空閨残夢録 -7ページ目

空閨残夢録

上層より下層へ 
中心より辺境へ 
表面より深淵ヘ 
デカダンよりデラシネの戯言








 15歳の頃にはビートルズの国内で発売されていたLPレコードをほぼ持っていて、皮膚に染み渡るぐらいよく聴いていたが、今では、そのレコードを失ってからCDを購入することも無く、ビートルズはあまり聴くことも無くなってしまった。


 2007年のミュージカル映画『アクロス・ザ・ユニバース』は全篇にビートルズの詩と曲で彩られた美しい映像で、配役の俳優たちがビートルズの歌を奏でる夢幻の世界を展開する愛の物語である。



 映画予告編ではビートルズの曲33曲が網羅されていると宣伝しているが、ボクのカウントでは35曲(インストロメンタル曲を含む)のビートルズの楽曲が鏤められていた。






映画「アクロス ザ ユニバース」予告編
http://www.youtube.com/watch?v=ocjLy9oGf3g






 物語のあらすじは、1960年代のリバープルとニューヨークが舞台で、ベトナム戦争時のアメリカの世相が主な出来事の中心となり、その時代の主人公であるジュードとマックスの友情、マックスの妹ルーシーとジュードとの恋が更なる芯となって物語は展開していく。



 恋と革命、青春と愛をテーマにしたビートルズの歌詞と曲を現実の世相から夢幻の宇宙にまで繰り広げられた異色のミュージカルという演出で。・・・・・・監督はフリーダ・カーロの人生を描いた『フリーダ』のジュリー・テイモア。



 「If I Fell」や「Something」などのラブソングを歌う場面もいいが、ボクの個人的な趣味では、たとえば「Being for the Benefit of Mr. Kite!」とか「Happiness Is a Warm Gun」のシーンが大好きな映像である。



 オープニングの曲が「Girl 」の映像ではじまり、エンディングには「Lucy in the Sky with Diamonds」が使用されているが、物語後半の「Hey Jude 」と「All You Need Is Love」の場面では必ず泣けるところですネ。



 ビートルズを知らない世代にも十分に楽しめる映画で、ビートルズ神話に耽溺している者たちには、その三倍は面白く観られる脚本とその構成には舌を巻くであろう。



 たとへば、ドクター・ロバートのパフォーマンスや、プルーデンスが"浴場の窓"から唐突に登場したりするところとか、登場人物のジュードやマックスやルーシーやリタとかの名前に秘められた要素に、ビートルズの曲と歌詞に通暁していればかなり面白く観られるミュージカルでもある。



 おまけに美術や衣装も際立ってステキな演出で観られるのもいいですネ。リバープルの60年代の港町の風景がかなりボクは好きだ。これに「Hey Jude 」との楽曲が重なった場面は秀逸であろう。また「Strawberry Fields Forever」の耽美な映像世界にも惑溺してしまいそうである。



ストロベリー フィールズ フォー エバー
http://www.youtube.com/watch?v=IAI8W_7dqHk















 英国映画の『さらば青春の光』は、如何にも間の抜けたセンスのないタイトルの邦題になっているが、これは1979年に公開されたフランク・ロダム監督の映画で、ロジャー・ダルトリー、ピート・タウンゼントらによるザ・フーのメンバーがプロデュサーとして参加している作品。原題が『Quadrophenia』で、ザ・フーの1973年のアルバム「四重人格」のタイトルと同じなのである。



 邦題が悪いので、公開当時は見る気力が沸かなかくて、《青春》、《光》、のタイトルの言葉で躓き長くこの映画は観ていなかった。映画の内容は、そんな言葉の輝くような概念などとは無縁で、ロック、ドラック、セックス、ファッション、行き場のない怒り、暴力、孤独、絶望感、スピードと疾走・・・・・・・が映像の前面にあり、青春や光の陰影である鬱屈した魂が主題なのである。



 映画では、皮ジャンに上下のパンツ・スタイルで、オートバイを乗り回すロッカーたち暴走族が出てくる。時代は1965年であり、登場人物の中心は、ロンドン近郊の労働者階級の青年たち。そして、若者のファッションである新興勢力として、モッズ・スタイルが登場してくる。このモッズ・ムーブメントの若者たちが主役の面々である。



 ザ・ ビートルズは、プロとして1962年にデビューするが、その前は、リヴァープルでロッカーだったし、皮ジャン・スタイルのロックンロール・バンドをやっていたが、デビューのファッションはモッズのイメージで登場する。三つ釦のピチピチ細身のスーツ、リーゼントから髪は下ろしたヘアー・スタイルが、所謂モッズのスタイルの典型。



 さらに、M - 51というミリタリー・パーカーに、ランブレッタやベスパのカスタム・スクーターを乗り回すのがモッズ・スタイルである。ロッカーたちの乗るオートバイでは、スーツが汚れるので、モッズの若者はスクーターで街を乗り回すスタイルが主流である。



 さて、このモッズ青年の品行不良であるジミーが主役で物語りはすすむ。モッズのカリスマ的なグループ・リーダーには、あのザ・ポリスのスティングがあたっている。さすがスティングは図抜けてカッコイイよくて、これだけで見応えはある。



 映画の終盤に、ジミーたちは週末にドラックを盗み出し、ランブレッタやベスパを飛ばして、ロンドンから西端のブライトンの港街に走る。ブライトンの近郊からは週末にロッカーもモッズもダンスと音楽の享楽を求めて集結してくる。そこでロッカーとモッズの大喧嘩が、やがて街中を騒がす大暴動となってしまう大事件に展開する。



 この暴動事件が、後に、スタンリー・キューブリックが映画にする。それが、つまり『時計仕掛けのオレンジ』というSF映画の構想にもなった訳であるが、大暴動の最中にジミーは意中の彼女と性的に結ばれる。しかし、その後に警察に連行されてしまう。勤めていた会社もクビになり、仲間ともケンカして仲間割れして、彼女は他の男とネンゴロになり、家ではママもパパもカンカンで実家を追い出されてしまい、スクータも消防車と激突して破損してあしまう。どん底のジミーはブライトンへ汽車に乗って、あてのない旅に出る。そして、そこで、出逢ったのは?・・・・・・意外な人物であった。(了)















 モッズ・カルチャーを代表する英国のロック・バンドのザ・フー(The Who)は、当初はスモール・フェィセズのちにフェィセズと改名して1964年から活動しているグループ。1969年に発表した4枚目のアルバムの『ロック・オペラ/“トミー”』でロック・オペラというジャンルを確立する。




『ロック・オペラ/“トミー”』は、オーケストラとの共演による映像化、さらにブロードウェイでのミュージカル化と形を変えながら発表されていくが、1975年にケン・ラッセル監督が映画化してカンヌ国際映画祭に出品するや一大センセーションを巻き起こす。ザ・フーのピート・タウンゼンはアカデミー賞の音楽賞にノミネートされ、主演のアン=マーグレットがゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞した。



 主人公のトミー役をザ・フーのロジャー・ダルトリーが演じ、トミーの母親役にアン=マーグレット、義父役にオリバー・リード、ピンボールの魔術師をエルトン・ジョン、マリリン・モンローを崇拝するカルト教団伝道師にエリック・クラプトン、麻薬の女王にティナターナー、心理学専門医にジャック・ニコルソンなどの豪華キャストを配している。




 ケン・ラッセルは監督と脚本も手がけ、ピート・タウンゼンは原案はもとより音楽監督としてスタッフに加わる。さて、物語は、冒頭で、多分、ロンドンの街にドイツ軍のロケット弾の空襲下、主人公トミーの父と母が逃げ惑う場面から始まる。父はやがて飛行機に乗り戦争に行くが戦死してしまう。母は軍事工場で働きながら、終戦の日にトミーを出産する。




 やがて母は再婚するのだが、間が悪く戦死した筈の旦那が帰って来てしまい、トミーの義父が本当の父親を殺す場面を目撃してしまうことで、トミーはこの衝撃から心を閉ざしてしまい、見えない、聞こえない、話せない、の三重苦の少年となり、やがて成人となり心と精神を回復していくお話なのだが、母と義父はトミーを治すために新興宗教とか、妖しい妖術使いみたいな麻薬の魔女みたいな人物にも接近してトミーの回復を願う。










http://youtu.be/CfqmLj5tC0g



 ボクは個人的にエリック・クラプトンのカルト新興宗教の伝道師が登場する場面が好きである。崇拝するのはマリリン・モンローで、信者たちはモンローの仮面をかぶり、神輿のようにモンローの偶像を担ぐシーンがとても面白い演出である。



 天才ピンボール使いのトミーと対決するピンボールの魔術師を演じるエルトン・ジョンの登場する場面では、エルトンの歌唱が今ひとつ響いていこないなのがチョイト不満もあるが、奇妙奇天烈ながら壮大なロック・オペラに誰もが魅了されるエンターテイメントであることは間違いない作品。









http://youtu.be/ikNM-khrGsM







 映画と音楽の結びつきはとても深いものである。アメリカでは映画が音のでるトーキーになった1920年代の終わり頃から、ミュージカルが盛んに作られて人気を博すのだが、それははじめ舞台の音楽劇の関係者たちの物語を、劇場の舞台で描いていくものであったり、舞台のミュージカルを映画的に作り変えたようなものだったりした。



 エンターテイメントの映画の模範のようなミュージカル黄金期の『雨に唄えば』(1952)とか、社会問題を盛り込んだ新機軸の『ウエスト・サイド物語』(1961)のような、単なる夢物語ではなく現実的な社会性を描く作品も後に登場する。



 1965年の大ヒット作の『サウンド・オブ・ミュージック』も、ヨーロッパの自由主義者たちがナチスの迫害を逃れてアメリカにやってくるという歴史的に重要な史実の一端を、エンターテイメント風に盛り込んだ作品となっている。



 フランスでは1964年の『シェルブールの雨傘』もなかなかの傑作で、アメリカ風とは違う雰囲気をかもしだした恋物語で、セリフの全部にメロディをつけて囁くように歌うという情感のある演出が、シャンソンのお国柄をおしゃれに表した作品。



その 『シェルブールの雨傘』の演出効果をロック・オペラ風に描いたのが、アメリカのロックミュージカルの『ジーザス・クライスト・スーパースター』 (Jesus Christ Superstar) である。これは聖書を題材にイエス・キリストの最後の7日間を描いたロックオペラである。作詞はティム・ライス、作アンドリュー・ロイド・ウェバー。1971年にブロードウェイで初演された作品を映画化された物語。



 さて、そこで『サウンド・オブ・ミュージック』なのだが、この作品あたりを頂点にミュージカル全盛期は衰退の気配をみせはじめる。音楽の流行はあきらかにロック系統へと大きく傾きはじめていた。ジャズの時代もこのロック・ミュージックの勢いのなかで翳りをみせはじめてもいた。



 ジョン・コルトレーンが『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌である「私のお気に入り(my favorite things)」をカバーしているが、このコルトレーンの曲がボクのお気に入りでもある。



 「私のお気に入り(my favorite things)」はトラップ大佐の七人の子供たちが、雷を恐れて眠られない子供たちを慰めて、マリア先生役のジュリー・アンドリュース歌っていた・・・・・・その歌詞は以下に。




Raindrops on roses and whiskers on kittens,
bright copper kettles and warm wollen mittens,
brown paper packages tied up with strings,
these are a few of my favorite things.


薔薇の花びらの雫 子猫のおひげ
銅製のピカピカのやかん 暖かいウールの手袋
紐で結ばれた茶色い紙包み
それが私のお気に入り


Cream colored ponies and crisp apple strudels,
door bells and sleigh bells and schnitzel with noodles.
Wild geese that fly with the moon on their wings.
these are a few of my favorite things.


クリーム色の子馬 林檎のパリパリしたステュリューデル
ドアベル そりのベル 牛カツレツのパスタ添え
月夜を飛ぶ雁の群れ
それが私のお気に入り

Girls in a white dresses with blue satin sashes,
snowflakes that stay on my nose and eyelashes,
silver white winters that melt into springs,
these are a few of my favorite things.


白いドレスに青い飾り帯の女の子
私の鼻とまつげにつもる雪
白銀の冬が春に変わる頃
それが私のお気に入り


When the dog bites, when the bee stings,
when I'm feeling sad,
I simply remember my favorite things,
and then I don't feel so bad.


犬が噛んだり蜂が刺したり
悲しい気持ちになるときは
私はただ 自分のお気に入りを思い出す
そうすれば そんなにつらい気分じゃなくなる




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 この映画は第二次世界大戦がはじまる直前のオーストリアが舞台。ナチスの迫害を逃れてスイスに一家は亡命して映画は終るけれども、その後、実在のこの一家は、アメリカへ亡命してトラップ・ファミリー合唱団というグループで公演し大成功することになる。



 またジョン・コルトレーン(John Coltrane、1926~1967年)は、アメリカノースカロライナ州生まれのモダンジャズのサックス奏者。テナー・サックスをメインとする。活動最初期はアルト・サックス、1960年代よりソプラノ・サックス、最晩年にはフルートの演奏も残した。



 活動時期は、1950年代のハード・バップの黄金時代から1960年代のモード・ジャズの時代、さらにフリー・ジャズの時代と、それぞれの時代に大きな足跡を残した。


 長い間、コルトレーンは無名のままで、第一線で活躍した期間が10年余りもあったが、自己の音楽に満足せずに絶えず前進を続けて、マイルス・デイヴィスと並ぶ20世紀のジャズ界の最大のカリスマと今ではなった大きな存在である。





私のお気に入り(my favorite things)
http://youtu.be/odVCH7UVTOY

リキュール




 1980年代中頃から、おりしも、トム・クルーズ主演映画は『カクテル』の中でも出てくる、米国の都市部で流行っていたカクテルに「フライアー・タック」がある。作者や由来が不明のカクテルで、日本のカクテル・ブックにはレシピだけしか載っていない。


 それでは、そのカクテルのレシピを紹介すると、ベースのフランジェリコ・リキュールに、ライムジュースにグレナデン・シロップを加えて、これをシェークしてカクテルグラスに注ぎ、オレンジのスライスを飾りつけて供す。



 ベースのリキュールはイタリア産のバルベロ社のもので、ヘーゼルナッツの風味が主体の酒、つまりハシバミの香りとナッツの芳しい甘いリキュールなんですネ。瓶はお坊さんの形をしておりまして、この酒を造ったフランジェリコという修道士の姿をボトルのイメージにして、リキュールの商品名もフランジェリコ。



 カクテルの「フライアー・タック」というネーミングには、多分、このカクテルを創作した或る米国人のバーテンダーが、1973年のディズニー映画のアニメである『ロビン・フッド』を観ていたからだと思われるとボクは個人的に推察するのでした。







 このアニメは、ロビンが狐で、相棒のリトル・ジョンは熊、そして仲間の穴熊はフライアー・タックことタック修道士である。この修道士とカクテルのベースであるフランジェリコ・リキュールのイメージを重ねて、自ら創作したカクテルに「フライアー・タック」と名付けたのだと想像している。


 さて、ボクはこのカクテルのオリジナル・レシピに、オレンジジュースを少々加えて作っていた。そのレシピは以下に・・・・・・・





 ※フランジェリコ/40ml
 ※ライム・ジュース/15ml
 ※グレナデン・シロップ/5ml
 ※オレンジ・ジュース/10ml

 上記をシェイクしてカクテル・グラス(3オンス)に注ぎ供する。






 
 このカクテルはアルコール度数は12度ぐらいで、甘味と酸味が柔らかく調和していて、ヘーゼルナッツの香りが上品である。オレンジ・ジュースを加えると、さらに柔らかく優しい飲み口になり、女の子ウケする。料理ではフレンチのディナーにボクならお口直しのグラニテに、このカクテルをメインディシュの前に楽しんでもらいたい。



 グラニテにするなら、このカクテルをフラッペなんかでお口直しにするといいのだが、お酒がダメな人はフランジェリコのリキュールを、ノンアルコールのヘーゼルナッツシロップに変えるとヨイだろう。



 シロップはフランスの『モナン』社の製品で、「ノアゼット」のシロップがお薦めである。ノアゼットはフランス語で、ハシバミの意味で、英語ではヘーゼルナッツのこと。