星野博美『転がる香港に苔は生えない』2000年


 毎日毎日、とりあえず「今日一日やりきる」っていう感じで

生活する日々。この一年はそういう日々。そういう時期なんだな。

仕事が終わってとりあえず心と体を休めることだけは大事に。

睡眠時間は絶対確保。テレビ、朝のニュースしかつけていない。

 目を使うものは見る気力なく。

とにかくお風呂とベッドとわんこ、これだけで回っている感じ。

でもそれほど苦でない。まあ、やらされている、、という感じではなく

やれること淡々としよう、という感じだからなのかも。

 

 この慌ただしくも淡々とした、前向きな感じ。

香港でたくましく生きる人の映画や本から得た印象と似ている。

10数年前、香港が返還されて間もないころ行った私の香港の印象。


 朝早く、香港通の友人に連れられて、地元の人が朝ごはんを

食べるという点心のお店に行った。大きなやかんから黒いプーアール茶が

吸い口から勢いよく遠くのコップへとジャボジャボと注がれていく。

 おかゆや蒸し物、揚げ物を食べた人から勢いよく立ちあがって

仕事に行く。なんか、その頃の私にとってとてもパワフルに見えたものだった。


 そんな思い出を思い起こさせるこの本。

著者の星野さんは写真家橋口譲二さんのお弟子さん。

1997年の香港中国返還の数年前から、香港に住み、大きな時代の転機を

迎える人々の様子を、広東語を駆使して、人々と語り合いながら体感した方。

その星野さんが返還後の香港の人びとを描いたノンフィクション。


 大陸から何かをなしえたくて来た人々、日本の文化が好きな若者たち、

密航や不法滞在…毎日が必死な人々。きっと今も。

久しぶりに読み返し。

今を生きる香港の若者たちの心の内に思いを寄せるひと時になった。