フランスの作曲家、ガブリエル・フォーレが残したピアノ曲の中では評価の高い『主題と変奏』を紹介する。

1895年、作曲家50歳の時に書かれたこの作品は、晦渋に満ちた晩年の作風とは違い、初期から中期にかけてフォーレの作品に感じ取れる、明快な和声、構成となっている。


作品は主題と11の変奏から成り、最後の変奏だけが同名長調に転調するといった、実にわかりやすい変奏曲の態を成している。

フランスの名ピアニスト、アルフレッド・コルトーは、「音楽的な豊かさ、表現の深さ、器楽的内容の質の高さからして、あらゆる時代のピアノ音楽のうち、希有で最も高貴な記念碑のひとつ」とこの作品を称賛した話しは特に有名で、この作品を語るには欠かすことのできないエピソードといえる。


演奏はイギリスのピアニスト、ポール・クロスリーの録音が聴きやすい。フォーレのピアノ曲の全集を録音し、フォーレの作品を熟知しているだけあり、精緻な音楽的な読み込みが如実に感受できる演奏である。華美な脚色のない、フォーレの美しさを奇麗に纏め上げているといえる演奏だ。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


ポール・クロスリー(Pf)[1980年代録音]


【crd:CRD 3423(輸)】

オーストリアの作曲家、ヨハン・ネーポムク・フンメル(1778~1837)の作品の多くはピアノ曲ではあるものの、オーケストラや室内楽においても作品を残している。ハイドンに作曲を、モーツァルトにはピアノを学んでいたフンメルらしい、優雅でありロマンティックな作風が印象的である。また、他の作曲家の主題を作品の中に引用しているのもフンメルの特徴ともいえる。
ここで紹介する『グランド・セレナーデ』もまた、実に面白い作品だ。ピアノ、ヴァイオリン、ギター、クラリネット、ファゴットといった一風変わった編成で書かれたこの作品は、およそ20分にも及ぶ大作である。曲の随所には、モーツァルトのオペラからの主題の引用があったりと、楽しく聞くことができる作品だ。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
Consortium Classicum[2004年11月録音]
【MDG:301 1344-2(輸)】
19世紀に活躍した作曲家、フランツ・ラハナー(1803~1890)は、交響曲から室内楽まで作品を残しているが今日では室内楽のための作品でしか耳にすることがない。「ベートーヴェンとシューベルトの中間」と表現するのが適当といえるロマン派の先駆けのような彼の作品であるが、時折見せる独特の転調とリズムが特徴だろう。基本的には快活な曲調であはあるが、ロマンティックな響きも併せ持っており、聞いていて面白い作品である。ベルリンフィルとウィーンフィルの名手たちで構成されたアンサンブル・ウィーン=ベルリンはこの曲を聴くには最高のシチュエーションといえる。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
アンサンブル・ウィーン=ベルリン〔ヴォルフガング・シュルツ(Fl)/ハンスイェルク・シェレンベルガー(Ob)/カール・ライスター(Cl)/ギュンター・ヘーグナー(Hr)/ミラン・トゥルコヴィチ(Fg)〕[1987年8月録音]
【DG:UCCG-9577】
日本中央競馬会は意外と委嘱作が多い。とりわけ、マーチとファンファーレに突出しているが・・・。

そこで今日はその委嘱作のひとつを紹介する。レイモンド服部(1907~1973)が作った『若駒』。その名のとおり、若い優駿の軽快な足並みを音楽にした、実に軽やかなマーチである。しかしながら、競馬場等でこのマーチを聞く事はない。演奏会等でもあまり演奏される機会がなく親しみやすい曲だけに残念である。

中央競馬の本馬場入場では他の作曲家の曲が使われているが、せっかくなのだから、たまにはこの『若駒』でキャンターに送り出してもいい気がする。京都競馬場で開催される3歳オープン競走「若駒ステークス」の本馬場入場時に使ったら、それはそれでなかなか粋かもしれない。だれもわからないと思うが・・・。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
古荘浩四郎/陸上自衛隊東部方面音楽隊[2004年1月録音]
【UNIVERSAL:UCCS-1058】
ドヴォルジャークが残した唯一のピアノ協奏曲を紹介する。全くといって派手さも華やぎもない、滋味深い作品となっているこの協奏曲は、作曲家自身もそれは認めている。技巧的な協奏曲ではなく、オーケストラとピアノによる交響的な作品と趣が強い。各楽章で聴ける民族的要素の強いフレーズの数々は、時には交響的であり場柄も素朴な牧歌を思わせたり、豊穣な喜びの表現であったり、「ボヘミア色が強い中で情緒豊か」な作品といえる。

これをクライバーとリヒテルが録音しているから驚きだ。作品の持つ魅力を最大限に引き出した名演であり名盤といえる。

【推奨盤】
カルロス・クライバー/スヴィヤトスラフ・リヒテル(Pf)/バイエルン国立管弦楽団[1976年6月録音]
【EMI:TOCE-3044】
モーツァルトが残した有名な変奏曲、いわゆる「キラキラ星の主題による変奏曲」を紹介する。
そもそも、誰もが知る「キラキラ星」のメロディはフランスの民謡に起因しており、モーツァルトがこの作品を書いた当時、パリで流行していたといわれている。
作品は12の変奏から成っているが、作曲家からの細かい指示は楽譜上にはあまり記されていない。その為、演奏する側のセンスが音楽へと「もろに」表出してくるといえる。エッシェンバッハの演奏は、粒の細かい明晰な音色で纏め上げており、華美な表現を控えた手本となるような個人的には理想的な演奏といえる。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
クリストフ・エッシェンバッハ(Pf)[録音年不詳]
【DG:POCG-7048】

今では飛ぶ鳥を落とす勢いに満ちている若手作曲家、広瀬勇人(1974~)の初期の作品を紹介する。




アメリカ・ニューイングランドの学生作曲コンクールで第一位に輝いた広瀬が、受賞を機に作曲の依頼を受け、コンクールの地に縁のある画家、ノーマン・ロックウェルの絵画を元に作曲したのがこの組曲である。




3つの曲から成り、それぞれ『婚姻届』『シャッフルトンのバーバーショップ』『クリスマス・ホームカミング』と題されている。タイトルからも感じられるように、作品は実に心温まるメロディに溢れている。全曲で9分程度の作品であるが、演奏効果にも優れており、今日の吹奏楽の大事なレパートリーといえるだろう。まだ、作曲家が21歳の頃の作品だ。



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乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


ノルベール・ノジー/オランダ王国陸軍軍楽隊『ヨハン・ヴィレム・フリショー』

【de haske:DHR 10-030-3(輸)】

武満徹の編曲の妙技を堪能できる作品を紹介する。


ギターのために12の名曲を編曲したもので、そのセンスのいい洒落た編曲は「さすが」タケミツである。ロンドンデリーの歌、オーバー・ザ・レインボー、サマータイム、早春賦、失われた恋、星の世界、シークレット・ラヴ、ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア、ミッシェル、ヘイ・ジュード、イエスタデイ、インターナショナル。以上12曲が編曲されている。ギター音楽のレパートリーの少なさを嘆いて編曲されたこの数々は、国もジャンルも超越しているが、どの曲も魅力溢れるものばかり。


福田進一の演奏も「歌心」溢れる演奏で聴き手を酔わせてくれる。タケミツだからといって、不協和音が奏でているわけではないので彼の作品が苦手な方でも充分に楽しめる。疲れたときに聞くには丁度いい一枚かもしれない。併録されている名曲『フォリオス』もまた、名演である。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


福田進一(G)[1996年10月録音]

【DENON:COCO-80447】

その名も『マーチ・エイプリル・メイ』。なんともユーモア溢れるタイトルである。




吹奏楽をやったことのある人ならば、コンクール等でよく耳にする馴染みの深い作品だろう。そもそも吹奏楽コンクールの課題曲として作曲され、自分もちょうどその時期にこの作品に親しんでいた。そんなに高度な技術を要するわけでもなく、ただ、コンサートマーチとして親しみやすいメロディとリズムを要しており、その爽やかな早春の風を体感できる秀逸な作品といえるだろう。


吹奏楽のコンサートマーチの定番となったこの作品を、吹奏楽界の御大、丸谷の録音で聴くとなんとも説得力に満ちた演奏に聞こえてくる。不思議である。




【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


丸谷明夫/なにわ《オーケストラル》ウィンズ[2007年5月録音]


【BRAIN MUSIC:BOCD 7178】

現代の巨匠、クラウディオ・アバドが最も活き活きとした表情を見せるのが、管弦楽曲の小品を演奏している時のような気がする。


1991年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートを演奏した時も然り、実に楽しそうに指揮する姿がある。ポルカで聴かせるリズムとパッションは躍動感に溢れんばかりのものがある。そんな愉しげで快活な様子こそ、音楽の本質を射抜いている気がする自分である。


ここで紹介するポルカ『百発百中』は、1868年にウィーンで開催された「第3回ドイツ連邦射撃祭」の記念祝典曲として作曲されたものであり、曲の最後には実際に猟銃を使用した演出もある実に闊達明瞭な曲といえる。




【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床



クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[1991年1月録音]


【DG:UCBG-1043】