)、壮大にして、きらびやかな祝祭的な世界で曲は綴じる。だれもが馴染みのあるメロディが引っ切り無しに入れ代わり登場する、ここぞとばかりにクリスマスを楽しめるこの作品。オーケストラの演奏会で接してみたい作品と言えるだろう。ちなみに、この編曲版は誰の演奏だかはわからないが、東京ディズニーリゾート内でもクリスマスシーズンのBGMとして使われている。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
竹本泰蔵/日本フィルハーモニー交響楽団[2008年4月録音]
【KING RECORDS:KICC-699】