Heliogabale
oul'Anarchiste couronne
Antonin Artaud
『ヘリオガバルス~または戴冠せるアナーキスト』

 先日、私の中でケイト・ブッシュフィーヴァーが起こったおり、
「バブーシュカ」というヒット曲のPVを見ました↓





別にこの歌詞の内容は、夫の愛を取り戻すべく、ちょっと仕掛けてみた、
女心と、取り戻したい夫婦の熱情、、のような歌詞なんですが、
いかんせん、ビジュアルが…
今日ご紹介する、『ヘリオガバルス』という少年皇帝を何か思い出させたんです。

 ローマ皇帝の中でも賢人皇帝と並べて有名なのが、残虐の限りを尽くす暴君。
賢人皇帝では前にご紹介したマルクス・アウレリウス、そしてハドリアヌス
が思い浮かびますが、その少し後の代のカラカラ、ゲタと言った兄弟同士で殺し合い
(更に言うなら母が共謀)権力闘争をする皇帝たちも後世の物語の中でもよく取り上げられています。カラカラ、ゲタのあとのこれまた特異な皇帝がヘリオガバルスです。

 この19歳で殺された皇帝はちょっと調べると「ローマ史上最悪の皇帝」など
と評されています。それは統治がいい加減だということだけでなく、性的な嗜好や行動が
非常に常識的でなかったところに寄るらしいとわかります。男とも女とも性的関係を結び
みんなから顰蹙をかうことを進んで行った。しかしそれはこの本の副題にもあるように
現行をすべて打ち壊すアナーキストの側面があったとも言えると(これはアルト―の解釈ですが)

 とにかくこのような史実が残っている皇帝だから、後世、デカダン、退廃を旨とする芸術活動の中でも頻繁に取り上げられるようになったようです。

 著者のアントナン・アルト―は「残酷劇」と言われる身体表現に焦点をあてた方法論で、
現代の演劇にも大きな影響を与えた人のよう。先日見に行ったバルテュス展でも、
アルト―のお芝居のポスターの展示もありました。フランスのちょっと、いいえ、
だいぶ怪しいオジサン達が作った面白い表現たち。私はこの本はとにかく、
現実世界においてアップアップになったときに、逃避的に手に取ります。

 文体、とても面白い。史実のように書いてあるかと思えば、アルト―の思うところ、
主観のみで、言いきる文章がちりばめられており、、それこそ斧でサクッと割かれるような
文章料理のされ方。 
 急に哲学書のように、精神や物質について語ったかと思えば、読み進めれば、その少年皇帝が行ったことに対して、その突飛さや猥雑さなどを簡単に退廃、暴虐だけとみなさず、そこから180度反転して何かの意味を見いだして行く。
 でもそこにはアルト―自身のカトリックの厳しい戒律やら性的なことに対する厳格さから解放されたいという、その当時の非常にまじめな求道者のような必死さがあり。私は好きなんです。
アルト―自身、病から来る苦痛を和らげるためにアヘンなどに頼らないと命がつなげなかった
人でもありました。どこかで読んだけれど、「狂気すれすれの人」だったと。

 けれどこの本から感じることと言ったら、ただただ鋭利さと、力強さ、みなぎるパワー。
 時を駆けぬけ、2000年近く前のシリアの土のにおいや血のにおいを本当に勝手に
感じてしまうということなのです。。