映画と音楽の結びつきはとても深いものである。アメリカでは映画が音のでるトーキーになった1920年代の終わり頃から、ミュージカルが盛んに作られて人気を博すのだが、それははじめ舞台の音楽劇の関係者たちの物語を、劇場の舞台で描いていくものであったり、舞台のミュージカルを映画的に作り変えたようなものだったりした。
エンターテイメントの映画の模範のようなミュージカル黄金期の『雨に唄えば』(1952)とか、社会問題を盛り込んだ新機軸の『ウエスト・サイド物語』(1961)のような、単なる夢物語ではなく現実的な社会性を描く作品も後に登場する。
1965年の大ヒット作の『サウンド・オブ・ミュージック』も、ヨーロッパの自由主義者たちがナチスの迫害を逃れてアメリカにやってくるという歴史的に重要な史実の一端を、エンターテイメント風に盛り込んだ作品となっている。
フランスでは1964年の『シェルブールの雨傘』もなかなかの傑作で、アメリカ風とは違う雰囲気をかもしだした恋物語で、セリフの全部にメロディをつけて囁くように歌うという情感のある演出が、シャンソンのお国柄をおしゃれに表した作品。
その 『シェルブールの雨傘』の演出効果をロック・オペラ風に描いたのが、アメリカのロックミュージカルの『ジーザス・クライスト・スーパースター』 (Jesus Christ Superstar) である。これは聖書を題材にイエス・キリストの最後の7日間を描いたロックオペラである。作詞はティム・ライス、作アンドリュー・ロイド・ウェバー。1971年にブロードウェイで初演された作品を映画化された物語。
さて、そこで『サウンド・オブ・ミュージック』なのだが、この作品あたりを頂点にミュージカル全盛期は衰退の気配をみせはじめる。音楽の流行はあきらかにロック系統へと大きく傾きはじめていた。ジャズの時代もこのロック・ミュージックの勢いのなかで翳りをみせはじめてもいた。
ジョン・コルトレーンが『サウンド・オブ・ミュージック』の挿入歌である「私のお気に入り(my favorite things)」をカバーしているが、このコルトレーンの曲がボクのお気に入りでもある。
「私のお気に入り(my favorite things)」はトラップ大佐の七人の子供たちが、雷を恐れて眠られない子供たちを慰めて、マリア先生役のジュリー・アンドリュース歌っていた・・・・・・その歌詞は以下に。
Raindrops on roses and whiskers on kittens,
bright copper kettles and warm wollen mittens,
brown paper packages tied up with strings,
these are a few of my favorite things.
薔薇の花びらの雫 子猫のおひげ
銅製のピカピカのやかん 暖かいウールの手袋
紐で結ばれた茶色い紙包み
それが私のお気に入り
Cream colored ponies and crisp apple strudels,
door bells and sleigh bells and schnitzel with noodles.
Wild geese that fly with the moon on their wings.
these are a few of my favorite things.
クリーム色の子馬 林檎のパリパリしたステュリューデル
ドアベル そりのベル 牛カツレツのパスタ添え
月夜を飛ぶ雁の群れ
それが私のお気に入り
Girls in a white dresses with blue satin sashes,
snowflakes that stay on my nose and eyelashes,
silver white winters that melt into springs,
these are a few of my favorite things.
白いドレスに青い飾り帯の女の子
私の鼻とまつげにつもる雪
白銀の冬が春に変わる頃
それが私のお気に入り
When the dog bites, when the bee stings,
when I'm feeling sad,
I simply remember my favorite things,
and then I don't feel so bad.
犬が噛んだり蜂が刺したり
悲しい気持ちになるときは
私はただ 自分のお気に入りを思い出す
そうすれば そんなにつらい気分じゃなくなる
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この映画は第二次世界大戦がはじまる直前のオーストリアが舞台。ナチスの迫害を逃れてスイスに一家は亡命して映画は終るけれども、その後、実在のこの一家は、アメリカへ亡命してトラップ・ファミリー合唱団というグループで公演し大成功することになる。
またジョン・コルトレーン(John Coltrane、1926~1967年)は、アメリカノースカロライナ州生まれのモダンジャズのサックス奏者。テナー・サックスをメインとする。活動最初期はアルト・サックス、1960年代よりソプラノ・サックス、最晩年にはフルートの演奏も残した。
活動時期は、1950年代のハード・バップの黄金時代から1960年代のモード・ジャズの時代、さらにフリー・ジャズの時代と、それぞれの時代に大きな足跡を残した。
長い間、コルトレーンは無名のままで、第一線で活躍した期間が10年余りもあったが、自己の音楽に満足せずに絶えず前進を続けて、マイルス・デイヴィスと並ぶ20世紀のジャズ界の最大のカリスマと今ではなった大きな存在である。
私のお気に入り(my favorite things)
http://youtu.be/odVCH7UVTOY